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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

2023-01-15 | 映画レビュー(き)

 近年、乱立した『ピノキオ』実写映画化競争の決定版はNetflixからリリースされたギレルモ・デル・トロ監督によるストップモーションアニメだろう。“ファミリー映画”とラベリングをされてもデル・トロならではのダークでちょっとグロテスクなテイストが炸裂し、久しぶりに『ピノキオ』という物語に触れる大人も「こんな話だったのか!」と新鮮な驚きがあるハズだ。

 カルコ・コッローディの原作『ピノッキオの冒険』の舞台をデル・トロはムッソリーニによるファシズム政権下のイタリアへと置き換えた。『デビルズ・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』など、フランコ政権下のスペイン内戦期を背景にホラー映画を撮ってきた彼は、真に恐ろしいものは人間であると看破してきたが、ここでもその恐怖はピノッキオが晒される困難な現実として立ちはだかり、悲しいかな現在のウクライナ戦争をも思わずにはいられない。ポーカーに興じる死者の国の墓守ウサギ達や、死を司るスフィンクスら怪物たちにこそチャームは宿り、映画には死の香りが漂う。

 その芳香は人とファンタジーを分かつものである。人間はいずれこの世を去るが、永遠の命を持つピノキオというファンタジーは残り続け、いつしか人々に忘れ去られていく。ファンタジーとは常に世界の片隅や裏側に偏在し、普遍であり続ける。そんな幻想への郷愁に心揺さぶられずにはいられないのである。


『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』22・米
監督 ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン
出演 グレゴリー・マン、デヴィッド・ブラッドリー、ユアン・マクレガー、クリストフ・ヴァルツ、ティルダ・スウィントン、ロン・パールマン、フィン・ウルフハード、ケイト・ブランシェット、バン・ゴーマン、ジョン・タトゥーロ、ティム・ブレイク・ネルソン
※Netflixで独占配信中※
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『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(寄稿しました)

2022-07-05 | 映画レビュー(き)
リアルサウンドに『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のレビューを寄稿しました。TVシリーズのスタンドアローン回のリメイクではありますが、監督の安彦良和が手掛けた漫画『THE ORIGIN』の設定に準拠しており、キャラクターの解釈や作風が異なっていることや、映画版の後に続く話がTVシリーズ第25話『オデッサの激戦」であり、奇しくも現在(いま)を映していることに触れています。
(文中、僕の筆不足で意味が伝わらないフレーズがありますが、あえて捕捉はしません。本文を読む上でのノイズになってしまいましたが、「下手な文章だなぁ」とお思いください)

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『THE GUILTY ギルティ』(2018)(2021)

2021-10-13 | 映画レビュー(き)

 88分間、警察の通信オペレーター室から動かない展開に驚かされた。どうやら男は理由あってこの閑職に追いやられたようだ。そこへ1本の緊急通報が入る。怯えた女の声。取り留めもない話ぶりに男は気付く。彼女は前科者の元夫に拉致され、命の危険にあるのだ。僕たちも耳をそばだてる。すると声と音の向こうに事件の全容と男の背負った“罪”が浮かび上がる。たった一夜の出来事から贖罪の物語へと到るこのデンマーク版は、時代も場所も超越する優れた舞台劇のような普遍性を持ち、ハリウッドでの再演は当然の事と思えた。

 山火事が猛威を振るい、主人公が激しく咳き込み続けるハリウッド版はコロナ只中に撮影され当時、濃厚接触者の認定を受けていた監督アントワン・フークアはセット屋外のトレーラーからディレクションしていたという。『トゥルー・ディテクティブ』のニック・ピゾラットがデンマーク版をLAの警官ドラマに脚色してアメリカ映画の文脈に置き換えれば、彼ならではの情念でより贖罪のドラマとしての彫りが深まった。主演ジェイク・ギレンホールはかつてデヴィッド・エアーによるLA警官モノの傑作『エンド・オブ・ウォッチ』に出演し、そのエアーが脚本を務め、今年で公開から20年になるのがフークアの代表作『トレーニング・デイ』だ。この文脈からも主人公の抱えた罪が黒人殺しであることは想像に難くなく、本作は2021年にハリウッドで再演される意義を獲得しているのである。そんな主人公にデンマーク版とは異なる救済がもたらされるのも、分断の先を模索するアメリカの現在(いま)を象徴していると言えるだろう。そしてハリウッド版の最大の魅力はジェイク・ギレンホールというスターの華で見せる一人芝居興行であることは言うまでもない。


