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非常に混雑した場所で発生した衝突事故が原因? 超新星爆発が観測されないロングガンマ線バースト“GRB 191019A”

2023年09月09日 | 宇宙 space
“ガンマ線バースト”は宇宙で起こる最も活発な天文現象の一つですが、その起源はよく分かっていません。

今回、研究の対象になったのは、ガンマ線バーストの一つである“GRB 191019A”。
“GRB 191019A”はガンマ線の継続時間からロングガンマ線バーストのはずでした。

でも、ガンマ線の放出にともなう超新星爆発が観測されなかったんですねー

そこで研究チームが考えたのは、“GRB 191019A”が非常に混雑した銀河の中心部で、恒星やコンパクト星が衝突したことによって起こったということ。
重力を介して結びつけられた連星関係にない天体同士の衝突によるガンマ線バーストを観測したのは、史上初になるようです。
この研究は、ラドバウド大学のAndrew J. Levanさんたちの研究チームが進めています。

ガンマ線の放出時間が違う2種類のバースト

ガンマ線バーストは、短時間で非常に大量のガンマ線が放出される、宇宙で最もエネルギッシュな天文現象の一つです。

でも、ガンマ線バーストがどのようにして起こるのか、正確なことは判明していないんですねー

これまでの研究により、ガンマ線の放出時間が2秒未満の“ショートガンマ線バースト”と、2秒以上続く“ロングガンマ線バースト”では、その起源が大きく異なることが分かっています。

ショートガンマ線バーストは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星同士が合体したときに発生すると考えられています。

その一方でロングガンマ線バーストは、非常に質量の大きな恒星の核が重力崩壊することで誕生したブラックホールの活動によって発生するようです。
太陽のおよそ8倍以上の質量を持った星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなり、星は自身の重力を支えきれずつぶれてしまう。この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“重力崩壊型超新星爆発”を起こすと考えられている。爆発の後には中性子星やブラックホールといったコンパクト天体が残される。
このことは、ガンマ線バーストと同じ位置で超新星爆発が見つかるかどうかを確かめることで裏付けられています。

ただ、ロングガンマ線バーストは、超新星爆発直前の恒星で発生するので、しばしばガンマ線以外の波長でも“残光”と呼ばれるエネルギーの放出が観測されます。
一方、ショートガンマ線バーストの場合は、ごく最近まで残光が観測されることはなく、少なくとも超新星爆発よりもずっと弱い活動しか観測されていませんでした。

超新星爆発が観測されないロングガンマ線バースト

ただ、ガンマ線バーストの観測例が増えるに従って、上記の2種類に当てはまらない例外が存在することが明らかになってきます。

今回の研究対象になった“GRB 191019A”もその一つでした。

“GRB 191019A”のガンマ線継続時間は約1分(64.4±4.5秒)ほど。
単純に分類すればロングガンマ線バーストということになります。

でも、“GRB 191019A”は通常のロングガンマ線バーストとは異なっていました。
その理由は、ガンマ線の放出にともなう超新星爆発が観測されなかったんですねー

そこで研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡、北欧光学望遠鏡、ジェミニ望遠鏡で取得された観測データの分析を実施。
すると、“GRB 191019A”の起源が、地球から約30億光年の位置にある、誕生から10億年以上経った銀河の中心部付近(300光年以内)にあることが分かります。

誕生からある程度の時間が経過したこのような銀河では、通常のロングガンマ線バーストの起源になる大質量星は生き残っておらず、新たな大質量星を生み出す活発な星形成活動も確認されていません。

この銀河では超新星爆発が観測されていないことも、“GRB 191919A”の起源が超新星爆発ではないと推定する根拠になりました。
図1.ロングガンマ線バースト“GRB 191019A”と、それが出現した銀河の画像。(a)北欧光学望遠鏡の撮影画像。(b)“GRB 191019A”出現前に撮影された画像と比較した明るさ変化の差分。黒い点が“GRB 191019A”による増光分。(c)ハッブル宇宙望遠鏡の撮影画像。(d)画像cの拡大写真。円は推定される“GRB 191019A”の位置。円の色は使用された観測波長を意味していて、波長によって推定位置が少しずつ異なることが示されているが、いずれも銀河の中心部に極めて近い位置にある。(Credit: Andrew J. Levan, et.al.)
図1.ロングガンマ線バースト“GRB 191019A”と、それが出現した銀河の画像。(a)北欧光学望遠鏡の撮影画像。(b)“GRB 191019A”出現前に撮影された画像と比較した明るさ変化の差分。黒い点が“GRB 191019A”による増光分。(c)ハッブル宇宙望遠鏡の撮影画像。(d)画像cの拡大写真。円は推定される“GRB 191019A”の位置。円の色は使用された観測波長を意味していて、波長によって推定位置が少しずつ異なることが示されているが、いずれも銀河の中心部に極めて近い位置にある。(Credit: Andrew J. Levan, et.al.)

非常に混雑した場所で発生した衝突事故

“GRB 191919A”が銀河の中心部で見つかったことで、研究チームではロングガンマ線バーストの起源として、これまで想定されてきた超新星爆発直前の恒星とは別の起源を考え始めます。

“GRB 191019A”が発生した銀河と年齢が同程度の銀河の中心部は、数光年の範囲に100万個以上もの恒星が詰め込まれている非常に混雑した場所です。

そのような環境では、恒星やコンパクト星がかなり頻繁に“衝突事故”を起こすと考えられています。

そこで研究チームが考えたのは、“GRB 191019A”が銀河の中心部にある恒星密度の高い星団“中心核星団(Nuclear Star Cluster)”の内部、もしくは超大質量ブラックホール周辺の降着円盤において、連星を成していない恒星とコンパクト星、もしくはコンパクト星同士の衝突によって発生したということ。
図2.ロングガンマ線バースト“GRB 191019A”のイメージ図。この図は超大質量ブラックホールの周辺部で天体同士の衝突が起きたという推定で描かれている。(Credit: International Gemini Observatory / NOIRLab / NSF / AURA / M. Garlick / M. Zamani)
図2.ロングガンマ線バースト“GRB 191019A”のイメージ図。この図は超大質量ブラックホールの周辺部で天体同士の衝突が起きたという推定で描かれている。(Credit: International Gemini Observatory / NOIRLab / NSF / AURA / M. Garlick / M. Zamani)
重力を介して結びついた連星同士の関係にはなかった天体が、遭遇・衝突して発生したガンマ線バーストを観測したのは、今回の“GRB 191019A”が初めてのことでした。

このようなガンマ線バーストは、どの程度の頻度で起きているのでしょうか?
このことを知ることができれば、天体同士の衝突に伴う重力波の放出頻度を推定することにもつながります。

なぜ、このようなガンマ線バーストが、これまで見つからなかったのでしょうか?
それは、銀河中心がチリとガスに満ちた領域であり、ガンマ線の放出を隠していたためだとも考えられます。

ガンマ線バーストの研究には、まだまだ様々な波長の観測データが欠かせません。
なので、これからも世界中の天文台が連携して取り組む必要がありますね。


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