演技部門の下馬評は固く、作品賞もおそらく『1917』で決まり、明日の中継は夜の字幕放送でいいか…なんてナメた事を言っていたら歴史的場面を見逃してしまった。韓国映画『パラサイト』がアカデミー史上初、外国語映画として作品賞に輝き、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を制したのだ。
風は吹いていた。本戦直結率の高いアメリカ俳優組合賞では作品賞に相当するキャスト賞を獲得。アカデミー会員で最も投票母数の大きい俳優票が原動力になったのは間違いないだろう。本命視されていた『1917』はプロデューサーが投票する製作者組合賞や、英国会員限定の英国アカデミー賞を制していたが、局地的な勝利だったのかもしれない(ゴールデングローブ賞にいたっては外国人特派員協会主催の賞であり、オスカーとは何の所縁もない)。また、オスカー前日に発表された低予算映画を対象とするインデペンデントスピリット賞では中国系移民たちが主役の『フェアウェル』が作品賞を受賞する番狂わせを演じており、ここにもハリウッドに拡がる多様性の風、アジアン旋風が感じられた。
多人種で編成されたプレゼンターの顔触れ等ショー全体の進行演出からもそんなアカデミー、ハリウッドの意思表示が伺える。2000年代以後、ハリウッド映画は国内市場だけで製作費の回収が不可能となり、中国市場を中心とした世界マーケティングに大きく依存してきた。国際的に新たな才能を吸収していこうという傾向はより顕著となり、昨年はメキシコ映画『ROMA』が最多候補に。オール黒人映画『ブラックパンサー』が作品賞候補に挙がり、オールアジアン映画『クレイジー・リッチ!』が大ヒットを記録するなど、土壌は変わりつつあった。そんな最中、ハリウッドに現れたのが『パラサイト』だったのだ。アートハウスとメインストリームを横断する本作の破格の面白さにハリウッドが脱帽した格好だ。
では不作だったのかというとそうではない。2019年のアメリカ映画は大豊作であり、作品賞候補群は興行的にも大ヒット作が並んだ。それでもなおアメリカ映画業界の賞であるオスカーに外国映画『パラサイト』を選んだのは大きな変革の意思表示ではないだろうか。この快挙が今後、外国語映画にも作品賞を争えるという大きな門戸を開いた事で、多くのクリエイター達が発奮する事だろう。
【作品別受賞結果】
『パラサイト』最多4部門
作品、監督、脚本、国際長編映画賞
通訳を介してもなお会場を沸かすポン・ジュノのユーモアと明晰さはさらに多くの映画人の心を捉えたのではないだろうか(通訳さんのレベルも異常に高い)。作品賞のスピーチ「韓国の映画ファンがここまで育ててくれた」には僕たち日本の映画観客も顧みる所は大きい。
また監督賞受賞の際にスコセッシ監督へリスペクトを表し、会場全体がスコセッシへ向けてスタンディングオベーションを送る場面は感動的だった。スコセッシ自身は渾身作『アイリッシュマン』が10部門で全滅。今なお衰えない巨匠だが世代交代を感じさせた。オスカーを受賞してもなお孤高の“無冠の帝王”である。
『1917』3部門
撮影、視覚効果、録音賞
作品賞の本命と目されたが、技術部門に留まった。最大の功労者である撮影監督ロジャー・ディーキンスは通算15回目のノミネートにして、『ブレードランナー2049』に続く2度目の受賞。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』2部門
助演男優、美術
プロデューサーとして既に作品賞ホルダーであったブラッド・ピットが演技賞で念願の初受賞。授賞式冒頭から今年のハイライトとなった。タランティーノ映画としてはクリストフ・ヴァルツに続く演技賞受賞者である。
『フォードvsフェラーリ』2部門
編集、音響効果賞
配給元の20世紀フォックスがディズニーに吸収され、おそらくろくなキャンペーン体制がなかった事はクリスチャン・ベールの主演男優賞落選からも伺える。受賞者たちの「おそらく20世紀フォックスでの最後の作品となる」「15年間、ジェームズ・マンゴールド監督が名匠へと成長する過程を見られて幸せだった」というコメントが印象的だった。
『ジョーカー』2部門
主演男優、作曲賞
