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軽い惑星ほど弾き飛ばされて浮遊惑星になっている? 浮遊惑星の質量分布や存在量を調べると惑星形成とその進化が分かってくる

2023年09月10日 | 宇宙 space
今回は太陽のような恒星(主星)を公転しない浮遊惑星のお話。
大阪大学の発表によると、浮遊惑星候補天体を6個発見し、そのうちの1個が史上2例目になる地球質量程度だと判明したそうです。

なんでも、浮遊惑星は主星を公転する惑星よりもはるかに多く存在し、地球質量の浮遊惑星はありふれた存在なんだとか。

この浮遊惑星の質量分布や存在量の解明は、惑星の形成とその進化の解明にもつながると期待されているようですよ。
この研究成果は、大阪大学大学院 理学研究科の住貴宏教授、大阪大学大学院 理学研究科の越本直季特任教授(常勤)に加え、NASA、ニュージーランドの研究者が参加する国際共同研究チーム“MOA”によるものです。

惑星系から弾き飛ばされた天体

これまでに5000個以上の惑星が太陽系の外で見つかっています。

ほぼ全てが主星(恒星)を公転していますが、こうした惑星が多く発見されるのは、明るい主星の光を使って間接的に検出できるからです。

一方、主星の周りで誕生した惑星のいくつかは、他の惑星の影響で軌道を乱されて、主星の重力圏外に弾き飛ばされることがあります。
このような惑星は、恒星間空間を漂う浮遊惑星(自由浮遊惑星)になると予想されています。

ただ、主星から離れて単独で存在する浮遊惑星は、そのままでは暗すぎて観測が難しいんですねー

でも、浮遊惑星のように暗い天体でも、地球から見た時に偶然遠くの恒星の前を通過すれば、惑星の周りのゆがんだ時空がレンズの役割を果たして、遠い恒星からの光を増幅したり曲げたりします。
このような“重力マイクロレンズ”と呼ばれる現象を利用して天体を見つける手法は、浮遊惑星の検出にも有効です。
重力マイクロレンズ法とは、系外惑星の質量によって生じる重力レンズ効果の観測からレンズ源になっている惑星の存在を検出する手法。現時点では主星から離れた土星より軽い系外惑星を検出できる唯一の方法になる。
重力マイクロレンズを利用した浮遊惑星探索の解説動画。観測者が左、恒星が右の点線で囲まれた円内にあり、その間を浮遊惑星が通ると重力レンズ効果で恒星の光が2つの経路に分かれて観測者に届く。その時に恒星の像が見える方向とその明るさが、実際の位置の両側に描かれている。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab)

重力マイクロレンズ法による浮遊惑星の発見

日本とニュージーランドによる共同プロジェクト“MOA(Microlensing Observations in Astrophysics:宇宙物理マイクロレンズ観測)”では、ニュージーランド南島マウントジョン天文台にある口径1.8メートルのMOA-II望遠鏡を天の川銀河の中心方向に向け、重力マイクロレンズ現象の観測を続けてきました。

1996年から実施している“MOA”が発見した浮遊惑星候補は6個。
でも、地球と同等の質量の軽い浮遊惑星は1個しか発見されておらず…
それらの質量分布や存在量は分かっていなかったんですねー

今回、長期間の重力マイクロレンズ法による観測によって、浮遊惑星候補が系統的に探査されることになり、その質量分布と存在量を見積もることが可能になりました。

MOAの観測では、天の川銀河の中心方向で毎年約600個の重力マイクロレンズ現象で明るくなった星が発見されています。

重力マイクロレンズ現象は、レンズ天体が軽いほど増光期間が短くなります。

恒星の場合だと、増光期間は数週間から2か月程度。
0.5日以下の短いマイクロレンズ現象になると、惑星質量の可能性が高くなります。

浮遊惑星は主星を公転する惑星よりも多い

今回の研究では、2006~2014年までの9年間の観測データが系統的に解析され、6111個のマイクロレンズ現象を発見。
一定の基準を満たす3535個が選び出され、そのうちの6個が増光期間が0.5日以下の浮遊惑星候補になっています。

