越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

死者のいる風景(第二話)2

2010年07月22日 | 音楽、踊り、祭り
 十月三十一日の夜から二夜にわたって、メキシコでは「死者の日」の祭りを祝う。

 十六世紀のはじめ、エルナン・コルテスに率いられたスペイン軍がやってきて、そこから土着の先住民たちのカトリックへの改宗がはじまったが、圧倒的に異なる二つの信仰のぶつかり合いの中から生まれたものがメキシコの「死者の日」。

 七世紀からあったといわれるローマカトリック教会の万霊節(煉獄にいる死者の罪を浄めるお祭り)と、新大陸の土着の先住民たちの先祖信仰(ご先祖様が神様という発想)が合わさった、きわめてハイブリッドなイヴェントだ。

 「死者の日」には、ちょうど日本のお盆のように、先祖の霊が現世に戻ってくるので、お墓でお迎えするのである。

 パッツクアロ湖の中にぽかりと浮かぶ小さな島がハニツィオという先住民百パーセントの島だ。フェリーに乗って二十分足らずで、その島に着いてしまう。

 乗り合わせたメキシコ人の若者たち(とりわけ、女の子)が手拍子を取りながら、陽気な歌を歌って、祭りの気分は、嫌がおうにも盛り上がる。

 桟橋から墓地へとつづく狭い坂道の両側に、食堂や土産物屋が並んでいた。

 食堂に入り、そこの名物である魚の唐揚げをつまみにビールを飲んだ。

 蝶の羽の形をした漁網を使った先住民独特の漁法で捕らえられた、チャラレスという名のワカサギに似た魚だった。
 
 しかし、評判のハニツィオ島の墓地は崖っぷちにあって、意外と小さい。

 しかも、墓地に集う住民も、観光客ずれしていて、カメラを向けると、金をねだられる。

 でも、それも仕方ないかもしれない。彼らにとっては、年に一度の現金収入獲得の大チャンスなのだから。
 
 ハニツィオ島に比べて、真夜中の二時頃に行ったパカンダ島は、意外な穴場だった。

 墓地の入り口では、お年寄りたちが訪問客に酒やお茶を振る舞っていた。

 土葬の墓もただ石を置いただけの質素なものだった。

 飾り付けもロウソクとわずかな花だけで、まるで怪奇映画の一シーンを見ているかのように、幻想的な雰囲気があたり一面に漂っていた。

 昼の間に、ロドリゴに連れられてフェリーの艀のあたりを歩いていると、季節はずれの蝶々が舞っていた。

 「俺たちにとって、蝶は先祖の魂なんだよ」と、ロドリゴが言った。

 それから、黄色いマリゴールドで飾りづけた得体の知れない四角いやぐらを指さした。「その飾りつけも、帰ってくる先祖たちのための目印なんだ」
(『Spectator』2010年7月21日 )
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