作曲ヒドゥル・グドゥナドッティルはTVドラマ『チェルノブイリ』でも素晴らしいスコアを披露しており、今年はエミー賞も含めて独占した。
ホアキンはゴールデングローブでの泥酔・支離滅裂スピーチ以後、受賞に向けて調整してきたのか強い関心を持っている環境問題はじめ、素晴らしいメッセージを発信した。最後に亡きリヴァーの詩で締めてくれた事に泣いたファンも多いのではないだろうか。
他、『若草物語』(衣装)、『スキャンダル』(メイク)、『ジョジョ・ラビット』(脚色)、『マリッジ・ストーリー』(助演女優)が1部門ずつと分け合った。スタジオ別で最多候補となったNetflixは長編ドキュメンタリー賞他2部門に留まり、壁の高さを改めて実感した。
パフォーマンスでは俳優ウトカルシュ(不勉強なことに初めて彼を知った)のオスカー途中経過復習ラップや、さすがのビリー・アイリッシュによる追悼ソングが良かった。また『キャッツ』に出演したジェームズ・コーデン、レベル・ウィルソンが猫の衣装で「私達は視覚効果の重要性をよくわかっています」と捨て身の視覚効果賞プレゼンターをやったのには笑えた(視覚効果組合は「晴れ舞台で笑いのネタにされた」と遺憾の声明を発表)。
楽しい授賞式でした。来年こそ万難排してライブを見なきゃ!
【受賞予想編↓】
第92回アカデミー賞は例年よりも約1か月早い2月9日に開催される。賞レース期間の長期化がキャンペーン活動の悪質さを招くという懸念から早められたようだ。ここから本番に向けて予想の重要な指針となる各組合賞が矢継ぎ早に発表されるが、オスカー本番までの期間が短いという事は会員の投票意思が固定化せず、翻意もありえるという事だろう。まさにオスカーウォッチャーの腕の見せ所。今年も主要6部門を中心に見ていきたい。
【作品賞】
『ジョーカー』最多11部門候補
(作品、監督、主演男優、脚色、編集、撮影、衣装、音響、音響効果、作曲、メイク)
2019年最大の問題作。DCコミック『バットマン』に登場する悪役ジョーカー誕生秘話を描くスピンオフ…という表向きだが、コミック的要素はほとんどオミットされており、社会の下層に生きる青年が虐げられ、やがて狂気に陥っていく様が『タクシードライバー』や『ネットワーク』など70年代映画を彷彿させる筆致で描かれていく。ベネチア映画祭ではアメコミ史上初の金獅子賞を受賞。興行面でも世界的大ヒットを記録した。
『アイリッシュマン』9部門10候補
(作品、監督、助演男優×2、脚色、視覚効果、撮影、編集、美術、衣装)
巨匠マーティン・スコセッシ監督が長年温めてきた企画を配信大手Netflixが1億5千万ドル以上の巨額を費やして完成させた一大ギャングサーガ。スコセッシの盟友ロバート・デニーロ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、そして初参加となるアル・パチーノら“レジェンド級”のキャストが豪華結集し、まさに集大成的傑作となった。
『1917 命をかけた伝令』10部門候補
(作品、監督、脚本、視覚効果、メイク、撮影、美術、作曲、音響、音響効果)
『アメリカン・ビューティー』『007/スカイフォール』の名匠サム・メンデス監督による戦争映画。戦場を駆け抜ける伝令の姿を全編1カットで描くという驚異的撮影を名撮影監督ロジャー・ディーキンスが手掛けた。賞レースに照準を合わせたプロモーションが功を奏し、ゴールデングローブ賞での作品賞獲得後、全米で大ヒットを記録中。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』10部門候補
(作品、監督、脚本、主演男優、助演男優、撮影、美術、衣装、音響、音響効果)
1960年代終わり、マンソンファミリーによるシャロン・テート殺害事件を描くクエンティン・タランティーノ監督作。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットの豪華2大スターが共演し、全米サマーシーズンに大ヒットを記録した。当時のハリウッドを再現したプロダクションデザインに郷愁を呼び起こされるアカデミー会員も多いのでは。
『パラサイト 半地下の家族』6部門候補
(作品、監督、編集、脚本、美術、国際長編映画)
