歌舞伎座・夜の部へ。
正月興行らしく盛りだくさんで(特別料金だが)、全体的に楽しめましたよ。
幕開きの「廓三番叟」からしてさっそく堪能。いやはや雀右衛門の風姿、風格。やはり足の調子が思わしくない様子だが、もうそこに居るだけで光彩を放つ、そんな境地。対して富十郎の踊りは健在、ほんとうに面白い。雀右衛門86歳、富十郎77歳、まさに人間国宝の名にふさわしい至芸。今後も末永く楽しませてまらえますように。
孝太郎の手の動きが妙に細かく柔らかく、良い意味でちょっと気になった。今後、個性として活かしていけるかも。
「金閣寺」は、この狂言としては久々に楽しめる大芝居となった。特に吉右衛門の東吉と玉三郎の雪姫が良かった。両者とも台本の読みが深く、一挙手一投足が緻密に考え抜かれており、それを隙なく表現しきれる技術が凄い。較べて幸四郎の大膳は、柄の立派さは得難いものだが、その場その場の効果のための演技にとどまっている感がある。それでも昼の部の弁慶よりは余程良いが。直信に梅玉、軍平に左團次を配し、竹本にも熱気があり、どこをとっても楽しめる「金閣寺」だった。
勘三郎の「鏡獅子」、私は昭和62年1月から何度も何度も見ているけど、今回が最も良かったかな。大曲舞踊での勘三郎の良い時は、隅々まで正しく踊りぬこうとする意志の力がびんびん伝わってきて心打たれるのだが、今回はさらに一段上の境地に来たのか、自然体の良さ流れの良さが加わった。媚びない勘三郎は、やはり良い。引っ込みも過剰な思い入れがなく、却って獅子の精が見えんばかりだ。後シテも気合充分。力みがないから、決まりの形が実に美しい。幕切れの最後の最後、片足立ちでのぐらつきがやや目立ったのが惜しい。
最後に「切られお富」。「切られ与三」の書替え物ですね。意外や久しぶりに出たようで。私にとっては平成4年1月国立劇場以来。その時の宗十郎が懐かしくなってしまった。今回の福助はちょっとやりすぎ。役作りの積極性は買うけど。橋之助、歌六、弥十郎と周りはまずまず揃っていた。高麗蔵のお滝が意外に突っこんだ演技が出来ていて、収穫。
年頭の芝居が良いと、今年もますます歌舞伎が面白いぞ、との気にさせてくれるものだ。年初めの月に見出した今後のお楽しみは数々あるが、一つあげるなら、やっぱり今年も吉右衛門を軸にした座組での、古典歌舞伎の、本格の、大きな芝居に期待が高まる、ということで。
camera: Fuji NATURA BLACK F1.9 film: Kodak MAX beauty400