で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1297回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『君の名前で僕を呼んで』
北イタリアの避暑地を舞台に、男子高校生がアメリカから来た24歳の研究者との夏を、郷愁溢れる筆致で美しく繊細に綴る青春ラブ・ストーリー。
アンドレ・アシマンの同名小説を『日の名残り』、『モーリス』の名匠ジェームズ・アイヴォリーが脚色し、アカデミー賞で脚色賞を受賞。
主演は、今作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた新星ティモシー・シャラメと『ソーシャル・ネットワーク』、『ローン・レンジャー』のアーミー・ハマー。
監督は、『ミラノ、愛に生きる』、『胸騒ぎのシチリア』のルカ・グァダニーノ。
物語。
1983年、夏、北イタリア。
17歳のエリオは、インテリの両親とともに毎年、休みは田舎のヴィラで過ごしている。
今年のゲストは、大学教授である父がインターンとして招いた24歳のアメリカ人大学院生オリヴァー。
父にも気後れせず、女性も軽くいなす、自信に溢れて自由奔放なオリヴァーに、エリオはどこか対抗心を燃やす。
毎年会っている仲の良い地元の女子高生マルシアとさらに親密になろうと思っていた。
原作は、アンドレ・アシマンの小説『君の名前で僕を呼んで』(オークラ出版刊)。
脚本は、ジェームズ・アイヴォリー。
出演。
ティモシー・シャラメが、エリオ。
アーミー・ハマーが、オリヴァー。
マイケル・スタールバーグが、父のパールマン教授。
アミラ・カサールが、母のアネラ。
エステール・ガレルが、マルシア。
ヴィクトワール・デュボワが、キアラ。
スタッフ。
製作は、ピーター・スピアーズ、ルカ・グァダニーノ、エミリー・ジョルジュ、ホドリゴ・テイシェイラ、マルコ・モラビート、ジェームズ・アイヴォリー、ハワード・ローゼンマン。
製作総指揮は、デレク・シモンズ、トム・ドルビー、マルガレート・バイユー、フランチェスコ・メルツィ・デリル、ナイマ・アベド、ニコラス・カイザー、ソフィー・マス、ロウレンソ・サンターナ。
撮影は、サヨムプー・ムックディプローム。
アピチャッポン・ウィーラセタクンとのコラボレーションで知られるタイの名撮影手が移り行く光をまるで植物か精霊が見ているように捉えます。
プロダクションデザインは、サミュエル・デオール。
衣装デザインは、ジュリア・ピエルサンティ。
編集は、ヴァルテル・ファサーノ。
音楽監修は、ロビン・アーダング。
歌は、スフィアン・スティーヴンス『The Mystery of Love』、『Visions of Gideon』など。
80年代イタリア、別荘で夏休みを家族と過ごす男子高校生がアメリカの大学院生と親密になるドラマ。
インテリでノーブルな同性愛の繊細な交流を精緻かつ野卑に描く。80年代線細少女漫画がそのまま飛び出してきたかのよう。
生々しさ、エグさもしっかり、ヴェールを纏わせてはいるが。
アピチャッポン・ウィーラセタクン作品で知られるサヨムプー・ムックディプロームの撮影の百面相の光陰で映画浴。
ティモシー・シャラメの歯痒さ、アーミー・ハマーの優雅さ、マイケル・スタールバーグの緻密さ。
文学的な隠し味に気づくと映画全体の見え方が変わる。けっこうきっちり描いているのだが、気づかない人もいそう。これ次第で映画角度が90度は変わる。
指先から指一関節離れた距離の悶え、あっけないほどの接触が生む不安。
こんなに優しい映画、そうはないよ。
今この時しかない瞬間性、この儚さに人は夢で再会したいと願う。
思い出色はやがて熟して色づく時作。
おまけ。
原題は、『CALL ME BY YOUR NAME』。
『僕を呼んで、君の名前で』。
上映時間は、132分。
製作国は、イタリア/フランス/ブラジル/アメリカ。
映倫は、PG12。
受賞歴。
2017年のアカデミー賞にて、脚色賞をジェームズ・アイヴォリーが、受賞。
2017年のNY批評家協会賞にて、男優賞をティモテ・シャラメが、受賞。
