二代校長平山太郎の時、開校式が行われ式辞が読まれているがその式辞は現在記念館展示室に保管展示されている。
我国ノ教育ノ組織ニ就キテ蘘ニハ独リ東京ニノミ大學予備門ヲ置キ以テ大學ニ登ル者ノ階梯ト為セリ是ヲ以テ苟モ大學ニ登ラント欲スル者ハ遠近トナク必ス先ツ往テ其門ニイラザル可カラザエウノミナラズ高等教育ノ利益ヲシテ遍ク地方ニ及ボサシムルコト能ハザリシナリ如之都会ハ驕奢ノ風盛ナルニ因り遊学ノ生徒ニシテ往々其弊風ニ染ミ輕佻浮薄ニ流レ遂ニ學海ノ方針ヲ失フ者亦尠ナカラズ毎ニ識者ノ慨嘆スル所ナリシ故ノ文部大臣森子爵ノ職ニ在リシ日此ニ見ル所アリテ高等中學ヲ興スニ方リ之ヲ全国五区二分置シ第一高等中学ヲ東京ニ第二ヲ仙台ニ第三ヲ京都ニ第四ヲ金沢ニ置キ而シテ第五高等中学ヲ熊本ニ設ケタリ然ル後一ニハ学生ヲシテ遠ク笈ヲ負ウヲ煩ワサズシテ大學ニ登ルノ準備ヲ為スコトヲ得セシメ一ニハ高等教育ノ利益ヲシテ遍ク地方ニ及バサレシムルノ基ヲ定ムルニ至レリ教育ノ組織宣キヲ得タリト謂ウ可キナリ而シテ本校ノ設置区域即九州地方ハ古ヨリ風俗淳朴人情剛毅ニシテ今更之ヲ喪ハズ本県ノ如キハ恃ニ此気風ニ富メルヲ以テ称セラル之ヲ都会ノ軽佻浮薄ニ較ヲレハ天壊ノ差別アルニ似タリ良トニ少年子弟ヲ教養スル高等中学校ノ位置ニ適シタリト謂ヲ可シ惟フニ本県県会議員及ヒ有志家ノ巨万ノ貨財ヲ愛マスシテ奮テ建築費ヲ支弁シ本県知事ノ之ヲ賛奨斡旋セラレタル皆此ニ見ルトコロアリシニ因ルナルベシ今ヤ新築工事竣功ヲ告ゲ本月本日ヲ以テ開校ノ式ヲ挙ク而シテ文部省ヨリ専門学務局長ノ来臨アリ又貴官紳士諸君ノ陸続来臨ヲ忝フシ盛ニ此式ヲ挙クルヲ得實ニ本校ノ大幸ニシテ小官ノ欣謝措サル所ナリ小官不肖ヲ以テ乏キヲ本校校長ニ承ク願クハ故大臣ノ遺意ト現大臣ノ指揮トヲ遵奉シ教員諸子ト共ニ熱心職務ニ従事盒教務ヲ改良シ質餘アリテ文缺タルナキ完全ノ人材ヲ養成シテ以テ国家ノ盛意ニ答ヘ有志者ノ望ニ副ハンコトヲ尚終リニ臨ミ本日臨場諸君特ニ本校区域城内ノ諸君ニ一言呈セント欲スルコトアリ今ヤ本校位置ノ中学教育ニ適シタルコト既ニ此ノ如クニシテ当局者ノ考慮深遠ナルコト亦此ノ如シ然ルニ世上或ハ都会ノ繁盛ニ畚恋シ学校ヲ選ムニ方リ此ヲ捨テ彼ニ赴ク者ナキニ非ス誤レリコト謂ウベシ諸君願クハ意ヲ茲ニ注キ苟モ少年子弟若クハ父兄ニシテ此ノ如キ鏐念ヲ抱ク人アラハ懇イ誣告シ来リテ此ニ学フ者アルモ出テテ彼ニ遊フ者ナカラシメ盆我固有ナル淳朴剛毅ノ気風ヲ鞏固ニシテ他日大ニ之ヲ拡張シテ世ノ軽佻浮薄ノ風ヲ矯正スル基礎トナスノ覚悟アランコトヲ聊蕪辞ヲ陳ヘ本日ノ祝詞トナシ併セテ来臨ノ諸賓ニ謝ス
明治廿三年十月十日
正七位 平 山 太 郎
