越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(24)

2015年09月30日 | サッカー部長日記

9月26日(土)  

蘇我市のフクダ電子アリーナ。J2のジェフユナイテッド千葉のホームスタジアム。ジェフといえば、2012年度に明治がインカレで初優勝したときの正GK高木俊選手が、いま所属しているチーム。

そういえば、蘇我駅の壁に選手たちの紹介写真が貼ってあった。なぜ高木選手を知っているかというと、1月上旬の決勝戦(相手は九州の雄、福岡大学。エースの永井謙佑選手=現名古屋グランパスは、ユニバーシアードかオリンピック代表戦で欠場)を国立競技場に観にいって、高木選手の華麗な守備に魅せられたからだ。あとで、文学部の臨床社会学の大畑ゼミに所属していることを知って、その動向が気になるようになった。

それはさておき、明治の試合でもなければとても行かないようなところに、最近はよく行く。この蘇我もそのひとつだ。先週の竜ヶ崎ニュータウンもそうだった。来週の東総競技場(旭市)もそうだ。毎週、プチ旅行しているような感じである。後期は、その他にも、茨城県古河市や埼玉県川越市での試合が控えている。  

さて、きょうの試合は、明治サッカー部のOB八城修さんが監督を務める桐蔭横浜大学。いまリーグ戦の下位に低迷しているが、夏の天皇杯予選では、専修大を破って本戦に進み、Jリーグの湘南をあと一歩まで追いつめたらしい。  

前期リーグは、明治が1点リードしていながら、あっけなく同点にされてしまい苦い経験を味わった。きょうは、すんなり勝ちたいものだ。相手が八城さんと言えども手抜きはできない。  

試合開始直後、桐蔭が攻め込み、早くも1分に右コーナーキックを得る。それを凌ぐと、こんどは明治にチャンスがめぐってくる。最近絶好調の瀬川祐輔(政経4)が左から持ち込んで、クロスをあげる。8分と13分に、瀬川からゴール前の和泉竜司(政経4)にパスが通り、和泉がうまくゴールを決める。先週、PKを外しているので、和泉は気持ちが入っている。その後も、瀬川、差波優人(商4)、柴戸海(政経2)らがシュートを放ち、攻めつづける。

27分、相手DFのミスを見逃さず柴戸がボールを奪う。それが和泉に渡り、きょう3点目のゴール。  

後半は、一転して、桐蔭が高いところからプレスを掛けてきて、明治は受け身にまわる。7分、早坂がジャンプして相手選手と競ったが、押したとの判定を受け、PKを献上。それまで楽勝ムードだったが、ここで1点取られると、流れが向こうに行きかねない。幸い、相手選手のPKは右ポストを直撃し、ゴールにはならなかった。

後半7分に早くも足首を痛めた藤本佳希(文4)の代わりに、岩田拓也(商3)を投入。16分には、道渕諒平(農3)の代わりに、櫻井敬基(政経2)を投入。攻めを加速させようとするが、シュートまでたどりつかない。

しかし、後半31分ようやく、差波のパスを瀬川がスルーして、またもや和泉がゴールを決めた。後半はこれが1本目のシュートだった。  

試合は、4−0で快勝だった。が、後半の攻めは、中だるみの印象を受けた。果たして選手たちは全力を出し切っていたのだろうか。  

トーナメント戦は結果がすべて、とにかく勝ち残ることが大事。だが、リーグ戦は、つねに次の試合があるので、勝っても(負けても)内容をあとで分析して、次週に活かすことが肝要。相手もビデオを撮って研究している。  

来週は、神奈川大*である。手綱をしっかりにぎって、一戦必勝で行きたい。

 

*神奈川大は、下位に低迷しているが、日曜日(27日)の試合で首位の早稲田に2-1で勝った。あなどれない相手である。

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ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(23)

2015年09月21日 | サッカー部長日記

9月19日(土)

 茨城県の竜ヶ崎にある「つちのこフィールド」。きょうは、第1試合で、順天堂大学との対戦がある。

 近隣の常総市では、鬼怒川の堤防決壊で、大変な被害が出ている。常総市や竜ヶ崎も含めて、筑波の近辺は有数の米どころ。川の水は米作りに欠かせない神の恵みだが、いったん暴れると農家を殺す凶器にもなる。

