で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1285回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『レディ・プレイヤー1』
現実世界の荒廃が進む近未来を舞台に、あらゆる願望が実現するバーチャル・リアリティ・ワールド “オアシス” で繰り広げられる壮大なお宝争奪戦の行方を、有名キャラクターの数々を登場させて描くSFアドベンチャー。
『AKIRA』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ストリートファイターII』、『機動戦士ガンダム』をはじめ80年代の日米ポップ・カルチャーがふんだんに盛り込まれていることでも話題を集めたアーネスト・クラインのベストセラー小説『ゲームウォーズ』を、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化。
物語。
2045年の地球。
街が荒廃し、経済格差が拡大する一方で、多くの者はVRワールド“オアシス”に逃げ場を求めていた。
そこでは誰もがアバターに姿を変え、自由な仮想人生を生きることが出来たからだった。
ある日、オアシスの創設者で唯一の統括者ハリデーが亡くなり、彼の遺言が発表される。それは、オアシス内に彼が仕掛けた3つのゲームを見つけ出し、勝利し、鍵を手に入れ、宝=イースターエッグを最初に見つけた者に56兆円を超える莫大な遺産とオアシスの全権を与えるというものだった。
これに世界中の多くの人々が色めき立ち、3年が過ぎた。
友はいるが群れない一匹狼の17歳の青年ウェイド(ゲーム内のIDはパーシヴァル)もこの宝探しにのめり込んでいた。
この宝の探索者たちはガンサーと呼ばれていたが、もっとも、有力なガンサーは、世界一を目指す野望を持った巨大企業IOIの専門部門だった。
原作は、アーネスト・クライン 『ゲームウォーズ』(SBクリエイティブ刊)。
脚本は、ザック・ペン、アーネスト・クライン。
出演。
タイ・シェリダンが、ウェイド/パーシヴァル(Parzival)。
オリヴィア・クックが、サマンサ。
リナ・ウェイスが、エイチ(Aech)。
森崎ウィンが、ダイトウ(Daito)。
フィリップ・チャオが、ゾウ/ショウ(Sho)
ベン・メンデルソーンが、ソリント。
T・J・ミラーが、アイロック(I-R0k)
ハナ・ジョン=カーメンが、フナーレ・ザンダー。
マーク・ライランスが、ジェームズ・ハリデー/アノラック。
サイモン・ペッグが、オグデン・モロー。
スタッフ。
製作は、ドナルド・デ・ライン、スティーヴン・スピルバーグ、クリスティ・マコスコ・クリーガー、ダン・ファラー。
製作総指揮は、アダム・ソムナー、ダニエル・ルピ、クリス・デファリア、ブルース・バーマン。
撮影は、ヤヌス・カミンスキー。
オアシス内はデジタルだが、現実世界はフィルムで撮影されている。
プロダクションデザインは、アダム・ストックハウゼン。
衣装デザインは、カシャ・ワリッカ・マイモーネ。
編集は、マイケル・カーン、セーラ・ブロシャー。
音楽は、アラン・シルヴェストリ。
2045年地球、仮想現実"オアシス"の支配権を得られる宝探しをするゲーマーらと巨大企業の争いを描くアクション・アドベンチャー。
80年代を中心に20世紀から現在までのポップカルチャーの洪水を渡る映画デロリアンに乗ってto be continue!の先へ。ただただ楽しい。穴は心に埋めさせる。
歴史をたどらせる謎はスピルバーグのお気に入り映画がヒント。薔薇の蕾が出た雪を砂漠に変えて、知っている実と知って欲しい種が繋がるように水を撒く。
この追い込まないテンポも80年代のノリの再現か。
音のバランスがゲーム的。
マーク・ライランスとサイモン・ペッグによるあのコンビの伝記映画が見たい。
現実2:仮想現実5のバランス。
輝きを持って集え。美味い食事に舌鼓を打て。
リアリティはリアルより出てリアルよりリアリスティックな泡知識の泉作。
おまけ。
原題は、『READY PLAYER ONE』、または『READY PLAYER1』。
小説の原題と同じですね。日本版小説の邦題は『ゲームウォーズ』というクソ野暮ったいものなのは残念。まさかだけど、「レディ」=READYが女性のLADYを連想させるとかだったり?
