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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ライト/オフ』

2017-04-23 | 映画レビュー(ら)

 2016年はホラー映画が批評的にも興行的にも大きく成功を収めた1年であり、その一角を占めたのが本作『ライト/オフ』だ。
普段、電気を消した瞬間にふっと人影が浮かんで見えたような“気がする”空目感を巧みに利用したアイデアが面白い。この影の怪物ダイアナはヒロイン姉弟の母親と何か関係があるらしい。上映時間81分という尺があまりにもタイト過ぎるばかりに、登場人物の誰もがやたらと物分かり良過ぎるのだが、新鋭デヴィッド・F・サンドバーグは全編に不穏な気配をはらませ、一気に見せ切る。ダイアナはちょっと喋り過ぎだが、怪談にはつきものの哀しい秘密があり、この家族がこれまで背負ってきた人生を思うと得も言われぬ余韻を感じた。

ヒロイン役テリーサ・パーマーが正統派ブロンド美人で目を引く。「でも、スクリーミングクイーンはキャリア短命だしなぁ…」なんて思ってたら、既にテレンス・マリックとメル・ギブソン監督作に出演していた。余計な心配で失礼しやした~。

『ライト/オフ』16・米
監督 デヴィッド・F・サンドバーグ
出演 テリーサ・パーマー、マリア・ベロ
 
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『ラ・ラ・ランド』

2017-02-26 | 映画レビュー(ら)

26歳くらいの頃の、熱烈な片想いを思い出した。
僕は演劇青年で、自分で脚本を書いては演じ、自主公演を何本も打っていたが、しかし少しも芽は出なかった。いつしかロクに飯も食えないくらいに困窮し、気持ちも疲れ果て、日銭を稼ぐために黙々とバイトに専念するだけの日々が続いた。

そんな時、バイト先で彼女に出会った。その娘は芸大の院生で、活動の場をヨーロッパに移し始めていた。好きになったきっかけはよく覚えていない。渋滞のハイウェイで、レストランで、パーティで何度も出会った?変なリクエストをしてきて、楽し気に踊っていた?いいや、でもたまらなくチャーミングだったのは覚えている。

毎日シフトが明けるとロッカールームから出るタイミングをわざと合わせて、駅までの道を一緒に歩いた。遅番だったからウットリするような夕暮れともタップダンスとも無縁だったけど、食事にこぎつけるくらいは親しくなれた。彼女のアートに対する情熱にほだされて、少しでも彼女に認められたくて、それまでボンヤリと考えていた夢や目標をどんどん口に出した。アメリカで武者修行したい。人の心に訴える、豊かな物語の一部になりたい。熱に浮かされて夢を語った。

結局、僕の意気地が足りなくて、彼女とロマンスに発展する事はなかった。
彼女はヨーロッパで活動を続け、僕は挫折を繰り返しながら、今も小さな劇場で演じ続けている。
エマ・ストーンが歌う。
「少しの狂気が新しい色を見せる」
「反逆者たちよ、さざなみを立てる小石よ、画家に詩人に役者たちよ。夢見る愚か者に乾杯を」
何度も挫けた。疲れ果て、年も取った。そんな僕に「でもやるんだよ」と声が響いた。

そんなスクリーンに向かう僕の横には妻が座っている。スクリーンの向こうではピアノにセブが座り、街角をミアの主演映画のポスターが彩る。スクリーンには2人のもう1つの人生が映し出される。

そうか、映画は夢だ。
『ラ・ラ・ランド』は映画館の闇の中で、僕にあったかも知れないもう1つの人生を見せていたのだ。
ミアが振り返る。セブが頷く。選んだ人生を行け。

 そしてこの映画は“ANOTHER DAY OF SUN”と歌う、ハイウェイを埋め尽くさんばかりの夢見る者たちが焦がれた未来であり、夢破れた者たちの郷愁が織りなした幻なのだ。LA LA LANDとはそんな夢追い人たちの屑星で煌めく街なのだ。


『ラ・ラ・ランド』16・米
監督 デミアン・チャゼル
出演 エマ・ストーン、ライアン・ゴズリング、ジョン・レジェンド、J・K・シモンズ、ローズマリー・デウィット
 
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