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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ホワイト・ヘルメット シリアの民間防衛隊』

2017-03-20 | 映画レビュー(ほ)
 今年のアカデミー短編ドキュメンタリー賞受賞作。連日、ロシア軍による空爆が続くシリアで消防、救急に携わる民間団体“ホワイト・ヘルメット”を追った力作だ。ここ数年、オリジナルドキュメンタリーの製作に力を注いできたNetflixにとって初のオスカー受賞作となった。

絶望的な状況に打ちのめされてしまう。
街は政府軍に包囲され、国際社会の援助は一向に届かない。隊員たちは日々、懸命に救助活動に挑むが1人、また1人と命を落としていく。ミサイルが至近距離で着弾する瞬間を捉えた映像に戦慄する。

彼らを突き動かす力は一体どこから湧いてくるのか?
元反政府ゲリラだった隊員は言う「命を奪う側ではなく、救う側に行きたかったんだ」
瓦礫の山から生後間もない赤子を救い出した瞬間、人々が歓喜したあの一体感。憎しみの連鎖がとぐろを巻く今、それでも人と人をつなぎ合わせる善意の在処をカメラは映し出している。

 時代性を捉えた作品である事はもとより、包囲するロシア、そのロシアと密接につながるトランプ、そしてシリアはじめ中東7か国の入国を断ったアメリカの姿が遠景に見えてくる重要な1本だ。


『ホワイト・ヘルメット シリアの民間防衛隊』16・英
監督 オーランド・ボン・アインシーデル
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『ボーダーライン』

2016-12-05 | 映画レビュー(ほ)

 現在、『ブレードランナー』続編が待機中のカナダの鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴがその実力を十二分に発揮したサスペンスアクション。
 冒頭から神経衰弱ぎりぎりの緊迫感で見る者を圧倒し、異界のようなメキシコの地獄めぐりに引きずり回す。『灼熱の魂』
『複製された男』『プリズナーズ』ほど物語に粘着性はないが、2度目のタッグとなる名手ロジャー・ディーキンスのカメラ、ヨハン・ヨハンソンのサスペンスフルなスコアを得てよりサスペンス作家としての成熟を示した格好だ(それにしてもヨハンソンの前作は「博士と彼女のセオリー」という振れ幅!)。

舞台はアメリカとメキシコの国境地帯。エミリー・ブラント演じるケイト(『オール・ユー・ニード・イズ・キル』直後のシャープで研ぎ澄まされた身体がアクションに映える)率いるFBIはカルテルのアジトで床や壁に埋め込まれたおびただしい数の死体を発見する。この残忍な手口こそ“カルテル”のやり方だ。彼女はその義憤と経験を買われ、CIA主導の特捜班に組み込まれる事となる。

始めこそジョシュ・ブローリンがのらりくらりと率いるこのチームの正体はわからないが白昼堂々、大渋滞のハイウェイで銃撃戦を繰り広げる大胆で凶悪な対外活動こそまさにCIAがこれまで中東で行ってきたそれであり、自国に都合の良い状況を作り出すために他国を侵害するアメリカのやり方である。原題“SICARIO”とはスペイン語で“殺し屋”を意味し、劇中でベニチオ・デルトロが扮する幽霊のようなヒットマンを指すが、同時に“殺戮者”という意味も持つ。それは他国に侵略、介入し、殺戮の上に押しつけの民主主義を築き上げてきたアメリカを指しているのだ。

デルトロ扮するアレハンドロはメキシコを“狼の国”と言う。
 かつて作家のコーマック・マッカーシーは真なる狼が住んだ土地としてメキシコを神聖視したが、今や野獣の国である。人であり続けるか、獣になるか。そんな善悪の彼岸を観客に突きつけるデル・トロは後半、実質上の主役として場をさらう凄味を見せた。陽の下では生きられないようなスリーピングアイズが人殺しの目付きへと変わる戦慄。そんなアレハンドロが娘とも妻ともダブらせるケイトとの言葉にならない関係性が、クライマックスに深い余韻をもたらしている。


『ボーダーライン』15・米
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン
 
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