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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ウソはホントの恋のはじまり』

2018-10-21 | 映画レビュー(う)

B級映画のノベライズ作家サム(ジャスティン・ロング)は行きつけのカフェ店員バーディー(エヴァン・レイチェル・ウッド)のことが気になってしょうがない。今日こそは、とセリフも考えて挑んだが声が小さくて誰にも聞こえない始末だ。ようやく名前を聞き出したサムはフェイスブックで検索し、彼女をリサーチ。何とか好みの男になろうとギター教室や料理教室に通い始めるのだが…。

現代に生きる若者なら気になる相手をSNS検索した事があるのでは。好きな物や近況、普段は見られない表情の写真がアップされていて嬉しくなってしまったハズだ。ログイン時間で「暇かな?」と思ったり、やたらとコメントの多い異性の存在に「ライバルか!?」と一喜一憂した事もあるだろう。

前半はバーディーに合わせようと頑張るサムの周りをピーター・ディンクレイジ、ヴィンス・ボーン、サム・ロックウェル、シエナ・ミラー、ブレンダン・フレイザーらがサポート。自然体のエヴァン・レイチェル・ウッドが醸し出す親しみやすさも好感度が高く、お付き合いを始めるまでのデートシーンは楽しい。

 割とトントン拍子でカップルが成立するので恋愛映画としてやや起伏に乏しいのが難点か。身の丈に合わないカノジョを落としてしまったばかり疑心暗鬼に陥ってしまうメンドくさ~い男心は童貞感あふれるジャスティン・ロングの個性によって支えられている。彼は共作で脚本も手掛けた。


『ウソはホントの恋のはじまり』13・米
監督 カット・コイロ
出演 ジャスティン・ロング、エヴァン・レイチェル・ウッド、ピーター・ディンクレイジ、ヴィンス・ボーン、サム・ロックウェル、シエナ・ミラー、ブレンダン・フレイザー
 
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『ウインド・リバー』

2018-08-30 | 映画レビュー(う)

『ボーダーライン』『最後の追跡』を手掛けた気鋭脚本家テイラー・シェリダン、待望の監督デビュー作だ。前2作同様、サスペンスアクションの形を取りながら今回も辺境からアメリカを射抜いている。『ボーダーライン』ではメキシコ国境を舞台にアメリカの凶暴な対外政策の実態を炙り出し、『最後の追跡』ではリーマンショック後、取り残された下層の苦しみを描いた。今となってはいずれも監督の映画である以上にシェリダンの作風が貫かれていた事が良くわかる。九州ほどの土地に点在するしか人が住んでいない先住民保留区“ウインド・リバー”。そこで頻発する失踪事件の真相からは先住民族を閉じ込め、搾取し続けてきた白人たちの横暴が垣間見える。それは地方の特異性に留まらず、現在のアメリカが抱えた“分断”の縮図に他ならない。

シェリダン作品のもう1つの特徴はリアルで乾いたバイオレンス描写の迫力だ。殺気が暴発するクライマックスの銃撃戦は近年のベストアクションの1つと言っていいだろう。強烈なバイオレンスと社会問題を描く鋭さはアメリカンニューシネマを彷彿とさせるものがあり、シェリダンが伝統的アメリカ映画の担い手である事がわかる。

これらに加え、本作にはシェリダンの“怒り”が色濃い。息をするのもままならない厳寒の地へと追いやられた先住民族たち、そして弄ばれた女たちの怒り。それらを代弁するのがジェレミー・レナーだ。インテリジェンスを感じさせる寡黙さの中に怒りを秘めたレナーは息をするだけで肺を凍らせ、命を奪うウインド・リバーの厳しい大自然そのものだ。個性派俳優として頭角を現した『ハートロッカー』『ザ・タウン』の狂気的なアクがヌケ、マーヴェルのスーパーヒーローを通過して本作ではこれまでになかった“優しさ”に到達している。演じるコリーは先住民族の女と結婚し、彼らに認められた劇中唯一の白人だ。この融和性こそ本作におけるレナーの新境地である。

