越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

「死者」のいる風景(第二話)

2010年07月21日 | 小説
「死者」のいる風景(第二話)メキシコ・パッツクアロ
越川芳明   

 メキシコシティから北西に長距離バスで七、八時間ほどいったミチョアカン州に、おびただしい数の蝶が冬の寒い時期に木にへばりついて越冬するする森があるという。

 渡り鳥ではない、蝶である。

 帝王(モナーク)と名付けられたマダラ蝶たちは、毎年春になると、中央メキシコの森の中から旅立ち、国境地帯のサンディエゴの上空を通りすぎて、北のカナダのほうまで何千キロにもわたって旅をする。

 彼らの寿命はたったの三、四週間と短い。だから、旅をしながら空中で交尾して、葉の上に卵を産む。

 生をうけた子供たちは陸上競技のリレー選手のように、血族のバトンをつないで旅をつづける。

 秋になると、今度は三、四世代若い蝶たちが祖先の越冬した森の木のもとへと戻ってくる。
 
 そんな渡り蝶たちの故郷の近くに、パッツクアロという小さな町がある。

 両脇にぎっしりと小さな家がたち並び、車が一台通れるかどうかの狭い坂道が迷路のように入り組んでいる。

 丘の頂上に修道院を改造したホテルがあり、レストランの大きな窓から下のほうを見ると、家々の日干しレンガ造りの屋根が、まるでイタリアのフィレンツェのそれのように、鮮やかなピンク色に栄える。

 僕は、ある夏に訪れて、町の素朴な雰囲気が気に入った。

 その町で知り合ったプロの観光ガイドのロドリゴが、秋風の吹く頃に祝うと教えてくれた「死者の日」の祭りにも出かけてみた。(つづく)
 
 
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