上映時間は、140分。
製作国は、アメリカ。
映倫は、G。
キャッチコピーは、「最高の、初体験。」。
なんか、下っぽい。なんにでも当てはまる定型文感がいまひとつ。でも、映画的には煽れているのか。
日本だとアニメだが、『サマー・ウォーズ』が似ている内容ではあるし、それ自体が『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』 (2000)のセルフ・リメイク作品。原作の『攻殻機動隊』にも現実そっくりのVRの中に入るシーンがある。最近のヒット作でも『ソードアート・オンライン』もあり、この手の話は日本では好まれる。
実写でも『アヴァロン』がある。
アーネスト・クラインは『攻殻機動隊』もファンで、『アヴァロン』からインスパイアされていると言っている。あと、『ストレンジ・デイズ 1999年12月31日』も意識したらしい。
海外SFでは『ニューロマンサー』などでけっこう前から定番のネタでもある。
映画では、有名なものに『マトリックス』(1999)、『トロン』(1982)がある。
エポックメイキングな長編小説ダニエル・F・ガロイの『模造世界』(『Simulacron-3』)が1964年で、これを原作にした映画『あやつり糸の世界』(1973)と『13F』(1999)もある。
フレデリック・ポールやフィリップ・K・ディックも1950年代に短編で電子的な世界を題材にしている。
IMAX3D、字幕での鑑賞。3D眼鏡も映画のギミックになる。
情報量的に吹き替えの方が見やすいか。
観ること以上にこの映画について話すことが楽しい人は少なくなかろう。
パンフレットが解説がしっかりたっぷりあって、素晴らしいです。さすがに画像は少なめですが。
ややネタバレ。
原作のインスパイア元はロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』で、「ウォンカがゲーム世界の支配者だったら」というもの。
『シャイニング』を知らないとどういう風に見えるのだろう?
作中で何度か言われる"バラのつぼみ(ROSE BUD)" 映画史屈指の名作『市民ケーン』で探される謎の言葉。
実は、この"バラのつぼみ"が書かれた映画の小道具はスティーブン・スピルバーグ自身が所有している。いづれ、博物館に寄付する予定なんだとか。
ちなみに、ビールの<バドワイザー(Budweiser)>のBUDはつぼみではなく、ヨーロッパ屈指の中世以来のビール産地として広く知られているチェコ・南ボヘミア州のチェスケー・ブジェヨヴィツェ市のドイツ語地名ベーミッシュ・ブトヴァイス(Böhmisch Budweis)の<ブトヴァイス>にちなんだものだそう。
パーシヴァルは、Parzivalと書くので、略称で「Z」と呼ばれている。
パーシヴァル(Sir PercevalまたはPercival) はアーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人で、聖杯を見つける3人の騎士(あと2人はランスロット、ガラハッド)の一人。童貞であることも有名。
たぶん、他にもこの名前を使う人がいて、それと区別するために続りをZに変えている。これはIDあるあるでもある。
なので、本当は「パージヴァル」の方が発音としては正しいのかも。原作ではウェイドは映画『エクスカリバー』(1981)と『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975)の大ファンで聖なる手榴弾は後者の中に出てくるもの。
アルテミスも、IDは「Art3mis」となっている。
アルテミスは、(ΑΡΤΕΜΙΣ, Ἄρτεμις, Artemis)は、ギリシア神話に登場する狩猟・貞潔の女神。女神セレネーと同一視され、月の女神でもあり、闇の女神ヘカテーと同一視され、闇の女神でもあり、三通りに姿を変える、とされる。太陽神アポロンの双生児とされている(アポロンもヘリオスと同一視され、太陽神とされている)。処女神でもある。
イースターエッグ(Easter egg)は復活祭の卵(ふっかつさいのたまご)とも言われ、キリストの復活祭(イースター)の休日に春を祝うために特別に飾り付けられた鶏卵。この卵探しをするのが行事の一つ。そこから派生して、ゲーム、作品、書籍・CDなどに送り手の遊びとして隠された、本来の機能・目的とは無関係であるメッセージ全般を指すようになった。
映画で有名なイースター・エッグの例では、『E.T.』にはヨーダが、『スター・ウォーズ』のエピソード1にはE.T.が出ている。
『おたくのビデオ』などでも描かれるが、著作権などの考え方が非常に薄かった80年代のアニメには遊びで他のキャラクターをモブなどに紛れさせて描かれることがあった。これはは本来、作者が意図した無関係さではないが、こういった遊びが広まったことで作者自身も入れるようになるのを広めさせた一因でもある。
ネタバレ。
今作でハリデーが言う「イースター・エッグ」は見つけることが目的になっているので、元々のキリストの復活祭の卵探しに近い。そして、そのことから、ハリデーは自身をキリストに例えていることもわかる。つまりそれは、スピルバーグ自身も反映されている。