 本作の製作には昨年、レイプ事件によってハリウッドを震撼させたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが携わっている。かつて90年代にクエンティン・タランティーノを発掘し、インディーズ映画旋風を牽引した大物だ。本作でも多くの人気監督、スターを輩出した慧眼に狂いのない仕事ぶりだが、レイプ魔に鉄槌の下る本作を果たしてどのような気持ちで見たのか。天才監督の登場と大物プロデューサーの退場、期せずして重要な転換点となった1作である。※9/1記、カンヌ映画祭でワインスタインは本作を買い付けたが、後にシェリダンが買い戻していると言う※


『ウインド・リバー』17・米
監督 テイラー・シェリダン
出演 ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、ジョン・バーンサル
 
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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』

2018-04-24 | 映画レビュー(う)

1940年、ナチス・ドイツの侵略を前に英国首相に選ばれたウィンストン・チャーチルを描く伝記映画。
堅苦しい実録映画を想像すると思いのほかライトな作りに驚かされるハズだ。首相就任からダンケルク撤退戦までのわずか1か月に的を絞り込んだ脚本を、かつてジェーン・オースティンを読んだ事もなかったと公言しながら『プライドと偏見』で華々しくデビューしたジョー・ライト監督が撮り、そのある種の“軽さ”を持ってエンターテイメント性の高いポリティカルドラマに仕上げている。『アンナ・カレーニナ』で自家薬籠中化した様式美を捨て去りながらも、ブリュノ・デルボネルの陰影に富んだ素晴らしい撮影によって映画に“重心”を得る事に成功しているのだ。

そしてこの映画の最大の推力であるゲイリー・オールドマンの徹底した性格演技によって、ウィンストン・チャーチルという人物像が浮かび上がる。始終葉巻をくわえ、朝からスコッチが手放せない破天荒さ。そして時に危険すぎるまでの激し易さ(映画も好戦的とも言えるその姿勢には疑問を抱いている)。歩き方(ダイエットをかねて早歩きだったという)や喋り方、さらには肥満体形特有の呼吸まで再現する事はオールドマンにとって造作もない事だったろう。元来、“怪優”の部類に入る人であり、賞レースには縁遠かったが、その演技力で歴史上の偉人を2時間演り切ればオスカーなんて当然の結果である。

ではなぜ今、チャーチルなのか?
 それは奇しくも同時期に公開された姉妹編とも言えるクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』を見る事でより明らかとなる。両作とも、クライマックスはチャーチルの同じ演説が引用される。ナチスとの徹底抗戦を宣言したそれは我々、民主主義が戦うべき差別や不寛容、ファシズムの姿を明らかにしており、同時にそれは今、僕らの対峙しているものと何ら変わりない事がわかる。原題“Darkest Hour”とはまさに現在(いま)を指しているのだ。


『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』17・英
監督 ジョー・ライト
出演 ゲイリー・オールドマン、クリステン・スコット・トーマス、リリー・ジェイムズ、スティーブン・ディレイン、ベン・メンデルソーン
 
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『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』

2017-10-22 | 映画レビュー(う)

各社がアメコミ映画でしのぎを削り合う昨今のハリウッド。早々に『X-MEN』シリーズでブームに先鞭をつけた20世紀FOXは先の『ファイナルデシジョン』で批評面、興行面で失敗し、本作が製作された2009年は迷走期にあった。この前年にはワーナーが『ダークナイト』によって娯楽映画の話法を刷新。今や007シリーズまでもがシリアス・ハードな“ダークナイト方式”を踏襲している状態だ。

