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なぜミニネプチューンは楕円軌道を公転しているのか? 赤色矮星周りの短周期惑星の軌道は潮汐力で円軌道化されるはず

2024年06月16日 | 系外惑星
今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”(※1)と地上の望遠鏡の連携観測により、4つの年老いた赤色矮星(星の年齢は10億歳以上)(※2)の周りにミニネプチューン(※3)を発見しています。
※1.“TESS”は、地球から見て系外惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにしていく。繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができる。
※2.表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型矮星)と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
※3.地球より大きく、海王星(地球の半径の約4倍)より小さな惑星。
4つのミニネプチューンは、主星の近傍に存在する高温の短周期トランジット惑星(※4)で、少なくとも3つのミニネプチューンは楕円軌道にある可能性が高いことが分かりました。
※4.地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から発見された太陽系外惑星。このように惑星の存在を探る手法をトランジット法という。
一般的に、主星に近い岩石惑星は、時間とともに軌道が円軌道に変化することが知られています。
なのに、発見したミニネプチューンは、誕生してから10億年以上が経過した現在でも楕円軌道を保持しているんですねー
このことから、これらのミニネプチューンは地球のような岩石惑星ではなく、海王星のような惑星かもしれません。

地球と天王星・海王星の間のサイズの惑星“ミニネプチューン”は、太陽系では見られない種類の天体です。
でも、太陽系外に目を向けてみると、ミニネプチューンは比較的ありふれた存在だと気付かされます。

2021年に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測ターゲットとして注目を集めるミニネプチューンは、一体どのような惑星なのでしょうか?
今回の発見は、謎に包まれたミニネプチューンの成り立ちと、その姿を解き明かす重要な手掛かりになるのかもしれません。
この研究は、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの堀安範特任助教、平野照幸准教授、東京大学大学院総合文化研究科の福井暁彦特任助教、成田憲保教授たちが参加する国際研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年5月30日にアメリカの科学雑誌“The Astronomical Journal”に、“The Discovery and Follow-up of Four Transiting Short-Period Sub-Neptunes Orbiting M dwarfs”として掲載されました。
図1.発見された系外惑星の軌道のイメージ図。主星に近い系外惑星は時間とともに円軌道化しやすいが、今回発見された系外惑星のうち、左下以外の3つは10億年以上の年齢にもかかわらず楕円軌道を維持している。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
図1.発見された系外惑星の軌道のイメージ図。主星に近い系外惑星は時間とともに円軌道化しやすいが、今回発見された系外惑星のうち、左下以外の3つは10億年以上の年齢にもかかわらず楕円軌道を維持している。(Credit: アストロバイオロジーセンター)


なぜ短周期ミニネプチューンなのに楕円軌道を公転しているのか

今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”と、地上の望遠鏡に搭載された多色撮像カメラ“MuSCAT”(※5)の連携観測によって、4つの年老いた赤色矮星の周りで謎に包まれたミニネプチューンを新たに発見しています。
※5.“MuSCAT”シリーズは、アストロバイオロジーセンターと東京大学が共同で開発した多色撮像カメラ。岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載されている。3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。今回の研究では、スペインのテネリフェ島の1.52メートル望遠鏡(MuSCAT2)とアメリカのマウイ島の2メートル望遠鏡(MuSCAT3)が用いられている。
4つのミニネプチューン“TOI-782 b”、“TOI-1448 b”、“TOI-2120 b”、“TOI-2406 b”のサイズは、地球半径の約2~3倍程度。
主星の周りをおよそ8日以内で公転しています。

さらに、ドップラーシフト法(※6)により4つの赤色矮星を観測。
すると、4つの惑星の質量の上限値として、地球質量の20倍より小さいという結果が得られました。
観測には、ハワイ島マウナケア山頂の“すばる望遠鏡”に搭載された近赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler)”が用いられています。
※6.ドップラーシフト法は、恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法。
分光器により光の波長ごとの強度分布“スペクトル”を得ることができる。この“スペクトル”は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている時には短い波長(色で言えば青い方)へ、遠ざかっている時には長い波長(色で言えば赤い方)へズレてしまう(シフトする)。この周波数の変化量を測定することで、天体の動きやその速度を知ることができる。
ドップラーシフト法の観測データからは、系外惑星の公転周期や最小質量を知ることもできる。ドップラーシフト法だけでは原理的に求められるのが惑星質量の下限値。トランジット法でも観測ができる惑星系の場合だと、その結果と組み合わせて正確に惑星質量を求めることができる。
今回、得られた惑星の質量と半径の関係から、4つの惑星は地球のような岩石惑星ではなく、少なくとも何らかの揮発性物質(例えば、H2Oといった氷物由来の材料物質や大気)を含む可能性が高いと言えます。

また、4つのうち少なくとも3つのミニネプチューン“TOI-782 b”、“TOI-1448 b”、“TOI-2120 b”は、楕円軌道にある可能性が高いことも分かりました。

一般に、赤色矮星周りの短周期惑星の軌道は、主星からの潮汐力(※7)の影響を受けて円軌道化されます。
なぜなら、潮汐力により惑星自身がわずかに変形し、それによって生じる摩擦熱でエネルギーを散逸することで、楕円だった惑星の軌道が円軌道に変化していくことが知られているからです。
※7.地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生している。このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼ぶ。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
でも、10億年以上も年老いた赤色矮星の周りを公転する短周期ミニネプチューンは、現在まで楕円軌道を維持し続けてきました。

このことから、一つの解釈として考えられるのは、短周期ミニネプチューンがあまり潮汐力の影響を受けにくい内部構造である可能性です。

実際に、惑星の質量と半径の関係からも、4つのミニネプチューンは潮汐力の影響を強く受けやすい岩石惑星ではないことが示唆されています。
なので、これらの短周期ミニネプチューンは、潮汐力の影響を受けにくい、例えば海王星に似た惑星なのかもしれません。

こうした短周期ミニネプチューンは、現在運用中のNASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による大気観測のターゲットとしても注目されているんですねー
今後の詳細な追観測によって、短周期ミニネプチューンの内部組成や大気への理解が、より一層進むことが期待されますね。


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