『THE GUILTY ギルティ』18・デンマーク
監督 グスタフ・モーラー
出演 ヤコブ・セーダーグレン

『THE GUILTY ギルティ』21・米
監督 アントワン・フークア
出演 ジェイク・ギレンホール、イーサン・ホーク、ライリー・キーオ、ポール・ダノ、ピーター・サースガード
 
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『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

2021-06-15 | 映画レビュー(き)

ガンオタとして実に感慨深い。まさか『閃光のハサウェイ』が劇場長編アニメとして公開される日が来るとは。シリーズの生みの親である富野由悠季によって原作小説が上梓されたのは1990年。その後、ゲーム等でオーディオドラマのような再現がされているものの、実に30年越しの映像化である(2000年に発売されたプレイステーション専用ゲーム『SDガンダム GGENERATION-F』では『逆襲のシャア』からハサウェイ役で佐々木望が続投し、林原めぐみがギギを演じた)。

 富野御大による一連のガンダム小説が人間ドラマに重きを置いており、シリーズの売りであるMS(モビルスーツ)同士のアクションがメインにならないことはもとより、その悲劇的な結末によって長らく”映像化不可能”と言われてきた作品である。本作が劇場3部作として映像化されることに、40年ものフランチャイズを展開するガンダムシリーズの充実がある。ここにはプラモデルの売上を目的にしたトキシックな描写がなく、夜間戦闘シーンはろくにモビルスーツのディテールも見えない。登場人物は安易な共感を呼ばず、テロ組織のリーダーを主人公にしたストーリーラインは決してわかりやすくはない。

 そして暴力描写だ。巻頭のハイジャックシーンに始まり、地球連邦政府による不法在留者に対する弾圧、そしてMSによる殺戮に目を見張る。ロボットが空から落ちれば建物を潰し、バーニアを吹かせば人は焼失する。火花を散らせばそれ1つで人間は丸焦げになる。人間とモビルスーツの大きさが徹底的に対比され、その暴力性が際立つリアルな演出は長いガンダムの歴史においても非常に珍しい。そしてこれが描かれなければあの悲痛な結末には到達できないだろう。主人公ハサウェイの目的はテロによる地球の浄化なのだ。

 そう、『閃光のハサウェイ』は現在もなお地球を圧し潰そうとする人間のエゴを描くのではないか。昨年、スクリーンで『風の谷のナウシカ』を見た時にもその現代性に驚かされたが、富野御大による原作小説もまた古びていない。地球環境問題、政治権力への不信…そしてガンダム史上屈指のファムファタルであるギギの現代性だ。「(女を性的に扱うことに)慣れた物言い、好きではありませんわ」と言い放つ彼女は、これまで富野作品で何度も描かれてきた男の思い通りにならない女性像であり、彼女を前に男たちは滅んでいくことになる。原作小説に対して語りの速度が的確かは後の2作を見るまで結論付けられないし、アクションのヌケの悪さも気になるが、30年前の言葉をもってガンダムがいかに時代を更新するか、僕たちは見届けなくてはならない。


『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』21・日
監督 村瀬修功
出演 小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一
 
 
 
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『危険がいっぱい』

2020-12-01 | 映画レビュー(き)

 アラン・ドロンが『太陽がいっぱい』に続いてルネ・クレマン監督と組んだ本作は、ジャンルレスな怪作でめっぽう面白い。ドロン扮するイカサマ師のマルクは、マフィアの女房に手を出したせいで命を狙われる。巻頭から拷問描写もハードで、「お、これは本格ハードボイルドか」と身を乗り出した。間一髪、難を逃れたマルクと彼を追うギャングのチェイスアクションも迫力十分。命からがら教会に駆け込むと、そこには美しい未亡人バーバラとその従妹メリンダが慈善活動に訪れていた。マルクは専属運転手として雇われ、彼女らの住む大邸宅に転がり込むのだが…。

おっと、ここまで。
さながらジョーダン・ピール映画のような後半の転調に黒い笑いが洩れ、やがてそれは引きつる事になるだろう。本作でも美女を手玉に取るドロンの色男ぶりには女性蔑視とも言える女嫌いが見え隠れし、皮肉的なクライマックスは何とも今日的だ。ゆえに本作におけるドロンの“破滅の美学”は他作品にはない黒光りを放つのである。エロチックでキュートなジェーン・フォンダもドロンを圧倒した。予備知識なしで、ぜひ。


『危険がいっぱい』64・仏
監督 ルネ・クレマン
出演 アラン・ドロン、ジェーン・フォンダ
 
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