さらに、そのうちの1個“MOA-9y-5919”は、増光期間が0.06日(約1時間25分)と特に短く、地球質量程度と推定。
“MOA-9y-5919”は地球質量の浮遊惑星としては2例目の発見になりました。
地球質量の浮遊惑星マイクロレンズ現象“MOA-9y-5919”の光度曲線。横軸は時間(日)で縦軸は増光率。(上段)9年間。(中団)増光部分の拡大。(下段)赤線のモデルからの残差。(Credit: 大阪大学)
地球質量の浮遊惑星マイクロレンズ現象“MOA-9y-5919”の光度曲線。横軸は時間(日)で縦軸は増光率。(上段)9年間。(中団)増光部分の拡大。(下段)赤線のモデルからの残差。(Credit: 大阪大学)
数時間という短い増光現象を検出できる確率は低く、それでも2例見つかったということは、地球質量の浮遊惑星がありふれた存在だということを示唆しているのかもしれません。
地球質量の浮遊惑星のイメージ図。(Credit: NASA/GSFC)
地球質量の浮遊惑星のイメージ図。(Credit: NASA/GSFC)
また、発見された現象を統計的に解析し、浮遊惑星の存在量と質量分布を求めてみると、浮遊惑星は地球質量のように軽いものほど、より多く存在することが導き出されました。

さらに分かってきたのは、浮遊惑星が星1個に対して20個程度(8~44個)存在することでした。

このことから見積もられるのは、これまでに見つかっている主星を公転する惑星よりもはるかに多い、1兆個以上もの浮遊惑星が天の川銀河に存在すること。
他にも、質量が地球の10倍以上になると主星を公転する惑星の方が多いことに加え、それ以下の軽い惑星は浮遊惑星の方が多いことも明らかになりました。

これは、軽い惑星は主星による重力的な束縛が弱くなるので、重い惑星よりも弾き飛ばされやすいという予想と一致する結果でした。

研究チームでは、惑星形成とその進化を理解するには、主星を公転する惑星だけではなく、浮遊惑星の存在量と質量分布を知ることが重要であり、今回の研究成果はその理解に貢献できると期待しています。
浮遊惑星から恒星までの質量分布。横軸は質量で縦軸は存在量に比例。緑線は浮遊惑星。青は星と褐色矮星。赤線は恒星・褐色矮星・浮遊惑星の合計。灰色は主星周りの惑星。ピンクは保守的にみた浮遊惑星の不定性。地球質量の10倍以上では主星周りの惑星の方が多いく、それ以下の軽い惑星では浮遊惑星の方が多い。なので軽い惑星ほど弾き飛ばされて浮遊惑星になりやすいと考えられる。(Credit: 大阪大学)
浮遊惑星から恒星までの質量分布。横軸は質量で縦軸は存在量に比例。緑線は浮遊惑星。青は星と褐色矮星。赤線は恒星・褐色矮星・浮遊惑星の合計。灰色は主星周りの惑星。ピンクは保守的にみた浮遊惑星の不定性。地球質量の10倍以上では主星周りの惑星の方が多いく、それ以下の軽い惑星では浮遊惑星の方が多い。なので軽い惑星ほど弾き飛ばされて浮遊惑星になりやすいと考えられる。(Credit: 大阪大学)

惑星形成とその進化の解明に向けて

昨年、南アフリカ共和国に新たに1.8メートル PRIME望遠鏡が建設されました。
この望遠鏡は、これまでの可視光による観測ではなく近赤外線で観測することができ、より多くのマイクロレンズ現象の観測につながることが期待されています。
そして、より多くの浮遊惑星が発見されるはずです。

この他にも、NASAが2026年10月から2027年5月までの間に打ち上げを予定しているナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(NGRST)があります。
この望遠鏡は、宇宙から重力マイクロレンズ探査を行い、数万個のマイクロレンズ現象を発見し、1000個以上の主星を公転する惑星を発見すると期待されています。

今回の研究成果を踏まえると、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡の性能だと約1000個の浮遊惑星候補を発見できると推定されているんですねー
そのうちの約400個が地球質量程度のものになるそうです。

なので、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が観測を始めれば、浮遊惑星の質量分布や存在量がより正確に解明されることになるはず。
その結果として、系外惑星全体の形成過程と進化の解明につながることが期待されます。
私たちの住む太陽系や地球の起源の解明にも役立つはずです。


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