韓国の鬼才ポン・ジュノ監督が格差社会を描いたコメディホラー。既にカンヌ映画祭で最高賞パルムドールを獲得、全米の批評家賞でも作品賞を席巻した今年のダークホースだ。韓国映画としても初のノミネートとなる国際長編映画賞(旧外国語映画賞)の獲得はほぼ確実。全米では外国語映画の興行収入記録を塗り替える熱狂的ヒットを記録している。
『マリッジ・ストーリー』6部門候補
(作品、主演女優、主演男優、助演女優、脚本、作曲)
Netflixの今年もう1本の勝負作。今や名監督となったノア・バームバック監督が自身の離婚体験を基にした本作は“2019年の『クレイマー・クレイマー』”との賞賛を得た。残念ながらバームバックの監督賞候補は漏れてしまったが、ノリに乗っている主演2人、そしてアカデミー副会長の助演ローラ・ダーンら俳優陣のアンサンブルは最大の投票母数である俳優層に訴えるのでは。
『ジョジョ・ラビット』6部門候補
(作品、脚色、編集、美術、衣装、助演女優)
『マイティ・ソー/バトルロイヤル』を大ヒットさせた個性派タイカ・ワイティティ監督作。第2次大戦ドイツ、ヒトラーユーゲントの少年にはイマジナリーフレンドのヒトラーが見えて…というトンデモない内容ながら、昨年の覇者『グリーン・ブック』に続いてトロント映画祭観客賞を受賞。好感度では今年ピカイチ。
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 』6部門候補
(作品、主演女優、助演女優、脚色、衣装、作曲)
『レディ・バード』でアカデミー監督賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグ監督作。残念ながら監督賞候補から漏れた事で、さっそく男性ばかりのノミネートが批判の的になっている。シアーシャ・ローナンはじめ豪華女優陣のアンサンブルも好評。女性会員票の受け皿となるか。※なお本稿では以下『若草物語』と表記する。
『フォードVSフェラーリ』4部門候補
(作品、編集、音響、音響効果)
前作『ローガン』でアカデミー脚色賞候補にあがった名匠ジェームズ・マンゴールド監督作。1960年代のフォードとフェラーリの技術対立、ル・マンレースでの決戦を描く。レース映画は当たりにくい、というジンクスを翻す大ヒットを記録。残念ながら作品賞争いには程遠い位置だが、映画技術の粋を集めた音響、音響効果賞でトップを演じられるかもしれない。
【予想】
豊作と言われた2019年を象徴するラインナップだ。最多11候補の『ジョーカー』を筆頭に10部門で3作品、その次が6部門で4作品が拮抗というのは記憶にない大激戦である(これは『ジュリア』『愛と喝采の日々』が11部門、『スター・ウォーズ』が10部門で候補に挙がった1978年まで遡るという)。このどれもが興行的にも成功を収めているというのだから言う事なしではないか。
今年、予想を最も難しくしているのが前哨戦となる各批評家賞で一番人気となった韓国映画『パラサイト』の存在だ。既にカンヌ映画祭パルムドール受賞という箔は付いていたものの、ここまで全米の批評家賞を圧倒するとは思わなかった。ポン・ジュノ監督も各メディアに次々と顔を出す精力的なキャンペーンを展開し、その知的でユーモラスな人柄が話題となっている(英語を話さず、優秀な通訳を連れてのプロモーションはやはり同じスタイルで話題を呼んだ“こんまり”を思い出した)。本来ならば外国語映画はここまで評価されてもあくまで“外様”扱いとされる所だが、既にポン・ジュノはハリウッドで『スノー・ピアサー』『オクジャ』というオールスター映画を撮っており、地盤がある。さらに昨年、おなじく外国語映画『ROMA』が最多候補に挙がった事で外国語映画の地位も切り拓かれた(故の“外国語”映画賞から“国際長編映画賞”への改称だろう)。作品賞争いに必須となる編集賞、脚本賞でノミネートされているのも心強い。その完成度から受賞を応援したくなる映画なのだ。
この予想が成立するのも他作品には受賞の強みに対して“アカデミー賞らしくない”という不安要素も多数あるからだ。
