宇宙において、非常に高度な文明が建造すると予測されているもの。
その一つに、恒星から放出される全てのエネルギーを利用するための巨大な構造物“ダイソン球(Dyson sphere)”があります。
今回の研究では、地球から比較的近い距離にある恒星約500万個を対象にダイソン球の探索を実施。
その結果、ダイソン球の可能性を否定できない天体を7個見つけています。
もちろん、現段階では単なる自然な天体である可能性の方がずっと高く、ダイソン球を実際に見つけた可能性は低いようです。
それでも、この7個の天体はかなり変わった性質を持っているので、興味深い発見と言えます。
恒星から放たれるエネルギーを無駄なく活用する構造物
文明は発達すればするほど、必要とするエネルギーが多くなります。
このため、地球の文明よりもはるかに高度に発達した文明は、やがて恒星から放出されるエネルギーをフル活用しなければならなくなるはずです。
恒星から放たれるエネルギーを無駄なく受けるには、恒星の大部分を覆うような巨大な構造物を作る必要があります。
このような巨大構造物は、提唱者のフリーマン・ダイソンに因んで“ダイソン球”と呼ばれています。(※1)
例えば、完全にひとつながりの球殻構造や帯状構造のダイソン球は、力学的に不安定になります。
なので、ダイソン球には隙間があると予測されています。
このため、周囲にダイソン球が構築された恒星は、隙間から不規則に光が漏れることに…
これにより、異常な変光周期を持つ恒星として観測されるはずです。
そのような恒星は、タビーの星“KIC 8462852”などいくつか見つかっていますが、砕けた天体の破片によるものなど、もっと普通の自然現象として説明できることが分かっています。
高度な文明が作るダイソン球の探索
ダイソン球は、原理的には他の方法でも発見することができます。
ウプサラ大学のErik Zackrissonさんをリーダーとする“プロジェクト・ヘーパイストス”は、いくつかのダイソン球を見つけるための方法を使って天文観測のデータを分析し、ダイソン球の探索を進めています。
ヘーパイストス(ヘパイストス)は、ギリシャ神話において神々の武具などを作った炎と鍛冶の神のこと。
プロジェクト・ヘーパイストスは、分析方法および対象とする天体の違いによって、以下の3つに分類されています。
1.銀河に属する大半の恒星がダイソン球で囲まれている銀河の探索
2.天の川銀河の中で、ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星の探索
3.天の川銀河の中で、部分的にダイソン球で覆われている恒星の探索
このうち1と3については、すでにある程度の探索成果が発表されています。
1の対象である“大半の恒星がダイソン球で覆われている銀河”は、銀河330個当たり1個未満。
3の対象である“部分的にダイソン球で覆われている恒星”は、全体の90%程度を覆っているダイソン球の場合だと、存在数は恒星5万個当たり1個未満になるようです。
このように該当する銀河や恒星が存在する確率は低く、残念ながら今のところダイソン球の発見には至っていません。
赤外線の波長でのみ異常に明るく見える天体
今回の研究では、“ガイア”、2μm全天サーベイ“2MASS”(※2)、“WISE”といった、いずれも多数の天体を観測しカタログ化するプロジェクトの観測データを分析。
プロジェクト・ヘーパイストスは、2の対象である“ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星”について、新たな観測結果を発表しています。
その一方で、エネルギーを変換する過程では排熱が必ず生じるはずです。
排熱は、熱力学の法則によって発生するもので、どんなに高度な文明であっても排熱をゼロにすることはできません。
なので、ダイソン球を遠くから観測すると、他の波長では暗いのに赤外線の波長でのみ異常に明るく輝く天体として見えるはずです。
ただ、自然にダイソン球のような環境が形成されることもあります。
たとえば、恒星を取り囲むチリや小惑星帯は、ダイソン球のように恒星からのエネルギーの一部を遮断し、受けたエネルギーの一部を赤外線として放出します。
また、銀河やクエーサーなど、無関係な天体が恒星の後ろ側に重なってしまうと、そこから放出される強力な赤外線が混ざってしまうこともあります。
ダイソン球の探索におけるこうしたノイズは、光のスペクトルを厳密に分析したり、恒星までの距離を測定することで、自然要因を特定して排除することができます。
今回の研究では、最初に約500万個の恒星に対し、いくつかの基準で自動的にフィルタリングを行うことで、候補を368個まで絞り込んでいます。
続いて、フィルタリングをすり抜けてしまった自然要因で説明可能な恒星が含まれていないかを、368個の候補を手作業で一つずつ精査。