 フィールドの向こうの空には、灰色の積乱雲が浮かぶ。ときどき太陽が顔を出すと、蒸し暑い。

 きょうは、丹羽詩音(文3)と櫻井敬基(政経2)のフレッシュなフォワード二人がサブながらメンバーに名を連ねる。ともに大柄で、Iリーグでの活躍を認められた模様。丹羽は、春先、Iリーグの副審なども真面目にこなしている姿が印象的だった。櫻井は、栗田監督によれば、スピードがある選手とのこと。楽しみである。

 試合は、順天堂がメンバーを若手主体で編成。1、2年生8人を抜擢。4年生は、DFのエース新井一輝(横浜マリノスの強化指定選手)ほか3名しかいない。

 明治は、対照的に3、4年生が主体。ディフェンスに久しぶりに山越康平(法4)が戻ってきた。GKを含めて、すべて3年生のディフェンス陣をまとめる。相手のセットプレイのとき、新井選手を山越がマーク。これは明治にとってずいぶん助かる。中央大にも現在得点王のヘディングの強い矢島輝一選手がいて、前期は彼に2点取られて負けているので、中央大戦でも山越の活躍が鍵となるだろう。

 さて、試合は明治の快勝だった。確かに、あやうく失点をしそうになったシーンもあり、バー直撃のシュートも打たれたりしたが、全体的に明治が主導権を握り、落ち着いてゲームを進められた。前半18分、ゴール前のパスまわしから、相手の陣形を崩して、瀬川祐輔(政経4)の惜しいシュートがあった。瀬川はミドルシュートのほうが得意かもしれないが、これは決めてほしかった。

そこから流れが順大に行きかけた前半40分、和泉竜司(政経4)がゴール前で相手ディフェンスを十分引きつけて藤本佳希(文4)へパス。藤本は苦もなくゴールを決める。藤本は、後半25分にも、右からドリブルで中に切り込んだ道渕諒平(農3)のパスを受けて、楽々ゴールを決めて、この日2得点の大活躍。ともに、アシストの二人がいいパスを出してくれた、いわば「ごっつあんゴール」。だが、FWは得点をイメージできる場所にいることが大事。藤本は2度共そうしたポジションにいたから偉い。

 後半28分に和泉がPKエリアで倒され、相手選手にはレッドカードが出た。和泉のPKは惜しくも、GKに阻まれたが、試合は2-0で快勝。

 欲を言えばキリがないが、瀬川と和泉のシュートで、4-0で勝てたかもしれない。逆に言えば、前半30分、藤本の先制点より早く順大のゴールが決まっていたら、焦りもあり1-0で負けていたかもしれない。それくらい、サッカーは水ものである。

 去年は、勝点差で並んだものの、得失点差で専修大に及ばず、準優勝で終わった。この教訓を生かして、得点については、もっと貪欲になってほしい。

 この試合のMVPには、2ゴールをあげた藤本ではなく、最後までディフェンス陣を鼓舞しつづけた山越が選ばれた。二人を筆頭に、久しぶりにボランチの差波優人(商4)も出て、4年生のがんばりが勝利を生んだと言える。この調子で、4年生がチームを引っ張っていってほしい。

 ともかく、勝点3をもぎとった。試合前、栗田監督はこのゲームがリーグ戦の転換点(ターニングポイント)になる、と檄を飛ばしていた。確かに、きょう負ければリーグ優勝は絶望的になっただろう。きょう勝ったことで、先週の暗い雰囲気を払拭し、上昇気流に乗っていけるだろう。

 監督は試合後に「よい誕生日プレゼントをありがとう」と、選手たちにお礼を言った。その前に、応援席の選手からも「ハッピーバースディ」の歌で祝福された。

 首位の早稲田は後期3連勝と波に乗る。勝点差は6。これ以上引き離されずに付いていこう。最後に、笑えばいいのだ。

 

試合後、応援席に向かう選手たち

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ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(19)

2015年09月17日 | サッカー部長日記

8月12日(水)