大ヒット作『ジョーカー』は暴力的で、R指定。そしてついつい忘れがちだがアメコミ映画である。昨年『ブラックパンサー』が作品賞候補に挙がってようやく壁は崩されたが、作品賞獲得までの道程は容易くない。全米の批評家では賛否両論で割れた。作品賞は候補作に順位を付けて投票し、上位数パーセントの得票率である作品が受賞するという特殊な形を取っているため、多くの人が「1位」投票するとは考えにくい。
大ヒット作が多いという事は劇場にかからないNetflix映画は不利になる。やはり昨年の『ROMA』のおかげで門戸が開かれたものの、同時に“Netflix映画は映画なのか?”という困った議論も広がってしまった。『アイリッシュマン』は受賞すべき傑作であり、マーティン・スコセッシが『ディパーテッド』ではなく正当に賞を受け取るべき作品だ。しかし哀しいかな、そんな作品を製作できたのはハリウッドではなくNetflixだったのである。同社は今年スタジオ別で最多となる24候補を獲得。エミー賞などを見る限りでは本命を絞り込めずに主要部門を逃す傾向があり、ゴールデングローブ賞でも惨敗を喫している。さらなる強力キャンペーンを仕掛けてくる事だろう。
これら上記3作品は必須条件となる編集賞、脚本賞、監督賞ノミネートを獲得している事から先頭集団と言える。だがこれら不安要素もあるとなれば、昨年『グリーンブック』が監督賞ノミネートなしで受賞したデータも重要視すべきだろう。共に大ヒットを記録している『1917』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も勝算は十分だ。前者はオスカー直結率の高い製作者組合賞を受賞、後者は古き良きハリウッドを再現し、幅広い層にアピールするのではないだろうか。
受賞するだろう~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
受賞すべき~『アイリッシュマン』
受賞してほしい~『パラサイト』
【監督賞】
ポン・ジュノ~『パラサイト 半地下の家族』
初ノミネート
『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』など数々の傑作を手掛けてきた韓国映画界の鬼才。13年には『スノーピアサー』、17年にはNetflix映画『オクジャ』でハリウッドにも進出済み。韓国人としてのオスカー候補はもちろん初、アジア人としても史上4人目の監督賞候補となった。全米の批評家賞では作品賞、監督賞を独占する快進撃。
サム・メンデス~『1917 命をかけた伝令』
2回目のノミネート
監督デビュー作『アメリカン・ビューティー』でいきなりアカデミー賞を席巻した英国が誇る名演出家。既に演劇で成功を収めていたが、映画界進出後も『ロード・オブ・パーディション』『レボリューショナリー・ロード』『007/スカイフォール』など名作を手掛けてきた。今回は監督賞ほか、プロデューサーとして作品賞、脚本賞のトリプルノミネートを達成している。
トッド・フィリップス~『ジョーカー』
初ノミネート
『ハングオーバー!』シリーズなどを手掛けてきたコメディ映画の名手がDCコミックの悪役ジョーカーを主人公にしたスピンオフで圧倒的なイメージチェンジ。70~80年代の映画を思わせる見事なルックは最多ノミネートに結実した。世界興収は10億ドルを超える驚異的メガヒット。今年は作品賞、脚色賞との3部門ノミネートとなった。
マーティン・スコセッシ~『アイリッシュマン』
9回目のノミネート
アメリカ映画界が誇る巨匠。07年の『ディパーテッド』で念願の作品賞、監督賞を獲得しているが、今回の『アイリッシュマン』こそ賞に相応しい大傑作と思っている映画ファンも多いのではないだろうか。老いてもなおNetflixなど新たな技術を取り入れていく現在進行形の姿勢こそ巨匠たる所以だろう。今年は作品賞とのWノミネートである。
クエンティン・タランティーノ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
3回目のノミネート
今や名匠の域となったアメリカ映画界屈指の人気監督。既に脚本賞では2度受賞済み。今年も作品、脚本と合わせて3部門ノミネートとなっている。ノスタルジックな作品ながら、ディカプリオ、ブラッド・ピットら2大スターの力を借りて映画も大ヒットとなった。
【予想】