その結果、ダイソン球の可能性がある天体の候補として、最終的に7個の恒星が残りました。
本研究で見つかった地球に最も近い候補は、地球から約466光年彼方に位置する“Gaia DR3 3496509309189181184”という恒星でした。
破片に囲まれた赤色矮星という可能性
(写真03)
もちろん、今回の研究だけでは7個の候補がダイソン球であるかどうかを判断することはできません。
むしろ、7個ともダイソン球ではない可能性の方がずっと高いでしょう。
とはいえ、仮にこの7個がダイソン球ではなかったとしても、それはそれで面白い発見と言えます。
今回見つかった7個のダイソン球候補は、いずれも太陽よりもずっと軽くて暗い赤色矮星(※2)でした。
ダイソン球ではないと否定するもっともらしい説明は、恒星の周りを大小さまざまな岩石の破片が周回しているというものです。
でも、そのような実例はいまだに1個も見つかっていません。
なぜ、実例が見つかっていないのか、詳しい理由は判明していません。
今回の研究を通じて見つかった天体は、今まで見つかっていなかった“破片に囲まれた赤色矮星”の可能性があります。
なので、この発見をきっかけに詳細な観測を行えば、見つかってこなかった理由を解明する研究を進めることになるはずです。
いずれにしても、7個の候補がダイソン球であることを確定させるには、追加の観測が必須となります。
その過程でダイソン球では無いと判明する可能性が高いとはいえ、天文学的に興味深い天体である可能性は残されています。
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その一つに、恒星から放出される全てのエネルギーを利用するための巨大な構造物“ダイソン球(Dyson sphere)”があります。
今回の研究では、地球から比較的近い距離にある恒星約500万個を対象にダイソン球の探索を実施。
その結果、ダイソン球の可能性を否定できない天体を7個見つけています。
もちろん、現段階では単なる自然な天体である可能性の方がずっと高く、ダイソン球を実際に見つけた可能性は低いようです。
それでも、この7個の天体はかなり変わった性質を持っているので、興味深い発見と言えます。
この研究は、ウプサラ大学のErik Zackrissonさんをリーダーとする“プロジェクト・ヘーパイストス(Project Hephaistos)”が進めています。
図1.完成したダイソン球のイメージ図。力学的な制約により、ダイソン球は完全な球殻ではなく、連結されていない小さなパーツが無数に恒星を取り囲む構造をしていると予想される。(Credit: Віщун) |
恒星から放たれるエネルギーを無駄なく活用する構造物
文明は発達すればするほど、必要とするエネルギーが多くなります。
このため、地球の文明よりもはるかに高度に発達した文明は、やがて恒星から放出されるエネルギーをフル活用しなければならなくなるはずです。
恒星から放たれるエネルギーを無駄なく受けるには、恒星の大部分を覆うような巨大な構造物を作る必要があります。
このような巨大構造物は、提唱者のフリーマン・ダイソンに因んで“ダイソン球”と呼ばれています。(※1)
ただ、フリーマン・ダイソンが1960年に提唱した概念では、今日イメージされる球殻構造(sphere)の構造物ではなく、連結されていない小さなパーツが無数に恒星を周回しているようなイメージだったことに注意が必要。オリジナルの論文での“恒星を包む人工生物園(biosphere)”という表現が、いつからかbiosphereからsphereと勘違いされて生じた誤り。
では、仮に地球外の高度な文明がダイソン球を構築していたとして、それを地球からの観測で知ることはできるのでしょうか?例えば、完全にひとつながりの球殻構造や帯状構造のダイソン球は、力学的に不安定になります。
なので、ダイソン球には隙間があると予測されています。
このため、周囲にダイソン球が構築された恒星は、隙間から不規則に光が漏れることに…
これにより、異常な変光周期を持つ恒星として観測されるはずです。
そのような恒星は、タビーの星“KIC 8462852”などいくつか見つかっていますが、砕けた天体の破片によるものなど、もっと普通の自然現象として説明できることが分かっています。
高度な文明が作るダイソン球の探索
ダイソン球は、原理的には他の方法でも発見することができます。
ウプサラ大学のErik Zackrissonさんをリーダーとする“プロジェクト・ヘーパイストス”は、いくつかのダイソン球を見つけるための方法を使って天文観測のデータを分析し、ダイソン球の探索を進めています。
ヘーパイストス(ヘパイストス)は、ギリシャ神話において神々の武具などを作った炎と鍛冶の神のこと。
プロジェクト・ヘーパイストスは、分析方法および対象とする天体の違いによって、以下の3つに分類されています。