 夜の6時より長居フィールドで、3回戦の東洋大戦があった。

 お昼すぎにホテルから四天王寺まで20分ほど歩き、明治の必勝祈願をした。四天王寺は、聖徳太子が建立したと言われている古いお寺。境内には櫓(やぐら)が建っていて、ちょうど、きょうの夜には盆踊りがあるようだ。河内家菊水丸が出演するとのぼりに書いてあるではないか。

 いちど、河内音頭を生で聴いてみたかった。しかも、河内音頭の名人、菊水丸師匠の音頭である。しかも、場所は、原日本の風景が幻視されるかもしれぬ、四天王寺である。

 中沢新一の名著『大阪アースダイバー』によれば、盆踊りには古代人の思考が宿っているという。

 「夏至を中に含む真夏の頃、昼と夜の長さが極端にアンバランスになる季節には、死者の霊が生者の世界に大挙して訪れてくる、と考えられた古代から、人々は広場に集まって、音頭取りの乗る櫓を中心に、円陣をつくって踊りを踊った。生者と死者が、いっしょになって環を描きながら踊るのである。それは仏教行事などがはじまるよりも、ずっと昔からおこなわれていた、この列島の真夏の祭りであった」(49-50頁)

 さらに、中沢新一によれば、河内音頭の中でも有名なのは、「俊徳丸(しゅんとくまる)」の物語らしい。内容は、長者の息子、俊徳丸と、別の長者の娘、乙姫とのあいだの悲恋と再会。俊徳丸の母が亡くなり、父が後妻をめとると、後妻は自分の子を跡取りにしようと、俊徳丸に呪い(丑三つ参りをして、わら人形に5寸釘を打って)をかける。その呪いによって、俊徳丸は足腰が立たなくなり、しかも盲目になってしまう。

 「父親はしかたなく、病気の俊徳丸を四天王寺に捨てた。四天王寺はそのような場所として知られていたからである」(中沢の同掲書、52頁)

 しかし、「弱法師(よろぼし)」となった俊徳丸のことを知る乙姫は、四天王寺にたどり着き、感動的な再会を果たす。二人は清水寺に参って、呪いを解いてもらう。病気の癒えた俊徳丸は乙姫と結ばれ、有徳の人となる。後妻には報復が与えられる。

 こうした物語をゆっくりゆっくり語り聞かせるように歌うのである。その歌を聴きながら、環を組んで、同じテンポで延々と踊るのである。

(写真:四天王寺の盆踊り 8/12/15)  

 さて、東洋大戦は、ユニバーシアードに出た、FWのエース和泉竜司(政経4)も右サイドバックの室屋成(政経3)も欠場。脚を負傷したFWの木戸皓貴(文2)の代わりに土居柊太(政経2)、初戦に唯一の得点を挙げた富田光(文1)の代わりに小谷光毅(政経4)、ボランチの差波優人(商4)の代わりに、伊池翼(商3)、右サイドバックには室屋の代わりに鈴木達也(商4)が入った。

 (写真)ミーティングで綿密な指示をだす栗田大輔監督(手前)と三浦祐介ヘッドコーチ

  しかも、彼らがはじけたような大活躍をしてくれた。前半は0-0で折り返すも、後半4分には、藤本が右に抜けでて、サイドライン近くからセンターで折り返し、詰めていた小谷がうまく体を回転させて、左足でシュートを放ち、ゴールを決めた。アミノバイタルの朝鮮大学戦、天皇杯予選の国士舘戦を彷彿とさせる小谷の瞬間芸だった。さすが4年生である。

 その後、18分には藤本がキーパーと一対一になり、落ち着いてゴールを決めて2点めをもぎとる。さすが4年生である。

 鈴木も室屋の代役というより、前半は攻撃で、後半は守備で輝きを放ち、っなんども未然にピンチを防いだ。さすが4年生である。 

 初戦を休んだ左サイドバックの高橋諒(文4)は、東洋の右からの攻撃を完全に押さえ込み、何度もボールを奪って、FWへフィードするなど、すばらしいできばえだった。さすが4年生である。

