[東京 25日 ロイター] - 「24時間・365日、いつでも・どこでも」という独特のビジネスモデルで成長してきた日本のコンビニエンスストア業界が曲がり角を迎えている。アルバイトを中心とした安価な労働力に依存してきたが、人手不足の影響を大きく受けているためだ。客数が減少する中で続く出店増でシェアの奪い合いに拍車がかかるなか、「終日営業、年中無休」の看板を維持するための施策も利益を圧迫し始めている。
<利益を圧迫する負担軽減策>
「ここ1年、人手不足感が強まってきた。ずっと続くと思う」。大手コンビニチェーン、ローソン<2651.T>の加盟店オーナーは状況の厳しさにため息をつく。
業界関係者によると、コンビニは1店当たり平均20人程度のアルバイト・パートを必要とする。1万9423店舗(3月末)を展開する業界最大手のセブン―イレブン・ジャパンでは、約39万人が勤務しているという。
こうしたアルバイトの活用はコンビニの機動的な運営や店舗展開の「武器」となってきた。しかし、足元で人手不足感が強まる中、時給アップなど人材確保のコスト増につながり、各店舗の収益を圧迫しかねない状況だ。
打開策として、セブンは今年9月から加盟店が本部に支払うチャージ率を1%引き下げることを決定、加盟店の負担を軽減する策を打つ。
セブン&アイ・ホールディングス <3382.T>の井阪隆一社長は「急激に人件費上がってきている」と足元の状況に危機感を示し、チャージ率1%引き下げによって「既存店のオーナーの経営意欲の増進、新規オーナーの獲得に向けてひとつのきっかけにしたい」と期待を示す。
9月から実施するチャージ率の1%引き下げは、今期80億円、年間では160億円の営業減益要因となる。セブン―イレブン・ジャパンの18年2月期営業利益予想は前年比0.2%増益予想で、前期の3.6%増から増益幅は大きく縮小する。セブンはチャージ率引き下げのほか、加盟店の負担を軽減や売上増のため、店舗レイアウトの変更や食洗機の導入などを含め1800億円(前期比43%増)の大型投資を実施する。
加盟店支援のための投資を増やすのは、セブンイレブンだけではない。ローソンは、タブレットや自動釣銭機の導入、次世代システムなど、競争力強化に向けた投資を先行させるため、18年2月期の営業利益は7.1%減と15期ぶりの減益を余儀なくされる。
竹増貞信社長は「単年度で増益を目指すよりは、ローソンとしてどういう姿を目指すか、どういうことをするか、是々非々で向き合う。やるべき投資をしっかりやって、結果を出していく」と覚悟を示す。
みずほ証券シニアアナリストの高橋俊雄氏は、加盟店支援に加え、惣菜や弁当の工場での人手不足から商品の見直しも必要となっていると指摘、「こうした変更にも一時的な経費が発生することから、国内コンビニ事業は、業績面での踊り場を迎える可能性が高い」と予想する。
<24時間の看板は安易に降ろせず>
人手不足を背景に、ファミリーレストランなどは営業時間の短縮を打ち出しているほか、百貨店では定休日を復活する動きが出ているが、コンビニ業界で事情が異なる。
あるコンビニチェーンのオーナーは「小売業はどこも人手不足だと思うが、コンビニの場合は、フランチャイズ契約であり、人手不足の負荷がオーナーに直接かかってくる。少ない人員で何とかしのぐ状況。命も脅かされる労働環境になっている」と話す。
コンビニ業界に詳しいプリモリサーチジャパンの鈴木孝之代表は「立地によっては、24時間営業を止めても良い店舗はある。合理性を失ったサービスの維持は難しくなった。24時間営業の見直しは始まって当然」とみる。
ただ、「24時間・年中無休」の看板を降ろすことは簡単ではない。ユニー・ファミリーマートホールディングス <8028.T>の高柳浩二社長も「社会インフラになっている部分があり、果たさなければならない使命がある。24時間営業を何とか維持できないか考える方が筋だと思っている」と否定的な立場だ。交差点に立って見渡せば、複数のコンビニが目に入る。自社のみが24時間営業を止めれば他チェーンに顧客を奪われる、という理由も見え隠れする。
コンビニはオフィスや病院など限られた立地以外は「24時間・年中無休」が基本となっており、大手3社でみると、各社ともに95%前後を占める。
澤田貴司ファミリーマート社長が「今の労働市場に対してコンビニ業界としてどう考えて、どうするかは議論しなければならないと考えている」と話すなど、業界内でも問題意識は出てきており、真剣な議論が必要な段階に入っているとも言える。
<店舗数は増加見通し>
5万店舗を超えた辺りから「飽和」と言われながらも、現在、約5万5000店舗まで拡大したコンビニ業界。まだ、店舗の増加傾向は止まっていない。
セブンイレブンは、出店基準を厳格にしたとしながらも、17年2月期の純増850店舗に続き、18年2月期も純増700店舗を計画。井阪社長は「17年2月期のシェアは42.7%。50%を目指して邁進する」と意気込む。ローソン <2651.T>も2022年2月期に1万8000店舗(2月末時点で1万3111店舗)、ファミリーマートも来期は純減見通しにあるものの、再び純増基調に入り、2021年2月期には1万8500店舗(同1万8125店舗)を目指す。
一方で、2016年3月から今年2月まで、既存店の来店客数は12カ月連続で前年割れが続いている。そうした状況での店舗網拡大は、限られたパイの食い合いにならざるを得ない。ここでも、店舗の体力消耗が続くことになる。
プリモリサーチの鈴木代表は、宅配やコンビニなどは「過大な消費者の要求やニーズを受け入れ、サービスを提供してきた。これが合理性を失った以上、見直すのは健全なこと」と話している。
(清水律子 取材協力:サム・ナッセイ)
2015年8月、オーストラリアにおいて、セブン-イレブンのフランチャイズ加盟店経営者が、従業員を最低賃金をはるかに下回る賃金で長時間働かせていたことが暴露された。
フェアワークオンブズマンの調査によれば、時間給$10(豪ドル。以下同様)など協定賃金の半額で2倍の時間働かせていた、また調査した60%の店で最低賃金($17.29/時間)に満たない賃金で働かせていた、特に留学生(ビザの関係で週20時間までの労働に限定)を相手に低賃金で週40時間働かせ、訴えて出れば学生ビザを取り上げられるぞと脅すなどしていたことが挙げられている。
今日までに賃金未払いを行なった加盟店経営者が多額の罰金を課せられていることが報じられているほか、従業員からの未払賃金請求は総額$5000万に達するのではないかとされる。
シドニーのレビットロビンソン弁護士によれば、これはセブン-イレブン・オーストラリア本部の政策に起因するという。すなわちセブン-イレブン本部は、フランチャイジーを事実上、民族的なスクーリングで選んでおり、フランチャイジーも従業員は圧倒的に移住者が多く、主に労働法制の弱いインド亜大陸からの出身者であったという。
留学生に賃金支払わないことによって人件費を抑えることは、セブン-イレブン本部が示した当初の予想利益に人件費の過少見積もりとして最初から反映されていたという。逆に、法律通りに賃金を支払うと、フランチャイジーの生活が成り立たない。
同弁護士は、多額の借入金を返済するため経営を続けざるを得ないフランチャイジーの代理人として、ANZ銀行も本部と提携してフランチャイジーにローンを提供したこともこれを助長したとして、本部や銀行に対するクラスアクションを準備しているという。