前哨戦実績ではポン・ジュノがリード。それをサム・メンデスが猛追している。従来ならば作品賞を占う分水嶺となる部門だが、今年は割れるのでは。ここ10年、監督賞は『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル以外はイニャリトゥ、ギレルモ・デルトロ、アルフォンソ・キュアロンらメキシコ勢が独占している事から、外国監督にも広く門戸が開かれている印象。『パラサイト』は作品賞がダメでも監督賞を取れる勝機がある。
受賞するだろう~ポン・ジュノ
受賞すべき~マーティン・スコセッシ
受賞してほしい~ポン・ジュノ
【主演男優賞】
アントニオ・バンデラス~『Pain and Glory』
初ノミネート
スペイン出身。同郷の名匠ペドロ・アルモドバルに見出され、スターダムを駆け上がりハリウッドへ進出。『デスペラード』などアクション映画で人気を博すも、メラニー・グリフィスとの離婚劇やB級映画への出演を経て近年はキャリアを持ち崩していた。アルモドバル『Pain and Glory』は監督の分身とも言える主人公を演じてカンヌ映画祭男優賞を受賞。キャリア復活となった。
レオナルド・ディカプリオ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
6回目のノミネート
今や押しも押されぬアメリカ映画界の名優の1人。長年、“無冠の帝王”と呼ばれてきたが2015年『レヴェナント 蘇りし者』で念願の主演賞を獲得。以後、休業状態にあったが復帰後早々にノミネートとなった。珍しくコメディ演技を見せているのも魅力。今回は相棒ブラピの引き立て役で終わるだろう。
アダム・ドライヴァー~『マリッジ・ストーリー』
2回目のノミネート
メジャーからインディーまで、アメリカ映画界の名匠に愛される個性派俳優。今年だけでも『ザ・レポート』『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』『ザ・デッド・ドント・ダイ』といった全く異なる作品に出演する八面六臂の大活躍。昨年の『ブラック・クランズマン』での助演賞候補に続く2年連続ノミネートとなった。前哨戦となる各批評家賞ではトップの勝率、初のオスカー獲りに挑む。
ホアキン・フェニックス~『ジョーカー』
4回目のノミネート
アメリカ映画界屈指の演技派俳優。08年『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じ死後、アカデミー賞を受賞したジョーカー役に挑み、圧倒的な怪演を見せつけた。アカデミー賞はじめ賞レース嫌いとしても有名で、先頃のゴールデングローブ賞では酔いどれたスピーチが話題に。その変人ぶりを厭わない票が入るか否か…。
ジョナサン・プライス~『2人のローマ教皇』
初ノミネート
御年71歳、英国映画界を代表する名優の1人。95年の『キャリントン』でカンヌ映画祭男優賞を獲得、ハリウッド映画でも脇を固めるバイプレーヤーとして重宝されている。近年は人気TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のハイスパロウ役でもおなじみ。対象作は昨年末にリリースされたが、主要3部門にノミネートされる人気ぶり。
【予想】
作品人気も手伝って賞レース前半戦ではアダム・ドライヴァーが批評家賞を快走。大ヒットを記録し、オスカーを期待されていた『ジョーカー』ホアキン・フェニックスは一向に名前を呼ばれず出遅れた感があった。ようやくゴールデングローブ賞を獲得、作品も最多ノミネートを獲得した事で並んだ感がある。今年はこの2人の一騎打ちだ。
受賞するだろう~ホアキン・フェニックス
受賞すべき~ホアキン・フェニックス
受賞してほしい~ホアキン・フェニックス
【主演女優賞】
スカーレット・ヨハンソン~『マリッジ・ストーリー』
初ノミネート
子役としてキャリアをスタート、『ゴーストワールド』や『バーバー』など作家映画で頭角を現し、近年はアベンジャーズの一員として活躍。『ロスト・イン・トランスレーション』や『マッチポイント』でオスカーチャンスがあったが尽く無視されてきた。その甲斐あってか、今年は本作と『ジョジョ・ラビット』の助演で史上8人目となるWノミネートを達成する快挙となった。
