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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

図書館の指定管理・ツタヤ図書館のことなど LRG ライブラリー・リソース・ガイド第19号 2017春号

2017-07-09 13:04:22 | エッセイ

 岡本真氏のARG、アカデミック・リソース・ガイド社が発行する季刊誌の最新号。

 第一特集は、野原海明氏の力作「図書館の指定管理制度を問いなおす(序論)」。

 タイトル下のリード部分には、こうある。

 

「全国の公共図書館3,280館のうち、2015年度までに469館が導入しているという指定管理者制度。今年導入15年を迎えるいま、その成立の背景を整理しつつ、メリットとデメリット両方の視点から、委託管理をしている公共図書館の指定管理者2社に現状をうかがった。」(6ページ)

 

 私も、気仙沼市本吉図書館長、気仙沼図書館長の現職当時、気仙沼図書館の再建計画に携わり、指定管理を含めて検討する資料づくりを担当した。もはや5年も前のことになる。

 震災で、津波ではなく揺れの被害で、壁や柱に多数のひび割れが生じ、取り壊し、新築を進めることとなった。その際、当時話題のツタヤ図書館、CCC=カルチャーコンビニエンスクラブ社への指定管理も検討課題となっていた。

 専門家、市民で組織した検討委員会として、南相馬市の早川副館長(現富士大教授)、CCCの高橋聡氏をお呼びして、勉強会を催した経過もある。

 結果としては、直営で、との検討委員会としての報告となった。

 そのとき、この特集があれば、資料作成には大いに役立ったはずだ。よくまとまった資料となっている。

 第2章の「指定管理者による初めての図書館運営」で、山梨県南都留郡山中湖村の図書館が取り上げられている。

 志をもったNPOが運営する図書館であるが、第1号として問題も大きかったのではと野原氏は指摘する。

 

「指定管理者が運営する記念すべき第1号の図書館である山中湖情報創造館だが、導入に際して指定管理料の額をあまりに低く見積もってしまったのではないか(初年度の契約は1500万円。対して職員は8名)これが、後に続くほかの自治体でも参照され、「民間に委ねれば図書館はこんなに安く運営できる」という誤解を生んでしまったのではないか。」

 

 第3章「TSUTAYA図書館」問題では、佐賀県武雄市の図書館が取り上げられる。

 野原氏は、慶応大学糸賀稚児教授のあるフォーラムでの発言を引く。

 

「糸賀教授:むしろ、指定管理者制度はよい刺激を公務員に与えたと思っています。このままだったら、うちの町も指定管理者に持っていかれる。だったら、住民のニーズにあった図書館サービスを考えていかなければいけない。俗にいう尻に火が点いた。それまでぬるま湯につかっていた公務員を目覚めさせたという効果はあります。」(28ページ)

 

 この糸賀教授の見方は、確かにその通りだろうと思う。

 別のフォーラムにおけるCCC高橋聡氏の発言も引いている。

 

「民間だから安くなるというのは幻想だし、公務員は仕事しないというのも違います。民間だから良くなるのではなく、組む人が誰かということが重要。図書館が指定管理者にそうかといえば、そうようでそぐわないような。本当のことをいうと、永続性が担保されるから行政でやった方がいい。

でも、武雄市図書館のような立ち上げを行政でできるか。図書館のブランディングは僕らがやった方がよかった。立ち上げてから2、3年たったら、永続性のある自治体がいい。数年後に直営に戻すのもありだと思います。」(29ページ)

 

 気仙沼図書館は、「TSUTAYA図書館」にはならない選択をしたし、それは、現時点で全く正しい選択であった、と、私は考えている。来年3月、良き図書館が開館するはずである。

 しかし、高橋氏とも何度かお会いしてお話を交わしている。

 市役所にいながら、高橋氏と組んで仕事をする、ということも刺激的で面白かったのだろうな、それはそれで、(武雄市とは全く違う形の)画期的な図書館が作れた、ということもあるのかもしれないな、と、これは夢想してみたりもする。

 CCCも、武雄、海老名で相当学んだはずで、一方で、他の業務(物販やレンタル部門)に図書館のノウハウみたいなものを取り入れて展開を図ったところもあるのではないかと想像しているし、もう一方で、良き図書館づくりへのノウハウも積んだのではないかとも想像する。「TSUTAYA図書館」が、それまでの図書館像に一定のインパクトを与えたのは確かであるが、もう一方、ふつうの図書館の良きところ、必要な機能を学んで、それ自体が、ふつうのよき図書館に成長していく、というようなこともありうるのではないか、などと想像していたりもする。

 そして、「TSUTAYA図書館」が、一時の勢いのまま、爆発的に増殖して行くなどということもないのだろうなと、想像していたが、まさに、そんな感じで進んでいるのではないだろうか。いずれにしろ、CCC本体としては、しかるべき時期に撤退するのではあろうが。

 第4章では、全国で500館以上の業務委託(指定管理のみではないが)を受けているTRC、図書館流通センターの谷一文子会長らのインタビューも掲載され、さまざまな問題点やメリットも紹介されている。

 これから導入を検討しているとか、あるいは、導入を阻止したいとか、また、とりあえず、当面そういう問題は浮上していないというところも含めて、図書館関係、図書館に関心を持つ皆さんには、一読をお勧めしたい。問題点がよくまとめられている。

 この特集以外に、田中輝美さんの新連載「島ではじめる未来の図書館~西ノ島・新図書館建設プロジェクト」や、猪谷千香さんのお図書館エスノグラフィー「沖縄県恩納村文化情報センター」も興味深い記事である。(ここらは個人的なファンでもあるので。)

 ※2021.7.24改題 LRG特集名から、内容分かりやすく「図書館の指定管理・ツタヤ図書館のことなど」へ。



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