人気スター、ヒュー・ジャックマンの一枚看板へとシフトチェンジし、スピンオフとして仕切り直された本作にはそんな“ダークナイト方式”の影響が伺える。不死の生を受けたウルヴァリン=ローガンが南北戦争から第一次大戦、第二次大戦をかいくぐり、やがてベトナム戦争でストライカー大佐からスカウトを受ける。これまで示唆されてきた過去を脚本のデヴィッド・ベニオフ(『ゲーム・オブ・スローンズ』!)と監督のギャビン・フッドは兄弟の血の宿命も交えてシリアスに描いており、ジャックマンと兄役リーヴ・シュライバーの演技合戦にも製作陣の志向が伺える。

しかし、マーベル(ディズニー)に比べ、映画として圧倒的に面白味に欠けるのはコミックゆかりのキャラクターを持ち出せても役者の魅力につながらない、イベントムービーとしての地味さのせいではないだろうか。自作発のスターまで輩出(クリス・エヴァンス、クリス・ヘムズワース)できてしまったマーベルには何より映画はスターものという矜持と愛がある。本作ではいくら格好をつけてガンビット(大コケフラグ俳優テイラー・キッチュ)、デッドプール(この後も苦節が続いたライアン・レイノルズ)が出てきても一向にワクワクしない。シュライバー演じるセイバートゥースは『ファイナル・デシジョン』でプロレスラーが演じた筋肉バカの悪役だった。統一感のない、あまりにいい加減な製作体制はこの時期のFOXの特徴であり、コミックファンは彼らの原作への愛を疑ったのだ。

アメコミキャラとは言わば長年愛されてきたスターである。
『X-MENファースト・ジェネレーション』でようやくテコ入れを始めたFOXはジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ヒュー・ジャックマン、レイアン・レイノルズら役に見合った素晴らしい俳優を得て、ようやくマーベルに拮抗し始めるのである。

『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』09・米
監督 ギャヴィン・フッド
出演 ヒュー・ジャックマン、リーヴ・シュライバー、ダニー・ヒューストン、テイラー・キッチュ、ライアン・レイノルズ
 
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『ウルヴァリン:SAMURAI』

2017-10-17 | 映画レビュー(う)

単独スピンオフとしてスタートしたウルヴァリンシリーズの第2弾。
“ダークナイト方式”が不発に終わった前作から一転、ならばとウルヴァリンが日本へ渡り、なんと結婚までする原作の人気エピソードをピックアップした。さながらジェームズ・ボンドが日本にやってきた『007は2度死ぬ』のような珍味も漂う異色編となっている。

 監督はオールジャンルからついにはアメコミにまで進出し、後に本作の続編『ローガン』を傑作に仕上げた職人ジェームズ・マンゴールド。ヤクザ映画から小津映画まで日本映画の伝統をアメコミにマッシュアップしている。ウルヴァリンが逃走の末、(渋谷あたりの)ラブホテルに入ってしまうシーンは今後のマーヴェル映画には出てこない珍場面だろう。

シチェーションの面白さだけではなく、作品の魅力を日本人キャストが担っているのが嬉しい。ヒュー・ジャックマンの一枚看板ではあるが皆、引けを取らない存在感だ。
ローガンのボディガードを買って出るユキオ役福島リラの目には大役をモノにした気迫があり、動きに抜群のキレがある。敵役の真田広之は気品と貫禄でジャックマンすら圧倒。2人の“死の舞踏”は本作最高のシーンだ。
ウルヴァリンの運命の女となるマリコ役TAOは演技初体験の未熟さはあるものの、それを補って余りある謎めいた翳りがある。本作をきっかけに『ハンニバル』『高い城の男』と引っ張りだこなのも頷ける。ひょっとしたら今後、さらなる大役を得るかも知れない。

イマイチ振りが甘い20世紀FOXのマーヴェル映画群だったが、続く『デッドプール』からあえてR指定とする事で大人の映画へとグレードアップする事に成功。完結編『ローガン』が大傑作として有終の美を飾る事となった。

『ウルヴァリン:SAMURAI』13・米
監督 ジェームズ・マンゴールド
出演 ヒュー・ジャックマン、TAO、福島リラ、真田広之
 
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