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なぜ小惑星リュウグウの見え方は宇宙と実験室で違うのか? “現地観測”と“サンプルリターン後の分析”の組み合わせで得られた成果

2023年12月09日 | 太陽系・小惑星
JAXAの小惑星探査機“はやぶさ2”は、2020年12月に小惑星リュウグウ(162173 Ryugu)のサンプルを地球に持ち帰ってきました。

“はやぶさ2”が探査した“リュウグウ”は、NASAの“オシリス・レックス”が探査した小惑星“ベンヌ”と同じ有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含む“C型小惑星”と呼ばれる天体に分類されます。

このような天体には、太陽系形成時の情報が残されていると考えられ、サンプルの分析から地球や生命の起源に迫る情報が得られると期待されています。

今回の研究では、“はやぶさ2”がリュウグウを観測した可視光線に含まれる近赤外線の反射スペクトルと、実験室で測定したリュウグウ粒子の反射スペクトルとを比較。
すると、小惑星リュウグウの反射スペクトルが、リュウグウで観測したデータと地球に持ち帰れたサンプルの分析とで違いが見られたんですねー

どうやら、この違いの原因は、リュウグウのようなタイプの小惑星では、宇宙風化が進みやすいことにあるようです。
この研究は、産総研地質調査総合センターの松岡萌さんたちの研究チームが進めています。

“C型小惑星”は太陽系形成時の情報を内包したタイムカプセル

太陽系に存在するほぼ全ての物質は、46億年前の太陽系創世の際に、その元になった星間分子雲に存在した物質から形成されたものになります。
中には、別の恒星系からやってきて太陽系に居ついた物質がある可能性もありますが…

でも、どのような化学物質がどのように変化したのかなど、宇宙における分子進化に関しては、まだ多くの謎が残されています。

星間分子雲に存在する水やアンモニア、メタノールなどの比較的単純な構造を持つ分子は、極低温(-263度)環境での光化学反応によって、より複雑な構造を持つアミノ酸や糖などの複雑な生体関連分子へと変化していきます。

そして、その一部は惑星系形成時に星の材料として取り込まれていくことになります。

それゆえ、有機分子を多く含むC型小惑星や、そのかけらである炭素質コンドライト隕石は、46億年前の太陽系形成時の情報を内包したタイムカプセルとして重要視されています。

地球へのサンプルリターンを成し遂げた“はやぶさ2”が探査した小惑星“リュウグウ”、NASAの“オシリス・レックス”が探査してた小惑星“ベンヌ”も“C型小惑星”と呼ばれる炭素質の小惑星になります。

そう、“はやぶさ2”や“オシリス・レックス”は、C型小惑星からのサンプルリターンのために、それぞれの小惑星に向かったわけです。

分析結果が小惑星と実験室で違う理由

今回の研究では、リュウグウで取得した粒子のうち大きさが1~8mmの比較的大きなものに対して、反射スペクトル測定など様々な分析を行っています。

反射スペクトル測定は、ターゲットを破壊せずに表面の物質情報を調べることができる分析手法として、実験室から宇宙空間まで広く利用されています。

“はやぶさ2”が、リュウグウを間近で直接探査し取得した反射スペクトルからは、リュウグウはC型小惑星(※1)のうち、特にCb型と呼ばれるタイプであることが示されています。
※1.C型小惑星は、さらにb型小惑星、f型小惑星、g型小惑星に分類され、NASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が探査を行った“ベンヌ”もC型の中ではb型小惑星に分類される。
Cb型は炭素質物質に加えて水和鉱物や粘土を含む小惑星で、CIコンドライトという始原的な炭素質隕石によく似た物質で構成されています。
(左下)採取されたリュウグウのサンプル。(右)“はやぶさ2”が撮影したリュウグウの表面。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変。JAXA, 東京大学, 高知大学, 立教大学, 名古屋大学, 千葉工業大学, 明治大学, 会津大学, 産業技術総合研究所)
(左下)採取されたリュウグウのサンプル。(右)“はやぶさ2”が撮影したリュウグウの表面。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変。JAXA, 東京大学, 高知大学, 立教大学, 名古屋大学, 千葉工業大学, 明治大学, 会津大学, 産業技術総合研究所)
研究では、“はやぶさ2”がリュウグウを観測した可視光線に含まれる近赤外線の反射スペクトルと、実験室で測定したリュウグウ粒子の反射スペクトルとを比較。
すると、明るさやスペクトルの傾きなどの特徴はよく似ている一方で、水を含む粘土鉱物である含水ケイ酸塩の存在を示すOH吸収の深さに2倍以上の違いが見られました。

研究チームは、観測データと測定データの不一致の要因として、宇宙風化度の強弱、粒子の大きさの違い、粒子間の隙間の程度という3つの可能性を挙げています。

次に、これらの要因を実験的に再現して反射スペクトルの変化の調査を実施。
すると、宇宙風化作用を受けてリュウグウの表面で結晶レベルの脱水が進んでいた影響が、最も大きいと考えられることが示されます。
リュウグウ表面とリュウグウ粒子の代表的な反射スペクトル。波長2.7μm付近のOH吸収の部分に大きな差が見られる。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変)
リュウグウ表面とリュウグウ粒子の代表的な反射スペクトル。波長2.7μm付近のOH吸収の部分に大きな差が見られる。(提供:M. Matsuoka et al. 2023の図を引用・改変)
また、S型小惑星イトカワとの比較から分かったのは、Cb型小惑星ではどこも均一に宇宙風化が進むのが、S型小惑星では一部が風化せずに残ること。
このことから、Cb型小惑星はS型小惑星よりも、宇宙風化が進みやすいのかもしれません。

今回の結果は、“探査機による小惑星での観測”と“地球でのサンプル分析”の組み合わせにより得られたもので、サンプルリターンの重要性を示す画期的な成果になります。

9月末にはNASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が、小惑星ベンヌのサンプルを地球に持ち帰ったばかりです。

Cb型の小惑星に分類されるベンヌのサンプル分析が進み、リュウグウやイトカワと比較研究されることで、新しい知見が得られるはず。
小惑星の形成や進化過程、さらには地球の水や生命の起源といった、太陽系科学に大きな進展がもたらされるといいですね。


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