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画像から見つけたのは磁場のS字型ねじれ! 太陽の磁場が突然反転する現象“スイッチバック”の謎を解明

2022年10月15日 | 太陽の観測
探査機“ソーラーオービター”が太陽に最接近した際の観測から、50年近く前から知られている太陽磁場の反転現象“スイッチバック”の発生メカニズムが明らかになりました。

太陽の磁場が突然反転する現象

1970年代半ばにアメリカ・ドイツの太陽探査機“ヘリオス”が太陽に接近した際、太陽の磁場が突然反転する様子が記録されました。

この現象は突然始まり、数秒から数時間で磁場の方向は元に戻るというもの。
1990年代後半にはアメリカとヨーロッパの探査機“ユリシーズ”も同じ現象を観測しています。

さらに、2018年にはNASAの探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”による観測で、その磁場反転が太陽に近いほど多いことが明確に示され、その原因が磁場のS字型のねじれにあることが示唆されています。

この現象は“スイッチバック”と呼ばれるようになり、形成のメカニズムについてはこれまでに多くのアイディアが出されています。
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)

コロナのプラズマに見られた歪んだS字型のねじれ

水星軌道よりも内側まで太陽に近づいて観測を行うヨーロッパ宇宙機関の探査機“ソーラーオービター”は、太陽最接近直前の2022年3月25日に、太陽の外層大気であるコロナをとらえました。
ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”は太陽を斜めに周回する軌道に投入され、これまで見ることができなかった太陽の両極域を観測するための探査機。
2020年2月にアメリカ・フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から“アトラスVロケット”により打ち上げられた。
その画像の1つで見られたのは、コロナのプラズマに歪んだS字型のねじれでした。

そこで、イタリア・トリノ天文台とイタリア国立天体物理学研究所の研究チームが考えたのは、これが“スイッチバック”ではないかということ。

研究チームは詳細なスペクトル分析を実施。
すると、磁力線が開いている領域と閉じている領域との相互作用から“スイッチバック”が起こることを確認します。

このことは研究チームの一員が2020年に提案した、太陽表面における開いた磁場と閉じた地場の相互作用に着目したアイディアを裏付けるものでした。
2020年に提唱された“スイッチバック”の生成メカニズムのイラスト。(a)太陽の活動領域にある開いた磁力線と閉じた磁力線。閉じた磁力線は、太陽大気中に向かって弧を描いてから、太陽に向かって丸く曲がって戻る。開いた磁力線は、太陽系の惑星間磁場とつながる。(b)開いた磁場領域が閉じた磁場領域と相互作用すると、磁力線がつながり、ほぼS字型の磁力線が形成されてエネルギーが爆発的に増加する。(c)磁力線が磁気リコネクションとエネルギー放出に反応してねじれ、それが外側に向かって伝搬する(スイッチバック)。同様の“スイッチバック”は、反対方向にも送られ、磁力線を下って太陽の中に入って行く。(Credit: Zank et al. (2020))
2020年に提唱された“スイッチバック”の生成メカニズムのイラスト。(a)太陽の活動領域にある開いた磁力線と閉じた磁力線。閉じた磁力線は、太陽大気中に向かって弧を描いてから、太陽に向かって丸く曲がって戻る。開いた磁力線は、太陽系の惑星間磁場とつながる。(b)開いた磁場領域が閉じた磁場領域と相互作用すると、磁力線がつながり、ほぼS字型の磁力線が形成されてエネルギーが爆発的に増加する。(c)磁力線が磁気リコネクションとエネルギー放出に反応してねじれ、それが外側に向かって伝搬する(スイッチバック)。同様の“スイッチバック”は、反対方向にも送られ、磁力線を下って太陽の中に入って行く。(Credit: Zank et al. (2020))
さらに、他の研究チームと協力して“スイッチバック”によるコロナのふるまいをモデル計算で再現してみると、今回の観測と驚くほどよく似た結果になったんですねー

そう、今回の研究では、太陽コロナ内での磁気“スイッチバック”をとらえた最初の画像が、その起源の謎を明らかにしたことになります。

“ソーラーオービター”は軌道を1周するごとに、搭載された10個の観測装置から更なるデータが得られています。
今回のことは、まさに研究者が“ソーラーオービター”に期待していた成果といえます。

“スイッチバック”の発生メカニズムを知ることは、太陽嵐がどのように太陽から加速、加熱されるのかを理解する上での一歩となりそうです。

研究チームではこの研究成果をもとに、さらに期待していることがあります。

それは、次の太陽接近で計画されている観測を微調整し、太陽が太陽系の広い磁気環境とどのようにつながっているかを理解すること。
多くの成果が得られるといいですね。
“スイッチバック”のイメージ動画。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)


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