マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

シネマジャーナル版 2011年度ベスト10+10/75  

2012-04-01 | 2011年度映画ベスト10
近年はますます鑑賞本数が減るばかりだ。昨年は75本。見逃した名作は数知れず。

・日本映画
1.『東京公園』/「見つめる、見返される」の繰り返しは、写真や映画が持つ幽霊性を表す。それらを見ているようでいて、ただ自分のみを見ているのだ(内なる他者性)。

2.『一枚のハガキ』/1枚のハガキを往復させることで、読み手の生と死をシンプルに表現。妻が書いたハガキの文面のように、簡潔で情があって反戦メッセージがしっかり感じられる傑作。立ち上るエロスと絶妙なユーモア。予測を裏切るストーリーと瑞々しい映像。

3.『恋の罪』/言葉と肉体、表象と意味のズレは、永遠に辿りつけない「城」を目指して旋回するようなもの。人間が唯一辿りつけるのは「死」。予測のつかない展開にゾクゾク。

4.『奇跡』/奇跡とはまさに世界の開かれだ。子どもたちの叫ぶ言葉は転がり、周辺を巻き込み、思いがけない巡り合わせを生み出す。登場人物すべての成長物語である。

5.『冷たい熱帯魚』/人間が避けて通れない闇の側面を抉り出す。究極の地獄は不思議と快感に満ちている。二度と観たくはないが、心にグサリときて印象深い。

6.『海炭市叙景』/何気なさが心地いい。こんなに等身大な作品は滅多にない。

7.『八日目の蝉』/ヒロインは最悪の犯罪者なのに、いつの間にか思い入れをしている私。

8.『神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまない』/共生思想満載!奇妙な魅力に満ちたクールさがたまらない!

9.『恋谷橋』/街おこしに情熱を傾けるヒロイン。ありきたりではない成功物語。

10.『アブラクサスの祭』/世界を支配する神・アブラクサスは万物の創造主。うつを克服する主人公の僧侶にとって、ロックはまさにアブラクサスだ!

・外国映画
1.『わたしを離さないで』/人間は、自然界のなかで自分以外の生物(ヒトを含む)やモノである「他者」を犠牲にして生きている。主人公の「クローン人間」たちは、傲慢な「神」となった人間に捧げられる「いけにえ」であり、現代社会に潜む「暴力」のメタファーだ。

2.『悲しみのミルク』/ペルーの先住民のメタファーであるジャガイモを体内に埋め、侵略者に抵抗する女たち。メタファーづくしの美しい映像。ジャジャンクーを思わせるポップ&キッチュなシーンが、即興の民族音楽と相まってイメージを膨らませる 。

3.『白いリボン』/忍び寄るナチズムの不気味な影。現代の日本の風潮にも通じる。

4.『ツリー・オブ・ライフ』/誰もが「苦しい時の神頼み」をするもの。試練がなければ、神との対話をすることもなく、救済もされずにみじめな生涯を送ることになる。試練は、人間に傲慢さを気付かせ、反省させるチャンスなのだ、という「テリー教」のプロバガンダ映画?

5.『パレルモ・シューティング』/死神に取り憑かれた写真家。一度撮られた写真は、私たちが不在(死ぬ)でも、幽霊となって何度でも回帰(複写)してくるのだ。

6.『ブルーバレンタイン』/どこにでもありそうな不幸な結婚。ラストの悲痛さに共感!

7.『ブラックスワン』/「母と娘」の根源的な関係性を描いた佳作。子離れ親離れの出来ない母娘。娘は依存と憎悪の悪循環に苦しみながらも、完璧な踊りをして母に応えたいと思う。人間にとって完璧なものとは「死」のみ。完璧な踊りとは、「死」を賭したもの。母殺しと自分自身の「死」は必然だった。

8.『ウィンターズ・ボーン』/共同体の掟による「父殺し」は、太古から行われていた、共同体維持のための必然ともいえる「いけにえの儀式」だ。この儀式は命を産み育てる女が主導。こうして新陳代謝をはかることにより、共同体に新たな関係性をもたらし、サバイバルが可能となる。本作でも、だらしない男たちに代わって、女たちが主人公をリンチしたり、助けたり・・・。主人公の強さも、歴代のこうした女のDNAを受け継いだものだろう。女たちが力強く生きていく映画を礼賛する。

9.光のほうへ』/『誰も知らない』の北欧版?福祉国家にも悲惨な現実があるのだ。

10.『ビューティフル』/余命2か月の父親が子どもたちに教えたのは、「本物の美は表層にではなく、深層にある」ことだった。女性たちのしたたかさにも乾杯!
(初出『シネマジャーナル 84号』) 

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