ハリデーはポップアイコンであるスティーブン・スピルバーグの分身であることは明らかで、原作ではインディ・ジョーンズ、E.T.、ジョーズなどスピルバーグ作品のキャラクターも登場する。だが、実写版ではそこはあえて外したとのこと。監督をしようと決めた理由が自分以外が監督したら、自分の作品が使われるのを減らせるから」
『1941』で若い頃にすでにセルフパロディで失敗した経験があるしね。
しかし、プロデュースをした『BTTF』、『グレムリン』などの作品のキャラは多少出ている。
そして、レースのティラノザウルスからはやはり『ジュラシック・パーク』を連想せずにはいられない。友人のジョージ・ルーカス作品『スター・ウォーズ』も外されている。『スタートレック』はがっつりあるのに。
ハリデーとモローは、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの関係をもじっており、ウォズニアックがハリデーでモローがジョブズなので、ウォズニアックによってアップルが運営されていたら、というifにもなっている。
モローを演じるサイモン・ペッグはオタクキャラとしては当代随一なので、ハリデーと同類なのもキャスティングで伝えている。
多くのキャラクターは権利を無料で提供してもらっているそう。スピルバーグ作品となった強みでもあろう。
円谷はウルトラマン(原作では今作のアイアン・ジャイアントとガンダムRX78-2のポジションで活躍する)も出していいと承諾したらしいが、その他の権利関係が乗り越えられず、出すのを断念した。アイアン・ジャイアント(原作にも登場)が格上げになったのはスピルバーグの案だそうで、顔も似ていると言われていたので、最高の代役となった。
メカゴジラは原作では3式機龍だったが、映画版は生頼範義のイラストのものをアレンジして採用しているようだ。
『AKIRA』の金田バイクもアルテミス(Art3mis)のカスタマイズ版なので、いろいろと違いがある。モーターではなくエンジン音がする、ステッカーが違うなど。
これらから、再現ではなく、アレンジの重要性を描いていることもわかる。
ガンダムRX78-2も登場ポーズはZZのポーズだったり、逆手持ちビームサーベルは『ポケットの戦争』で描かれる手首回転のギミックからの発想か、座頭市かもしれない、とRX78-2の動きではなく、かっこいいものを気にせずに取り入れるのだ、ということだろう。
あのシーンでも「ダイトウ、行きます!」ではなく、「俺はガンダムで行く」としたことで、このセリフが『レディ・プレイヤー1』発端の新たなミームとなっていくことだろう。消費するだけでなく生み出さねば、文化は廃れるのだから。
たとえ、「ガンダム行きます!」の英語翻訳の際日本語翻訳によるものだとしてもね。
パーシヴァルとアルテミスは、Zと3の綴り替え、童貞騎士と処女神などのつながりから、二人が相性がいいことがわかる。
エイチ(Aech)は、たぶん、ヘレン(Helen)のイニシャルHのもじりだろう。
ダイトウの本名はトシロウで三船敏郎からのインスパイアであり、アバターの顔は三船敏郎の顔をスキャンしたもの。『1941』で仕事した縁で許可をもらえたとのこと。だから、あのシーンは、三船敏郎が変身してガンダムになるわけで、あのビームサーベル使いに幻の『スターウォーズ』のダースベイダー役さえも連想してしまう。
ソレントのパスワードは、BO55man69で、ボス、男、69だね。
ワーナーなので、DC関係が多い。ルーニー・チューンズのキャラも出てますね。
バットマンは一緒に遊ぶ仲間だが、スーパーマンはクラーク・ケントとして、ソレントのアバターになり、パーシヴァルも装うので、自分の反映になるということが分かる。スーパーマンはサラリーマンの星であり、惑星最後の生き残りで孤児でもある、光と闇の両方のアイコンなのだな。
好みの台詞。
「私は現実世界の居心地が悪かったから《オアシス》を作った。私は人との繋がり方が判らなかったんだ。だが、死期を悟ったときに、気づいたよ。現実の世界だけが唯一、美味い食事にありつける場所なんだ。現実こそが……リアルなんだ。」
「遊んでくれてありがとう」
ここまで読んでくれてありがとう。
アーネスト・クライン、ありがとう。
スティーブン・スピルバーグ先生ありがとう。
『レディ・プレイヤー1』チーム、ありがとう。
そして、すべてのポップカルチャーを生み出した送り手へ、ありがとう。
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追記。
森崎ウィンのインタビュー記事の抜粋。
「トシロウが放つ本編で唯一の日本語のセリフ「俺はガンダムで行く!」も、森崎が自ら考えている。「最初はガンダムに関連した有名なセリフをまんまパクって“ダイトウ行きまーす!“にしようとしたんですけど、原作ファンの方の気持ちを考えるとよくないかなと。ギャグっぽくなってしまうのも怖いし……。っていうので、色々考えた末に出たのがあのセリフなんですね」と経緯を明かし、「現場で日本語がわかる方はほかに誰もいないので、全部僕が決めなきゃいけないってことが、すごくプレッシャーなんですよ。あの一言だけなのに」と当時の心境を赤裸々に告白した。」
スピルバーグは『オズの魔法使』の小道具の赤い靴も所有していたらしい。