2017年のLA批評家協会賞にて、作品賞、男優賞(ティモテ・シャラメ)、監督賞(ルカ・グァダニーノ)を、受賞。
2017年の英国アカデミー賞にて、脚色賞をジェームズ・アイヴォリーが、受賞。
2017年のインディペンデント・スピリット賞にて、主演男優賞(ティモテ・シャラメ)、撮影賞(サヨムプー・ムックディプローム)を受賞。
2017年の放送映画批評家協会賞にて、脚色賞をジェームズ・アイヴォリーが、受賞。
ちなみに、米アカデミー賞で、89歳での受賞は最年長記録。
キャッチコピーは、「何ひとつ忘れない。」。
シンプルですが、映画に合っています。 映画観たあとにグッときますしね。
マイケル・スタールバーグは、今作、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『ペンタゴン・ペーパーズ』の3本に出演した今年のアカデミー賞の隠れMVP。『シリアスマン』でコーエン兄弟、『ヒューゴの不思議な発明』でスコセッシ、『ブルー・ジャスミン』でウディ・アレン、『スティーブ・ジョブズ』でダニー・ボイル、『メッセージ』でヴィルヌーブと名匠からの信頼厚いだけでなく、脚本審美眼の素晴らしさが図抜けた名優です。
38歳に『シリアスマン』で初主演してからのフィルモグラフィーの豊かさは圧巻ですよ。
ややネタバレ。
生っぽいカメラや光の捉え方があえてやっているのは、現代の技術による完璧なコントロールからの失敗恐怖への忠告か。
これ『ペンタゴン・ペーパーズ』でもやってましたね。
ネタバレ。
最初のベッドでのカメラの揺れや、フォーカスがぼけているカットなど、一回性を取り入れたようなカットがいくつか出てくる。
ラストショットの小蝿も、まさにそれを体現している。
ルカ・グァダニーノ監督はインタビューで、リアルさを取り入れるため、アフレコも減らし、生の音を採用しているので、空間音がいろいろしています。いい音響の映画館向き。
【くっついていたものが離れる】が映像モチーフ。
枝から果実をもぎる、像から腕がとれている、果実から種をとる、本がちぎれている、列車が駅から離れる、故郷から田舎に離れるなどなど。
振り付けでも元居た場所から離れる動きが多く振りつけられている。
ピアノも押して離すことで音を奏でる、というのは考え過ぎかもしれないけど。
わかっていても気づかい、知らないふりをする言葉の使い方に人の心の荷の重さを知る。
好みの台詞。
「痛みを感じなくするな」
「心は衰えていく。体は当然、もはや誰も見なくなる」
年齢、時が隠しテーマになっている。
17歳と24歳の若者が主人公なので、最初は分からないが、徐々に制限が見えてくる。
夏休み、休みだけの滞在、一夜、誕生日、数日の旅行、親と子、冬。
特に、親の思い、企みが透けてきてからは強く視点が出てくる。
もしかすると、父親がゲイなのではないか。
息子に受け入れてもらうために、実際の人々を家に招待していたのではないか。
あのゲイカップルやオリヴァーもそうなのだろう。
素敵な人物をゆっくりと紹介することで、いい印象をもってもらうために。
父親がそうだから、息子がそうなるかもという思いがあったのではないか。
となると、母親、つまり妻は知っているのではないか。
80年代ということは、父親はゲイが殺される可能性があることを肌で感じていたはず。
そして、自分自身であることを秘密にして生きていくことの苦しさを知っている。
あのゲイカップルの強さを知っている。
父親は妻という最大の理解者を得たのではないか。
ゲイ視点なので、母親のことは謎だが。
教育とはゆっくりと行うもの。
社会はゆっくりとしか変わらない。
父はそれを理解している。
母親が息子の性癖を知っていることを隠すことからもわかる。
秘密はばらすタイミングが重要なのだ。
そして、息子は母が自分の性癖を知っていることを知っている。
父の気持ちが分かるのだ。
この人は自分のために嘘をついてくれている、と。
ジェームズ・アイヴォリーは以前からカミングアウトしているゲイ。
この老巨匠の眼が入ることで、時が強く意識される内容になったのかもしれない。
ある意味でゲイ映画は60年代まで隠して入れられてきたように、隠し味を入れるのはジャンル的伝統とも言えてしまうのかも。
キャビネットを見せるシーンもちゃんとあります。