 DFを統率する小池佑平(経営4)は、最初から最後まで、声を出しつづけ、バックスだけでなく、フォファードとも守備の連携を取りまとめた。さすが4年生である。

 このところ、持ち味の俊足をいかんなく発揮してグラウンドを所狭しとかけまわっている瀬川祐輔(政経4)、きょうも右から飛び出しをかけて、鈴木のフィードに反応。栗田監督や三浦コーチからは、失敗しても何度もしかけろ、相手は嫌がるから、と檄が飛ぶ。さすが4年生である。

 確かに、前半40分に、キーパー服部一輝(商3)が不用意な反則を犯して、ゴール前で間接フリーキックを与えて先制点を取られそうになり、そこから前半終了まで東洋大の時間帯になった。また、後半も最後に東洋のチャンスがありはしたが、全員が体を張って凌ぎきることで、相手を完封することができた。全員で守れば、そう簡単に点を取られるものではない。守備の時間帯に、割り切って我慢できるか。連続2試合の失点ゼロで、徐々に守備が安定してきることが証明されるかもしれない。次は、14日6時からヤンマースタジアムで、流通経済大学戦である。春のリーグ戦では、三苫元太(政経4)の終了間際のゴールで引き分けに持ち込んだが、ほとんど負け試合であった。フィジカルな試合をしかけてくる相手なので、フィジカルで負けないだけでなく、きょうの試合のように、メンタルでも勝って、決勝に進んでもらいたい。

 個人的な事情になるが、14日夕方には、成田をたってキューバに向かい、当地で一カ月ほどアフロ信仰の調査をおこなう。栗田監督をはじめ、スタッフの皆さんには「自分の魂」はチームと一緒にいる、と12日の試合のあとの食事会で伝えた。飛行機の中から、カリブ海の島から応援を送りたい。

 

おまけ;京山福太朗「河内音頭:十人斬り」

貧乏人の熊太郎が、貧乏のため別の男に女房おぬいを取られ、しかも間男(うわき)した男の兄にあたる松永の親分に貸した金も返してもらえず、その親分一家に仕返しをする物語。 物語の途中、女房おぬいの母おかくばばあによる叱責というか逆ギレがあり(お前が甲斐性なしだから、女房が間男するんじゃ。わしの頃は30人ぐらい間男がいた!と)面白い。また、死んだ父親によるアドバイス(いくら頭よくても、貧乏していると、世間から馬鹿にされる。酒や博打や女もいいが、いざと言うときにモノを言うのはカネや!)を思い出し、「親の説教と冷酒は、ゆっくりあとで効いてくる」と述べる件もいい。どうぞ最後まで聴いてみてください。

 

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ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(22)

2015年09月17日 | サッカー部長日記

9月13日(日)

 久しぶりに西が丘サッカー場に足を運ぶ。13時50分より、対早稲田戦があった。前期は2-1で負けている相手なので、選手も気合いが入っているだろう。

 先発メンバーには、DFに巽豪(法3)、右サイドバックに鈴木達也(商4)、左サイドバックに川面旺成(政経3)、ボランチに伊池翼(商3)など、フレッシュな顔ぶれがならぶ。

 試合は前半35分、早稲田が左コーナー近くから繰り出した低いセンタリングを、すばやく詰めた選手が足で合せて先取点を取る。明治にはいやなムード。

 だが、その6分後に、瀬川祐輔(政経4)が俊足を活かして右から斜めにドリブル突破して、そのままシュートを放つ。見事にゴールを決めて同点とする。瀬川は元から潜在能力が高い選手だったが、このところ吹っ切れたように大活躍中。顔つきも変わってきた。

 次の1点をどちらが取るか、後半は一進一退がつづく。残り時間あと10分までに、両チームとも3人の交替枠をフルに使って、最後の勝負に出る。明治は交替で入った道渕諒平(農3)、岩田拓也(商3)、土居柊太(政経2)がそれほど目立った働きを見せられなかった。一方、早稲田は後半40分に交替で入った中山選手がヘディングで決勝ゴールを41分に決めて逃げ切った。