1.銀河に属する大半の恒星がダイソン球で囲まれている銀河の探索
2.天の川銀河の中で、ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星の探索
3.天の川銀河の中で、部分的にダイソン球で覆われている恒星の探索
このうち1と3については、すでにある程度の探索成果が発表されています。
1の対象である“大半の恒星がダイソン球で覆われている銀河”は、銀河330個当たり1個未満。
3の対象である“部分的にダイソン球で覆われている恒星”は、全体の90%程度を覆っているダイソン球の場合だと、存在数は恒星5万個当たり1個未満になるようです。
このように該当する銀河や恒星が存在する確率は低く、残念ながら今のところダイソン球の発見には至っていません。
赤外線の波長でのみ異常に明るく見える天体
今回の研究では、“ガイア”、2μm全天サーベイ“2MASS”(※2)、“WISE”といった、いずれも多数の天体を観測しカタログ化するプロジェクトの観測データを分析。
プロジェクト・ヘーパイストスは、2の対象である“ほぼ完全にダイソン球で覆われた恒星”について、新たな観測結果を発表しています。
※2.1997~2000年にかけてアメリカ・アリゾナ州のホプキンス山天文台と、南米チリのセロトロロ汎米天文台の望遠鏡を使った近赤外線波長域における初の全天サーベイ観測プロジェクト。
恒星の周囲を、ほぼまんべんなく覆うダイソン球が存在した場合、ダイソン球は恒星の放射をほとんど完全に遮断してしまうことになります。その一方で、エネルギーを変換する過程では排熱が必ず生じるはずです。
排熱は、熱力学の法則によって発生するもので、どんなに高度な文明であっても排熱をゼロにすることはできません。
なので、ダイソン球を遠くから観測すると、他の波長では暗いのに赤外線の波長でのみ異常に明るく輝く天体として見えるはずです。
ただ、自然にダイソン球のような環境が形成されることもあります。
たとえば、恒星を取り囲むチリや小惑星帯は、ダイソン球のように恒星からのエネルギーの一部を遮断し、受けたエネルギーの一部を赤外線として放出します。
また、銀河やクエーサーなど、無関係な天体が恒星の後ろ側に重なってしまうと、そこから放出される強力な赤外線が混ざってしまうこともあります。
図2.今回の研究では、まず約500万個の恒星から368個をフィルタリング。その後、一つずつ手作業で精査を行った結果、最終的に7個が候補として残っている。(Credit: Matías Suazo, et al.) |
今回の研究では、最初に約500万個の恒星に対し、いくつかの基準で自動的にフィルタリングを行うことで、候補を368個まで絞り込んでいます。
続いて、フィルタリングをすり抜けてしまった自然要因で説明可能な恒星が含まれていないかを、368個の候補を手作業で一つずつ精査。
その結果、ダイソン球の可能性がある天体の候補として、最終的に7個の恒星が残りました。
本研究で見つかった地球に最も近い候補は、地球から約466光年彼方に位置する“Gaia DR3 3496509309189181184”という恒星でした。
図3.今回見つかった7個の候補のうちの2つの観測結果。左側グラフは、他の波長の放射から予測される量と比べて、赤外線放射量が異常に多いことを示している。(Credit: Matías Suazo, et al.) |
破片に囲まれた赤色矮星という可能性
(写真03)
もちろん、今回の研究だけでは7個の候補がダイソン球であるかどうかを判断することはできません。
むしろ、7個ともダイソン球ではない可能性の方がずっと高いでしょう。
とはいえ、仮にこの7個がダイソン球ではなかったとしても、それはそれで面白い発見と言えます。
今回見つかった7個のダイソン球候補は、いずれも太陽よりもずっと軽くて暗い赤色矮星(※2)でした。
ダイソン球ではないと否定するもっともらしい説明は、恒星の周りを大小さまざまな岩石の破片が周回しているというものです。
でも、そのような実例はいまだに1個も見つかっていません。
なぜ、実例が見つかっていないのか、詳しい理由は判明していません。
今回の研究を通じて見つかった天体は、今まで見つかっていなかった“破片に囲まれた赤色矮星”の可能性があります。
なので、この発見をきっかけに詳細な観測を行えば、見つかってこなかった理由を解明する研究を進めることになるはずです。
いずれにしても、7個の候補がダイソン球であることを確定させるには、追加の観測が必須となります。
その過程でダイソン球では無いと判明する可能性が高いとはいえ、天文学的に興味深い天体である可能性は残されています。
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