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惑星の形成はどのようにして始まるのか? アルマ望遠鏡が見つけた“のっぺり”とした円盤は惑星形成前夜の様子だった

2023年12月11日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
誕生したばかりの恒星(原始星)の周りに広がる、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。
これを原始惑星系円盤と呼び、恒星の形成や円盤の中で誕生する惑星の研究対象となっています。

今回の研究では、比較的若い原始星“おうし座DG”周りの原始惑星系円盤を対象に、アルマ望遠鏡による高解像度観測や多波長観測を行い、円盤の構造や惑星の材料となるチリの大きさ、量について詳細に調べています。

すると、円盤はのっぺりとっしていて、惑星の痕跡がないことから惑星形成前夜の様子であることが判明します。

さらに、チリが外側で大きく成長していたり、内側では通常よりチリの濃度が上昇していることも分かりました。

惑星の形成は、どのように始まるのでしょうか?
この研究では、その最初の一歩を明らかにしたようです。
この研究は、国立天文台の大橋 聡史特任助教たちの国際研究チームが進めています。
図1.アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長1.3ミリの電波強度マップ。より年を経た原始星周囲の円盤とは異なり、リング模様のような構造形成が進んでおらず、惑星形成の直前であることが示唆される。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
図1.アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長1.3ミリの電波強度マップ。より年を経た原始星周囲の円盤とは異なり、リング模様のような構造形成が進んでおらず、惑星形成の直前であることが示唆される。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)


惑星の形成はどのようにして始まるのか

地球のような惑星は、どのようにして作られたのでしょうか?

この謎を解明することは私たちの生命の起源を知る上でも重要な問題といえます。

惑星は、原始星の周りを取り巻く原始惑星系円盤内で星間チリ(ダスト)や星間ガスが集まって形成されると考えられています。
でも、“いつ”、“どこで”、“どのように”して惑星形成が始まるのか、その最初の一歩は分かっていません。

一方、惑星が円盤内で作られると、その重力によって円盤にリングのような模様ができることが知られています。
実際、アルマ望遠鏡(※1)の観測では、多くの原始惑星系円盤でリング構造が見つかっていて、そこには惑星の存在が示唆されています。

ただ、惑星が作られる過程を調べるには、まだ惑星が存在していないことが確実な円盤を、詳細に調べることが重要になります。

でも、そのような惑星の痕跡がない円盤を発見することの困難さや、その円盤を詳細に調べることの難しさから、惑星形成がどのように始まるのか、その様子はまだはっきりとは分かっていません。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。


リング模様が見られない“のっぺり”とした原始惑星系円盤

今回の研究で着目しているのは、原始星の中でも比較的若い天体“おうし座DG”。
“おうし座DG”を取り巻く原始惑星系円盤を、アルマ望遠鏡を用いて詳細に調べています。

円盤内のダストが放つ波長1.3ミリの電波強度の分布を0.04秒角という非常に高い空間分解能で観測することで、円盤の詳細な構造が明らかになりました。

その結果分かったのは、“おうし座DG”周囲の円盤は“のっぺり”としていること。
比較的年を経た原始星の周囲の円盤で見られるリングのような模様が見られないことでした。

このことが意味しているのは、“おうし座DG”の円盤には、まだ惑星は存在していないこと。
そう、惑星形成前夜の様子をとらえたと考えられるんですねー
図2.(上)アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリの電波強度マップおよび、波長0.87ミリ、3.1ミリにおけるダストにより散乱される電波の偏向強度マップ。(下)上の観測結果と最もよく一致した場合の観測シミュレーション。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
図2.(上)アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリの電波強度マップおよび、波長0.87ミリ、3.1ミリにおけるダストにより散乱される電波の偏向強度マップ。(下)上の観測結果と最もよく一致した場合の観測シミュレーション。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
さらに、波長を変えて円盤を観測(0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリ)し、その電波強度や偏向強度(電波の波の振動方向がどれだけ揃っているのかの度合い)を調べています。

ダストの大きさや量の分布パターンに応じて、異なる波長の電波強度の比や、ダストにより散乱される電波の偏向強度が変わります。
このことから、観測結果をダストの大きさや量の分布が様々なパターンでの観測シミュレーションと比較し、よく一致するパターンを探し出すことで、惑星の材料となる星間ダストがどの程度成長しているのか、その大きさや量の分布を推定することができます。

その結果、ダストの大きさは円盤の内側よりも、外側(およそ40天文単位以遠)(※2)の方が比較的大きい、すなわち惑星形成の過程が進んでいることが分かりました。
※2.1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。40天文単位は、太陽~海王星間の距離よりも少し遠くになる。
これまでの惑星形成論では、内側から惑星の形成が始まると考えられていました。
でも、今回の結果が示していたのは、その予測と反すること。
むしろ外側から惑星の形成が始まる可能性でした。

一方、ダストの大きさは小さくなりますが、内側でもガスに対するダストの含有量が、通常の星間空間よりも10倍程度高いことが分かりました。

さらに、これらのダストは円盤面によく沈殿していて、惑星を作る材料をため込んでいる段階だと考えられます。
今後、このダストのため込みを引き金として、惑星の形成を開始する可能性が考えられます。

今回の観測は、アルマ望遠鏡の0.04秒角という非常に高い空間分解能に加え、3つの波長で偏光を含むダストの放つ電波を観測したことにより、可能となりました。

惑星の痕跡がない“のっぺり”とした円盤で、ダストの大きさや量を明らかにしたのは、今回の研究が世界で初めてのこと。
この研究により、これまでの理論研究や、惑星形成の痕跡が見られる円盤の観測では予想できなかった惑星形成現場の新たな側面が見えてきました。

これまでのアルマ望遠鏡を用いた観測では、多様な円盤構造をとらえることに成功し、惑星の存在を明らかにしてきました。

一方で、惑星形成がどのようにして始まるのか? っという問いには、惑星星形成の痕跡がない、“のっぺり”とした円盤の観測が重要になります。
今回の研究では、その惑星形成の初期条件を明らかにしたという点で非常に重要な成果だと言えます。
この研究成果は、Satoshi Ohashi et al. “Dust Enrichment and Grain Growth in a Smooth Disk around the DG Tau Protostar Revealed by ALMA Triple Bands Frequency Observations”として、アメリカ学術雑誌“The Astrophysical Journal (アストロフィジカル・ジャーナル)”に2023年8月28日付で掲載されました(DOI: 10.3847/1538-4357/ace9b9.)。


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