シンシア・エリヴォ~『ハリエット』
初ノミネート
既にエミー賞、グラミー賞、トニー賞を受賞済み。オスカーを含めた“EGOT”を目指す。19世紀の奴隷解放家にして女性解放家、さらには米の新しい紙幣にも印刷される事が決まっているハリエット・タブマンに扮する。演技賞では今年唯一の有色人種になってしまった事も話題に。自ら歌う主題歌もノミネートされた。
シアーシャ・ローナン~『若草物語』
4回目のノミネート
弱冠25歳にして4度目となる若き演技派。原作『若草物語』は94年にも映画化され、同じ役柄でウィノナ・ライダーが主演賞候補に挙がっている。監督グレタ・ガーウィグとはやはりオスカー候補に挙がった『レディ・バード』との連続タッグ。前哨戦では出遅れたが、映画は現在スマッシュヒットを記録中。
シャーリーズ・セロン~『スキャンダル』
3回目のノミネート
03年『モンスター』で主演賞受賞済み、05年『スタンドアップ』で再度ノミネートされる。『マッドマックス:怒りのデス・ロード』ではノミネートまであと一息だった。キャリア初期こそ肩に力が入り過ぎている感もあったが、近年は大女優らしい思い切りの良いパフォーマンスでアクション、コメディ、ドラマとジャンル問わずの大活躍ぶり。
レネー・ゼルウィガー~『ジュディ 虹の彼方に』
4回目のノミネート
01年『ブリジット・ジョーンズの日記』、02年『シカゴ』で主演賞に連続ノミネート。3度目の正直となった03年『コールド・マウンテン』で念願の助演女優賞を獲得。以後、キャリアが低迷したが、薬物に苦しむ晩年のジュディ・ガーランドに扮した本作で大復活。今年の本命候補。
【予想】
実は前哨戦となる各批評家賞で1番人気だったのは『アス』のルピタ・ニョンゴだった。昨年『ヘレディタリー』のトニ・コレットがやはり同じパターンで落選しており、まだまだオスカーにおけるホラー映画の壁は厚い事が明らかになった。
という事でニョンゴの落選でホッとしているのはゼルウィガーだろう。キャリア復活となる本作での熱演は2度目の受賞も射程圏内だ。
同じくニョンゴの落選でチャンスが増したのはWノミネートのスカーレット・ヨハンソンだ。今年はマーベル卒業作となる単独主演作『ブラック・ウィドウ』も控えており、演技、興行面でもトップクラスの人気である彼女を手ぶらで帰すワケにはいかない。Wノミネートによる票割れは気がかりだが、ゼルウィガーは既にタイトル獲得済みというのもプラスに働くかもしれない。
受賞するだろう~レネー・ゼルウィガー
受賞すべき~スカーレット・ヨハンソン
受賞してほしい~スカーレット・ヨハンソン
【助演男優賞】
ブラッド・ピット~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
4回目のノミネート
既にプロデューサーとして『それでも夜は明ける』で作品賞を受賞済み。近年は映画製作者としても辣腕を振るうハリウッドを代表する大スターへと成長した。今回は2度目のタッグとなるタランティーノ監督作で主人公ディカプリオを守護神のように守り続けるスタントマンを好演し、キャリア史上最高のカッコよさを見せつけた。
トム・ハンクス~『A Beautiful day in the Neighborhood』
6回目のノミネート
近年も『キャプテン・フィリップス』『ブリッジ・オブ・スパイ』『ペンタゴン・ペーパーズ』『ハドソン川の奇跡』等で名演を披露してきたが、意外や00年『キャスト・アウェイ』以来20年ぶりのノミネート。昨年『天才作家の罪と罰』で賞レースを賑わしたマリヘル・ヘラー監督作でフレッド・ロジャースに扮する。
アンソニー・ホプキンス~『2人のローマ教皇』
5回目のノミネート
言わずと知れた映画史上最高の悪役ハンニバル・レクターを演じた『羊たちの沈黙』でアカデミー主演男優賞を受賞した名優。98年の『アミスタッド』以来22年ぶりのノミネートとなった。近年もTVドラマ『ウエストワールド』でエミー賞にノミネートされるなど精力的に活躍中。本作では前ローマ教皇ベネディクト16世に扮した。
アル・パチーノ~『アイリッシュマン』
9回目のノミネート