 きょうは、早稲田がよく走り、明治は相手に楽しくやらせすぎたかもしれない。ピッチ内の声の連携も早稲田のほうが多く、統率がとれていた。

 とはいえ、明治も攻撃では瀬川、ボランチの柴戸海(政経2)、伊池らの動きが光っていた。やはり2点失点したので、守りの安定が第一かもしれない。膝の故障で春のリーグを棒に振った山越康平(法4)の一日も早い復帰が期待されるが、11月までの長丁場、まだ悲観することはない。

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映画評 パトリシオ・ グスマン監督『真珠のボタン』

2015年09月15日 | 映画

二つの「ジェノサイド」を隠喩的に結びつける --パトリシオ・グスマン監督『真珠のボタン』

越川芳明  

太平洋をはさんで日本と遠く斜めに向き合う南米のチリ。国土は南北に細長く、面積は日本の二倍である。それに比して、人口は日本の十三パーセントにすぎない。  

「西パタゴニア」と呼ばれるチリの南端には、フィヨルドの中を自然の水路が網の目のように走り、ティエラ・デ・フエゴ島をはじめとする数々の島が点在する。  

そうした群島には、一万年前から人類が住んでいたという。  

彼らは海洋民だった。島の中に町を作ることなどしなかった。小さなカヌーを作って櫂を操り、帆を立てて、水路をあちこち移動して、食料となる魚介類を取って暮らしていた。  

五つの部族が知られている。カウェスカル族、セルクナム族、アオニケン族、ハウシュ族、ヤマナ族だ。もちろん、南極に近い彼らの生活圏では、厳しい自然(暴風雨、飲み水不足など)と対峙しなければならないが、それでも、海は彼らには家族の一部であり、敵ではない。  

十九世紀のパタゴニアには、まだ八千人の先住民が住み、三百艘のカヌーがあったという。特にオリオン座と南十字星を崇め、星座を読む(宇宙の中で自分の位置を確かめる)能力にすぐれていた。彼らの魂は死後に星になるという信仰があった。

二十世紀の初めに、あるオーストリア人司祭が撮ったセルクナム族の「ボディペインティング」の写真には、男女の裸体に白い点や線で表わした図が描かれている。現代詩人のラウル・ズリタは、「宇宙に自分を近づけるための手段だった」との仮説を述べている。  

パタゴニアの先住民は「神話の時間」に生きていたと言えるかもしれない。

「神話の考えるところによると、私たち人間もほかのすべての生き物と同様この地球上を仮の住まいとしているだけで、ときがいたればそこから消滅していくことだってありうる(中略)、宇宙の中ではいたってか弱い存在にすぎないのです」(中沢新一『人類最古の哲学』24ページ)

グスマン監督は、レヴィ=ストロースが『野生の思考』の中で、先住民の思考の特徴だと述べた「神話的思考」を実践する。レヴィ=ストロースによれば、「神話的思考とは、一種の知的な器用仕事(ルビ:ブリコラージュ)である」が、グスマン監督は、チリの海を舞台にした時代の異なる二つの「ジェノサイド」を「ブリコラージュ」で一つに結びつける。ある意味、想像力を駆使した隠喩的な手法と言える。  

一つ目は、いうまでもなく、一六世紀に始まるヨーロッパの植民地政策である。ポルトガル、オランダ、イギリスなど、ヨーロッパ諸国が軍隊、教会関係者、民間人をパタゴニアに送り込み海路を切り開く。「インディアン狩り」などをやって、先住民のある部族を絶滅させる。  

十九世紀初頭に象徴的な事件があった。イギリスのビーグル号の船長ロバート・フィッツロイは、一八二六年から三〇年までの「南米航海」においてこのパタゴニアに旅をしているが、四人の「野蛮人」をイギリスに拉致した。船長のもくろみは、「野蛮人」を「文明化」することだった。そのため、「野蛮人」の一人の家族には、「真珠のボタン」を代金として渡した。そので、その男は「ジェミー・ボタン」と名づけられた。本作のタイトルはそこから採られている。ジェミー・ボタンは、一年後にパタゴニアに戻されるが、イギリスで培った「教養」や「産業文明」をかなぐり捨てて、パタゴニアの自然に戻ったという。  

