採決棄権

国会議員になって初めて採決棄権した。

米軍駐留経費負担に係る特別協定の衆議院本会議採決だ。

読売新聞には、「納税者の視点と日米同盟の重要性との狭間で迷った末の判断」とのコメントが載ったが、明らかに舌足らずなので、補足しておきたい。

ところで、民主党が特別協定の継続に反対した理由は、大要以下のとおり。

第一に、2年前の改定の際に「賛成」の条件とした「米軍の更なる節減努力についての厳しい検証」が日本政府によって尽くされた形跡がないことに加え、このたび娯楽施設への支出など象徴的な無駄遣いの事例(大半は民主党の独自調査により判明)がマスコミなどで報道されたことにより、納税者の立場から(年金官僚や道路官僚の税金無駄遣いと同列に論じられ)、とてもとても賛成しにくい状況となったこと。

第二に、駐留米軍に対する同盟各国の負担割合において、我が国の負担が突出していること。「思いやり」が過ぎて「お人よし」になっているのではないか、との批判が高まったこと。具体的には、駐留する兵士一人当たりの負担(直接支援:労務費や施設整備費など)96,506ドルは、韓国(16,730ドル)の5.8倍、ドイツ(446ドル)の216倍、イタリア(289ドル)の334倍、NATO(716ドル)の135倍という事実。また、駐留経費の負担率についても、韓国40.0%、ドイツ32.6%、イタリア41.0%に比して、日本の74.5%が突出している事実がある。

第三に、沖縄の米海兵隊員による強姦未遂事件や横須賀での米イージス艦乗組員による殺人事件などが重なり、特別協定をめぐる審議の時期に米軍駐留に対する世論の反発が高まってしまったこと。

これらの反対理由には一理も二理もあり、現下の政治状況の中で、すんなり賛成することは難しかったというわけである。それでも、私は、政権を担い得る責任野党としては、「木(駐留米軍の無駄遣い)を見て、森(我が国の安全保障)を見失う」ことになるのではとの危惧を抱き、党内論議では次のように指摘した。すなわち、「有事のリスクは米国、平時のコストは日本」という日米同盟の基本構造を変革しない限り(具体的には、有事のリスクへの日本のコミットメントを増大させない限り)コストの細部に文句を言っても説得力はない。この年来の持論は同僚議員の一定の理解を得たものの、党の大勢を動かすには至らず、特別協定への反対が決定してしまった。しかし、特別協定に対し「ゼロか百か」(無駄遣いに眼をつぶって過剰な思いやり予算を続けるか、我が国の安全保障という本質論から眼をそらし協定を破棄するか)を選択することは余りに乱暴である。したがって、最終的に採決棄権のやむなきに至った。

これで、立法府の責任が果たされたとは言い難い。かくなる上は、参議院の審議を通じ、我が国の安全保障における米軍駐留の果たす役割の現状について十分考慮しつつ、米軍による経費節減努力を担保するような「新たなメカニズム」を特別協定の中に埋め込むような協定の修正を試みてもらいたい。そのための知恵を与野党で絞るべきだろう。そうでなければ、米軍駐留に対する日本国民のフラストレーションを鎮静させる道はない。それは、長期的には日米同盟を弱体化させることにつながる。したがって、本気で日米同盟を安定化させるには、同時に、我が国が、集団的自衛権の行使を含め有事のリスクに対するコミットメントを明確にした上で、日本側のコスト削減を米国に迫る正攻法を準備すべきである。
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