港に建つ小さな白い洋館
― どなたのお宅?
あるいは
― 往来する船を借景する喫茶店?
(珈琲商のワゴン車がしきりに訪れていたという)
半円を乗せたはめ込みの窓が六つ並んだ下はレンガを積んだ花壇で
低木が植え込まれ
正面にまわるとチャコールグレイの屋根に二つの屋根裏めいた天窓が設けられる
まん中に真鍮の風見魚
は立っていない
船着場にカーフェリーが着くたび
紳士が階段をのぼり
淑女がドアに鍵をかける
心なしか気をせくような面持ちで…
数瞬ののちには
晴々としたあしどりで入口に姿を現すかれらを見ることができる
― 旧友との懐かしい談笑に心あらわれるときを過ごしたか?
あるいは
― 朝の香り高い珈琲を心ゆくまで味わうことができたのか?
(それにしてはいささかはや過ぎるいとま乞い)
白い洋館の
側面から正面に弧を描く階段とそれに沿う車イスが介護者付きならのぼれるゆるやかとは言い難いスロープの先の入口
仲睦まじいアヴェックも
そこでふたつに分かれ
黒地にブルーの四角張ったシルクハットの魚の絵の側には紳士
黒地にピンクの丸い帽子の魚の絵の側には淑女が
数分後の再会を約して入っていく
※商港岸壁・フェリー乗り場「ハーバー・トイレット」
※詩集湾Ⅱ Ⅰ感傷旅行 から
2014年の注;この商港岸壁のトイレも、もちろん、すでにない。最初の観光課時代だから1990年かその直前に建設したもの。気仙沼では最初の水洗の観光トイレ、いや、エースポート一階のが先か、しかし、単独のトイレとしては、他の公衆トイレを含めて最初のものになる。日本の観光地においても、水洗というよりも、清潔なだけでなく、快適で見た目も美しいと言うトイレが整備され始めていた時期だった。自然の景勝地のみでなく、市街地も観光地とみなしていく都市型観光の、気仙沼における草分け、ともいえる記念碑的な建築だった。
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