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高温のガスでできている太陽の直径はどうやって測るのか? 正確な直径算出は困難だけど今回は太陽の振動に基づいて算出

2023年12月28日 | 太陽の観測
太陽の直径はどのくらいあるのでしょうか?

太陽の直径は測定することが困難なので、過去に様々な値が提唱されています。

今回の研究では、太陽の直径を初めて“pモード”と呼ばれる太陽の振動に基づく計算を行い、太陽の直径を139万1560キロと算出しています。

これは、光学的に直接観測された値よりわずかに小さいもの。
一方、太陽の振動に基づく、これまでの手法の計算値よりわずかに大きな値でした。
この研究は、東京大学の高田将郎さんとケンブリッジ大学のDouglas Owen Goughさんの研究チームが進めています。
図1.2018年2月1日に撮影された太陽。太陽の直径は視覚的な太陽の縁と一致する光学的深さ基づいて定義されているが、測定方法によって異なる値が算出されている。(Credit: NASA, GSFC & Solar Dynamics Observatory)
図1.2018年2月1日に撮影された太陽。太陽の直径は視覚的な太陽の縁と一致する光学的深さ基づいて定義されているが、測定方法によって異なる値が算出されている。(Credit: NASA, GSFC & Solar Dynamics Observatory)


太陽の直径を測定する方法

太陽系唯一の恒星である太陽は、直径がどのくらいあるのでしょうか?

国際天文学連合(IAU)の作業部会が2009年に定義した太陽の直径は139万2000キロでした。

でも、この値は1891年に測定された太陽の大きさを100年以上採用してきたもの。
太陽の大きさを求める試みが続けられた結果、2015年には定義値が139万1400キロに変わっていました。
特に断りが無ければ、混乱を避けるためにこの値が引用されています。

ところが、太陽は高温のガスでできているので、地球のように個体の表面がありません。

それでは、太陽の直径を求めるにはどうすればいいのでしょうか?
簡単に言えば、光が通らなくなるほどガスの密度が濃くなる場所を“表面”とみなして、測定することになります。
これは、より正確には“光学的深さ”と呼ばれる手法による定義であり、視覚的な太陽の大きさと一致します。

ただ、太陽の正確な直径を、光学的に直接測定するのは難しいんですねー
それは、太陽は極めて明るい上に、普段の空には太陽と大きさを比べられるものが存在しないからです。

でも、数少ない例外もあります。
それは、水星や月が太陽の前を横切る太陽面通過や金環日食の発生している時間を正確に観測し、直径を直接求める方法です。

ただ、これらの天文現象は滅多に起こらない上に、大気の揺らぎなどで測定結果に誤差が生じてしまうので、正確な値を求めることは困難でした。


太陽表面に発生する振動から直径を求める

一方、1960年代に太陽の表面に発生する固有の振動が見つかったことで、振動から太陽の直径を求める“日震学”の手法でも太陽の直径が求められています。

弦楽器が弦の長さによって固有の音が出せるように、太陽の振動(日震)の周期は太陽の直径によって決まります。
つまり、振動周期を正確に求めることができれば、太陽の直径を計算により求めることができる訳です。

この手法だと、太陽の表面を詳細に観測できれば、時期に依存せずに求めることができます。

これまで、太陽の直径を振動周期で求めるには“fモード”と呼ばれる振動を利用してきました。
この振動を利用するメリットは、太陽の表面に現れやすいので、測定しやすいというものでした。

国際天文学連合における太陽の直径の定義値も、fモードを元に太陽の直径を計算した研究をもとに定められています。

でも、一部にあるのが「fモードは太陽表面に正確に表れていないのではないか」っという見解でした。
この見解が正しいと、fモードは太陽の直径を正確に反映していないことになります。

実際、光学的に直接観測された太陽の直径と、fモードに基づき計算した太陽の直径にはズレがあり、このことは太陽観測における問題として残されていました。

例えば、国立天文台では、古い値であることを承知の上で、国際天文学連合の2009年の定義である139万2000キロを太陽の直径として引用しています。
これは、光学的な直接観測による太陽の直径に近い値でした。


振動モードによって太陽の直径が変わってしまう

本来、直接観測と計算値には大きなズレは生じないはずです。
それでも、問題が発生しているということは、太陽の振動に関する理解が不十分だということになります。

そこで、今回の研究で試みているのは、“pモード”と呼ばれる別の振動モードに基づく太陽直径の計算でした。

“pモード”は、より太陽の表面に近い場所で反射されると考えられていて、太陽の正確な直径を反映すると考えられます。
また、“pモード”は太陽内部の活動によって発生した波で、発生状況が太陽内部の物質密度を正確に反映していることが予測されます。

このため、正確な太陽モデルを用意し、“pモード”に基づく計算を行えば、より正確な太陽の直径を計算できると、研究チームは考えた訳です。
図2.太陽の直径に関する過去の値と、今回の測定結果との比較。(Credit: 彩恵りり氏)
図2.太陽の直径に関する過去の値と、今回の測定結果との比較。(Credit: 彩恵りり氏)
計算の結果、“pモード”に基づく太陽の直径は139万1560キロ(±320キロ)と算出されました。

これは、光学的な測定に基づいた値139万2000キロよりわずかに小さいもので、“fモード”に基づいた値139万1400キロよりわずかに大きな値でした。
“pモード”に基づく太陽直径の算出は初めてのことでした。

今回の研究から分かったのは、算出される太陽の直径が振動モードによって変わってしまうこと。
この点から、これまでの研究に用いられている太陽のモデルの正確性に疑問符を付ける結果となりました。

ただ、太陽のモデルに対する太陽の振動の表れ方や伝わり方は極めて複雑なので、この結果だけでは太陽のモデルを書き換えることは困難です。

実際、他の研究では異なる太陽の直径が算出されています。
この結果は、異なるモデルやデータに基づいて計算されたものかもしれません。
もしくは太陽の直径そのものが活動によって変化している可能性もあります。

今回の研究では、太陽の正確な直径を算出することはできませんでした。
でも、太陽直径の研究を続けることは、太陽の性質そのものをより深く知ることに繋がり、結果として太陽以外の恒星についての理解を深めることにも繋がるはずです。


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