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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

2016-09-08 | 映画レビュー(し)

 今日におけるマーヴェル・シネマティック・ユニバースの成功はジョン・ファヴローなくしてあり得なかったと言っても過言ではないだろう。ろくろく台本もない現場で当時“ユージュアル・サスペクツ”扱いだったロバート・ダウニーjr.(以下、ダウ兄)に主役を任せ、彼のメソッド演技(台本なしの即興)でビッグバジェットを乗り切ったのは驚くべき事であり、ダウ兄を信頼した俳優兼監督ファヴローの役者至上主義があってこそ、その後のMCUが“座長”ダウ兄の磁力に引き付けられたオールスター映画として成長してきたのである。ファブローはあらゆるジャンルを手掛け、大ヒット作を連発してきた職人監督だが、そのどれもが俳優の力を重視したものであり、それはデビュー作「スゥインガーズ」から一貫した作風である。

人気レストランのシェフとしてキャリアを築いてきた主人公ファヴローが批評家の“ハートがない”という酷評にカッとなって「オレのオリジナルレシピを食べてみろ」とツイートしてしまう。ところがダスティン・ホフマン演じるオーナーから“ここは私の店であって、オマエのオリジナル料理を食わせる店ではない”とクビにされてしまう。これは「アイアンマン」の大成功を経ながらも「アベンジャーズ」の伏線としか機能しない「アイアンマン2」を撮らされ、ついには「カウボーイ&エイリアン」だなんて大失敗作を撮ってしまったファヴローの境遇そのものではないか。

かくしてファヴローは本当に作りたいものを求めて旅に出る。ソフィア・ベルガラ演じる元妻に助けられ、購入したフードトラックで全米を行脚。各地のご当地料理を応用したハンバーガーを作っていくのだ。有り物を使っていかに傑作を撮るかこそインデペンデント作家の至上命題。彼の熱意に惹かれてダウ兄ら豪華俳優陣が友情出演。元妻がベルガラで今カノがスカジョとかコノヤローという感じのキャスティングだが、彼の作るウマそうな料理を観ると仕方ないなという気分になる。この所、半ドン仕事の多かったジョン・レグイザモも実にイキがいい。

 本作はモノ作りの喜びについての映画である。父子としての本当の繋がりを築けてこなかったファヴローが我が子に伝える教えは“周りのみんなが喜んでくれたら嬉しいだろ?”という根源的な衝動だ。ファブローがメジャーで成功を収めた理由はこの最大公約数の多さであり、これからも2つの領域を横断しながら良質の映画を作ってくれる事だろう。



「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」14・米
監督・主演 ジョン・ファヴロー
 出演 スカーレット・ヨハンソン、ソフィア・ベルガラ、ロバート・ダウニーJr.、ジョン・レグイザモ、ダスティン・ホフマン、オリバー・プラット
 
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『シン・ゴジラ』

2016-09-06 | 映画レビュー(し)
 2014年のギャレス・エドワーズ版を観た時は根性も予算も負けて2度と日本でゴジラは作れないと思ったものだが、当の東宝はこれぞ商運と捉え、まさかの庵野秀明を大抜擢。見事、日本でしか撮れないゴジラ映画を作ってみせた。1954年、いまだ戦争の記憶が生々しい時に核の象徴として現れたゴジラが今度は3.11の化身として破壊の限りを尽くす。アンダーコントロールなんて出来た物ではない放射能の塊であるゴジラに冷却材を投入しようとする展開はあの日、僕らが体験した惨状とあり得たかもしれない未来でもある。この虚構と現実のせめぎ合いが観客の知性を刺激し、これほどまでの熱狂を呼び起こしているのではないだろうか。

そして驚くべきは実写映画監督としての実績はほぼ皆無の庵野が大作映画で自身の作家性を貫き通せた事だ。
巻頭早々にゴジラを登場させるや、その危機対応に追われる官邸周辺の侃々諤々を追ったディスカッション映画として構築しており、日本中の性格俳優を集めた“役者の映画”に仕立てている事は意外だった。時にすっとこどっこいで笑いもこぼれてしまう演技アンサンブルの活気は本作の喜びである。庵野アニメ風実写演出をわざわざエヴァのスコアでやってしまうセルフパロディにも余裕があり、エヴァ新劇場版の迷走が嘘のような勢いだ。

我らが大スター、ゴジラはシリーズ最高の悪役として僕らを圧倒する。
あっと意表を突く第一形態(通称蒲田ちゃん)からシリーズ最大200メートル級ゴジラへと成長し、鎌倉沖から伊福部サウンドに乗って上陸するシーンは思わず立ち上がってしまうほどだ。放射シーンの三つ顎といい、愛嬌を排した異様が怪獣映画本来の恐怖感を甦らせる事に成功している。

1つだけケチをつけるとすれば主人公ら霞が関の連中が魅力的過ぎる事だろう。この時代に政府関係者を描く事に何ら批評性を伴わないのはいかがなものか。カッコ良すぎるんだよ、君ら!


「シン・ゴジラ」16・日
監督 庵野秀明
出演 長谷川博己、石原さとみ、竹野内豊、市川実日子
 
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『シチズンフォー スノーデンの暴露』

2016-09-06 | 映画レビュー(し)

 今年、オバマが広島を訪問し、平和記念公園でスピーチを行った。被爆者を抱きしめたあまりにも絵になる姿が世界中に配信され、間もなく任期を終えようとする彼がアメリカ中のHopeを受け止め、チェンジという合言葉を高らかに掲げて大統領に選ばれた事を改めて思い出した。“オバマの時代”はそんな未来への期待と共に始まったのである。

その実、どうだったのか。
議会はねじれ、国家は憎悪によって分断され、イラク戦争は終わったとされながら未だドローンが無実の人々を爆殺し、そしてこのスノーデン事件である。国家がインターネットを介して全国民の個人情報が収集していた事が明らかにされたこの事件はアメリカ、オバマのある種病的な二面性をあぶり出したようにも思う。本作はエドワード・スノーデンが告発を行うにあたって言わば第三者記録人として立ち会いを依頼されたローラ・ポイトラス監督が全内幕を収めたドキュメンタリーである。

ドキュメンタリーならではの偶発的な記録の数々も収められており、中でも興味深いのがこの決死の告発を行ったスノーデンの人間性だ。深いインテリジェンスと勇気を兼ね備えた青年だが、これから衆目を避けなくてはならないのに髪型を気にする幼稚なナルシズムをポイトラスは逃していない。この事件の特殊さはマスコミ発の民意による自浄作用が働いたのではなく、スノーデンという1人の“よくわからない青年”によって白日の下にさらされた偶発性であり、故に時の権力への決定打へとなり切らなかった気がする。

2016年に発表されたアノーニのアルバム「Hopelessnes」はそんなオバマの時代のサイコパス的な空気を歌っている。

お父さん
ホテルの部屋にいる私を見て
街から移動する私の輪郭を見ていて
ポルノを楽しむ私を監視して
私が友達や家族と話すのを傍受して
あなたが私を愛しているのはわかっている
だっていつも私の事を見ているから


「シチズンフォー スノーデンの暴露」14・米、独
 監督 ローラ・ポイトラス
 
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