A19 金融危機から国民生活を守れなくなります。
TPPの根本にあるのは、金融も国境の壁を取り払い、資金の流れを阻害することなく自由に流動させる新自由主義の思想です。シティバンクやゴールドマンサックスといった、ウォール街のメガ金融グループが主導する国際金融資金の流れを止めることは、さらに困難になるでしょう。
こうした勢力が日本で狙っているのは、ゆうちょ銀行・かんぽ生命やJA共済などの資金、さらには年金(GPIF)、日銀マネー、企業の内部留保など、日本が戦後70年かけて蓄えてきた富です。2007年の郵政民営化のときの郵便貯金・簡易保険の資金流出と同じで、TPPはそのバージョンアップといえます。これらの資金が国際金融市場に流出すれば、日本社会の貧困化がより一層進むのは必至です。
アメリカは第11章「金融サービス」をとても重視しています。最大の問題点は、金融危機に陥った際に、国民生活や消費者を守るために各国政府が行う金融安定化政策(マクロプルーデンシャル措置)を、事実上行使できなくなることです。1997年に起きたアジア通貨危機に対してマレーシアが行った「資本取引規制・固定相場制」や、2008年のリーマンショック後にアメリカで成立した「ドッド=フランク法(ウォール街改革・消費者保護法)」など、自国の金融システムを守る規制が、TPPの下では働かなくなるということです。アメリカ国内でも、金融危機が再び引き起こされる危険性が高まるという批判が出ているほどです。
加えて、第17章「国有企業」の附属書では、日本だけが留保(例外)を出していません。政府は、日本政策金融公庫など国有企業をすべて民営化し、外国資本の傘下にしても構わないと考えているのです。(和田聖仁)