『元禄忠臣蔵・御浜御殿』
仁左衛門の綱豊卿は、孝夫時代からの当り役(私も昭和62年4月に初めて見た際、大いに感銘を受けた)だけに、万全。さらに巧くなっている。情味の濃い、柔らかみのある、心理表現の細かい綱豊。昨年11月国立劇場での梅玉とは対照的。正直なところ今の私には、梅玉の方がこの役の理想像に近い。仁左衛門だと、微妙に“わかりやすすぎる”(どういう人物像として描こうとしているのかが)感じもあって。ま、このあたりは見る者の好みということで。
助右衛門は初役の染五郎。思いっきりのよい、熱演だ。よく読み込まれてもいる。が、まだちょっと若侍っぽくて違和感も。今後経験を積んでいけばこの役は自分のものになるでしょう。
『盲長屋梅加賀鳶』
幸四郎の梅吉&道玄。幸四郎の黙阿弥物としては違和感が少ない。小器用なところがそれなりに活きる。が、やはり軽みに欠けてかったるい感じがつきまとう。
吉右衛門が松蔵に起用されたことで、今回のこの芝居は救われた。「木戸前」も「お茶の水」も「質見世」も、幸四郎との“兄弟競演”はすべて吉右衛門が攫っていった感じ。なんというか、芝居の高揚感を出す術を心得ておる。
『船弁慶』
染五郎が二度目とのことだが、まだまだ、でしょう。特に、前段の静は。振りをなぞってるだけに見えてしまう箇所がある。船弁慶は、現代の決定版ともいうべき富十郎のものを何度も見て頭に焼きついているものだから、どうしても他の役者の時には評価が厳しくなってしまうのだが。知盛の霊の、動きは良い。途中、薙刀が壊れるというアクシデントもあったが、常に力感漲る鮮明な所作は気持ちがいい。幸四郎の弁慶は、さすがに存在感が大きく、手堅くやっていたので良し。
染五郎は、先月の演舞場に続く大役ラッシュだし、さらに今月昼の部では長男・藤間齋(2歳)の「初お目見得」があるし、充実していて結構ともいえるのだろうが、しかし忙しすぎなのでは。一つの役に集中し、掘り下げ、自分の物にしていくための十分な時間がとれれば、助右衛門にしても船弁慶にしてもさらに一段上の出来栄えを示せたかもしれない。
他、芝雀が「御浜御殿」のお喜世、「船弁慶」の義経ともに上々で、このところの進境著しさを示した。
きりん舎さんのブログにも良い感想文が載ってるぞ。
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