二つ目は、チリにおける「9/11」である。一九七三年九月十一日、ピノチェトによる軍事クーデターによって、アジェンデの民主政権が倒された。米国CIAが加担したその後のピノチェトの独裁政権下で、アジェンデ政権下の大臣やその支持者などが軍によって拉致され、拷問や虐待を受けたり殺されたりした。殺された者の行方は分からなかったが、約千四百の死体が海に捨てられたという。死体を鉄道レールに縛りつけて、ヘリコプターや船で海に捨てたという証言がある。最近、浜辺に死体が打上げられたり、海の底で錆びたレールが発見されたりしている。象徴的なのは、殺された人のものだと思われる真珠のボタンが腐食したレールに張り付いていたことである。ピノチェトの軍隊は、殺人を隠そうとして海に死体を投げ込んだが、この一件が示唆するように、まさに「海は語る」のだ。  

『カオスの自然学』の著作もあるドイツの学者、テオドール・シュベンクの言葉が映画の中で引用されている。「人間の思考の原理は水と同じで、あらゆるものに適応できるようにできている」と。独断的な思考に囚われた植民地時代と独裁時代とを一気に結びつける水の流動性(思考の柔軟性)をこの映画は有する。

グスマン監督は、「失踪」とか「拉致」といったテーマに執拗にこだわる。数々の映画祭で絶賛された『光のノスタルジア』(2010年)でも、北部アタカマ砂漠で、ピノチェト独裁政権による「ジェノサイド」の犠牲になった家族がその親族の遺体を小さなシャベルで捜す絶望的な映像が印象的であった。  

本作もまた、独自の詩学と倫理を兼ね備えた優れたドキュメンタリー映像作家監督の力作である。

*『すばる』(集英社)2015年10月号、p.400-401

公式フライヤー

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ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(21)

2015年09月15日 | サッカー部長日記

8月17日(月)

 いま、泊まっているのはハバナのセロという地域で、近くには「ラティーノ」という愛称で地元の人々に愛されているスタジアムがある。ハバナのプロ野球のチーム・インドゥストリアレス(リオネス)の本拠地である。

 インターネットをやるには、かなり離れたセントロ地区の外国人向けのホテルに行かねばならない。そこだと、1時間10ドル(1300円)でWi-Fi(無線ラン)を使える。

 15日、16日と儀式に追われて、ホテルに出向く時間がなかったが、きょうは午前中、何もない、とアフロ信仰の師匠(パドリーノ)が言うので、ノートパソコンをリックに入れて、ヨーロッパ人がよく泊まるサラトガ・ホテルに行った。2階のレストランは吹き抜けになっていて、クーラーも効いていて、テレビはサテライト放送で、MLBやMBA(アメリカのプロ野球やプロバスケット)や、ヨーロッパのサッカー、世界で発信されたあらゆるニュースを流している。唯一、キューバ市民が見ている国営放送だけはここでは流れていない。観光客は熱帯のリゾートに遊びにきたのであって、キューバ市民がどんな生活をしているのか、どんな考え方をしているかなどには興味はないから。

 それはさておき、早速ネットに入りメールをチェックする。数日のあいだに溜まっていたジャンクメールをゴミ箱に捨て、明大サッカー部関係者のメールをチェック。井澤GM、神川総監督、栗田監督、主務の西原天童君(政経4年)に返事を書く。

 総理大臣杯の決勝の相手は、関西学院大学だった。西の第一シードで、東の明治は東の第一シードなので、いわば、東西の横綱同士の取り組みになったというわけだ。

 試合は、後半の最後のほうに先に関学に得点を入れられて、準優勝で終わったとのこと。詳しい戦況は、全日本大学サッカー連盟や明大スポーツの公式ホームメージに書いてあると思うので、そちらを参照してほしい(あとで参考にしたい)。関学は、東京でおこなわれた昨冬のインカレでは、決勝まで進んだが、流通経済大学に1-0で負けているので、悔し涙を晴らすうれしい優勝になったはず。

 明大の選手諸君も、この負けの悔しさを秋のリーグ戦や、冬のインカレで晴らしてほしい。

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