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2つの超大質量ブラックホールが合体しようとしている!?  複雑に広がったスペクトルを発見

2024年06月21日 | ブラックホール
ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”(※1)が存在すると考えられています。
私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。
※1.大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”は宇宙には多数存在している。一方で、存在は予測されていても、確実な発見例がほとんど無い太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”もある。
銀河同士が衝突合体を繰り返すことで自身が進化していく中で、複数の超大質量ブラックホールも連星を形成すると考えられます。

理論的には、超大質量ブラックホールの連星が合体するまでのタイムスケールは、宇宙年齢に匹敵するんですねー
なので、今回の研究で観測されたセイファート1銀河(※2)に分類される“SDSS J1430+2303”は、超大質量ブラックホール同士が数年以内というタイムスケールで合体する可能性があることが示唆された特異かつ希少な天体と言えます。
※2.セイファート銀河は活動銀河の一種。銀河の形態は渦巻銀河または不規則銀河。極端に明るい中心核を持ち、通常の銀河と明らかに異なる連続光(※6)や輝線を示す。幅の広い輝線と狭い輝線が見えるセイファート銀河は1型、狭い輝線しか見えないセイファート銀河は2型と分類される。
本研究では、京都大学岡山天文台の赤外線望遠鏡“せいめい望遠鏡(口径3.8メートル)”の分光装置“KOOLS-IFU”を用いて、“SDSS J1430+2303”を1年にわたって分光観測を実施。
これにより、複雑化したHα(※3)輝線(6300‐6800Å)の起源を明らかにしています。
※3.Hαは水素原子が放射する輝線の一つ。特定のエネルギー準位を電子が遷移する際に発生するスペクトル線があり、中心波長は656.3nmに対応する。

この研究は、東北大学大学院 理学系研究科 星篤志大学院生(JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)宇宙物理学研究系所属)、宇宙科学研究所(ISAS)宇宙物理学研究系 山田亨(東北大学大学院 理学系研究科兼任)の研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年1月12日発行の天文学と天体物理学の学術雑誌“欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)”に、“The variability of the broad line profiles of SDSS J1430+2303”として掲載されました。


2つの超大質量ブラックホールが周回することで起こる光度変動

2つの超大質量ブラックホールが軌道運動することで周囲に及ぼす影響は、理論やシミュレーションによって広く議論されています。(図1)

今回の観測対象となったセイフォート1銀河の“SDSS J1430+2303”は、その中心に位置する超大質量ブラックホールに大量の物質が降着(※4)することで、非常に明るい連続光(※5)が生成され、その連続光によって照らされた原子や分子、イオンが様々な領域から輝線を放射していることが観測されています。
※4.降着は、中心にある重い天体の重力によって、周囲から物質が落下してくること。ブラックホールへ降着する物質は角運動を持つため、中心天体の周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造を作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。

※5.連続光は、ある周波数範囲でどの波長でも一定の強度があるスペクトル、輝線ではない。今回は、超大質量ブラックホール近傍から放射される連続光と、銀河から放射される連続光の二つが組み合わさっているが、変動を起こすのは超大質量ブラックホール近傍から放射される連続光。この連続光と輝線の放射されている領域が離れている場合、連続光と輝線の強度変化にタイムラグが生じる。
超大質量ブラックホールが連星を形成している可能性のある兆候の一つに、準周期的(※6)な光度変動があります。
この光度変動は、2つの超大質量ブラックホールが軌道を周回することで降着する物質の量が変化し、結果的に放射される光の量が変化することで起こります。
※6.準周期的とは、強度変化に周期性はあるものの不安定なこと。
“SDSS J1430+2303”で観測された光度変動周期の減衰では、連星軌道の周期が短縮しているので、超大質量ブラックホールが合体するまで数年以内ということが示唆されています。
図1.合体する超大質量ブラックホール連星と2つのブラックホールに降着する物質のイメージ。(Credit: Stéphane d'Ascoli et al 2018 ApJ 865 140, NASA GSFC)(出所: ISAS Webサイト)
図1.合体する超大質量ブラックホール連星と2つのブラックホールに降着する物質のイメージ。(Credit: Stéphane d'Ascoli et al 2018 ApJ 865 140, NASA GSFC)(出所: ISAS Webサイト)


超大質量ブラックホール合体による複雑なスペクトル変動

アメリカ・ニューメキシコ州アパッチポイント天文台のスローン財団望遠鏡(口径2.5メートル)を用いた大規模な掃天観測プロジェクト“スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)”によって分光されたHα領域のスペクトルを見ると、セイファート1銀河の典型的な特徴を示していました。

でも、近年になって活発化したHα輝線では、他に例を見ないほど複雑に広がったスペクトル(Central broad componentおよびDouble-peaked component)を示していたんですねー(図2)
図2.“SDSS J1430+2303”のHα領域の分光スペクトル。横軸は波長、縦軸は連続光に対する輝線の強度を示している。矢印は今回調査した広い輝線を示していて、他の細かい輝線は典型的なセイファート銀河でも観測され同定されている輝線を示している。(出所: ISAS Webサイト)
図2.“SDSS J1430+2303”のHα領域の分光スペクトル。横軸は波長、縦軸は連続光に対する輝線の強度を示している。矢印は今回調査した広い輝線を示していて、他の細かい輝線は典型的なセイファート銀河でも観測され同定されている輝線を示している。(出所: ISAS Webサイト)
そこで今回の研究では、これらの起源を明らかにするため国内最大の主鏡を持つ京都大学岡山天文台の赤外線望遠鏡“せいめい望遠鏡(口径3.8メートル)”を用いて、フォローアップ観測を1年に4度実施。
そして、複雑なHα輝線が放射される領域を特定するため、連続光の変動の時間差を利用しています。

光の伝達速度(約30万km/s)が存在することを考慮すると、輝線と連続光の変動の時間差から放射源のおおよその位置を推定することが可能です。

その結果、連続光に対して有意な変化を示したCentral broad componentは、連続光源から離れた位置から放射されていることが示されます。
一方、Double-peaked componentは観測期間を通じて有意な変化はなく、これは超大質量ブラックホール近傍から放射されていることを示していました。

すなわち、Central broad componentはセイファート1銀河で観測できる幅の広がった輝線と同じ領域であることが明らかになり、Double-peaked componentはCentral broad componentより内側に存在する降着円盤が起源である可能性が示された訳です。

今後、さらに複雑なスペクトルが変動を起こす可能性もあります。
なので、研究チームでは継続した“SDSS J1430+2303”の観測を行うことで、超大質量ブラックホールの合体に関する新たな知見を得るようです。


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