アメリカ映画界を代表するレジェンドの1人。盟友マーティン・スコセッシ監督との初タッグ作で、謎の失踪を遂げた全米トラック運転手組合長ジミー・ホッファに扮し、変わらぬエネルギッシュな演技を披露した。8度目の正直で念願の初受賞となった『セント・オブ・ウーマン』以来27年ぶりのノミネートとなった。
ジョーペシ~『アイリッシュマン』
3回目のノミネート
マーティン・スコセッシ映画の常連として『レイジング・ブル』『カジノ』に出演。91年『グッドフェローズ』で助演男優賞を受賞して以来、29年ぶりのノミネートとなった。引退からの復帰となった本作では往年のキレやすく、暴力的な男から一転、静かな凄味でマフィアのボスを演じ、老境の貫禄を見せつけた。
【予想】
今年は既にブラッド・ピットで決まりの部門。最高のもうけ役であり、前哨戦となる各批評家賞も独占。対抗馬は既にオスカー受賞済みのレジェンド級の名優ばかり。演技賞では未だ無冠のブラピが受賞する条件が揃った。
あえて対抗馬を挙げるとすれば引退を撤回して出演し、往年とは全く異なる演技の凄味を見せたジョー・ペシだろう。『アイリッシュマン』は10部門ノミネートながら本命候補にはつけない立ち位置。作品支持票を集めやすいのは彼かも知れない。
受賞するだろう~ブラッド・ピット
受賞すべき~ブラッド・ピット
受賞してほしい~ブラッド・ピット
【助演女優賞】
フローレンス・ピュー~『若草物語』
初ノミネート
英国出身。2016年の『Lady Macbeth』で頭角を現し、2018年はパク・チャヌク監督、ジョン・ルカレ原作のドラマ『リトル・ドラマー・ガール』で主演に抜擢。2019年は『ファイティング・ファミリー』『ミッドサマー』と主演作が相次いだ。今年公開のマーベル映画『ブラック・ウィドウ』にも出演するなど、絶好調の新進スターである。
キャシー・ベイツ~『リチャード・ジュエル』
4回目のノミネート
90年に『ミザリー』でアカデミー主演女優賞を獲得。その後『パーフェクト・カップル』『アバウト・シュミット』で助演候補に挙がった名女優。近年は『アメリカン・ホラー・ストーリー』などTVシリーズにも精力的に出演。今回はイーストウッド監督作で主人公の冤罪を信じる母親に扮した。
ローラ・ダーン~『マリッジ・ストーリー』
3回目のノミネート
ダイアン・ラッド、ブルース・ダーンの娘として子役からキャリアをスタート。デヴィッド・リンチ映画や『ジュラシック・パーク』シリーズなど幅広い作品で活躍し、一昨年前はTVドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』での怪演で賞レースを席巻した。2017年は『ツイン・ピークス』『スター・ウォーズ』にも出演し、キャリア全盛期と言える活躍ぶりである。アカデミー協会の副会長も務めた。
スカーレット・ヨハンソン~『ジョジョ・ラビット』
2回目のノミネート
今年、主演『マリッジ・ストーリー』とのWノミネートを達成した人気女優。対象作では主人公の母親役を演じた。
マーゴット・ロビー~『スキャンダル』
2回目のノミネート
3月には当たり役ハーレー・クインを再演する『Birds of pray』が待機中の人気女優。トーニャ・ハーディングを演じた『アイ、トーニャ』でオスカー主演賞に初ノミネート。エリザベス1世に扮した史劇『ふたりの女王』も好評を博した。今年は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で作品の魂ともいえるシャロン・テートにも扮し、合わせ技が使える。
【予想】
前哨戦実績、キャリアの充実度からローラ・ダーンが受賞タイミング。 但し、新進の若手がかっさらっていく部門でもある。飛ぶ鳥を落とす勢いのフローレンス・ピューは対象作のオスカーチャンスが限られているのも追い風になるか。マーゴット・ロビーは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』票も期待できる。ベテランVS勢いのある若手女優2人の対決になるだろう。
受賞するだろう~ローラ・ダーン
受賞すべき~ローラ・ダーン
受賞してほしい~ローラ・ダーン
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