長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ブレンダンとケルズの秘密』

2017-08-31 | 映画レビュー(ふ)


 昨年、『ソング・オブ・ザ・シー』でようやく日本初紹介されたトム・ムーア監督の2009年作。
遥か昔、バイキングの侵略を恐れた修道士たちは巨大な壁を建造し、独自のコミュニティを築いていた。孤児のブレンダンは修道院長でもある厳格な叔父の下で育てられてきたが、わんぱく盛りだ。ある日、バイキングに追われた修道士エイダンがやって来る。200年間未完の本を記し続ける装飾師の彼に惹かれ、ブレンダンはインクを求めて壁の向こうの森へと向かう…。

ここまでの字数からもお分かりのように、続く『ソング・オブ・ザ・シー』同様、トム・ムーア監督作品はアニメーション作品としてまだまだ“口数”が多い。美しいアイリッシュサウンドと囁くようなモノローグから始まるイントロの神秘性は魅力的だがバイキングの侵略、叔父との対立、そして神話との邂逅とプロットが多く、絵だけで語り切れていないのだ。自他共にスタジオジブリ、宮崎駿作品からの影響を認めている監督だが、巨匠の作品の複雑さは決してプロットに頼ったものではなく、絵だけで多くを語るアニメーションアーティストとしての天才によるものだった。

そんなムーア監督は次作と共に神話の終焉をテーマとしている。両作ともアイルランドの民間伝承に材を取っており、『ソング・オブ・ザ・シー』では現代に生きる子供たちが神話の神々を西方浄土へと導き、本作では成長したブレンダンが書物を完成させる事で、神話の世界を過去のものへとする。

 その昔、人々は心の寄り辺を求めて神を想い生きてきたが、ムーアは現代の子供たちにそれらを乗り越える力強さを見出している。子供たちへ託されるその想いは御大ともに共通する理念だ。


『ブレンダンとケルズの秘密』09・仏、ベルギー、アイルランド
監督 トム・ムーア、ノラ・トゥーミー
 

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