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天体の合体現象だと短いはず… なのに、見つかったのは超新星爆発のような継続時間の長いガンマ線バーストだった

2023年01月13日 | 宇宙 space
天体の合体現象で発生するガンマ線バーストは継続時間が短いはず。
なのに、超新星爆発を起こすことで発生するガンマ線バーストのように、継続時間の長いガンマ線バーストが見つかったんですねー
これまで、大きく2つのタイプがあると考えられていたガンマ線バーストですが、この分類とは合わない奇妙なものもあるようです。

突発的なガンマ線の増光現象

ガンマ線バーストは、遠くの宇宙で発生する突発的なガンマ線の増光現象です。
 ガンマ線バーストは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象。
これまでの観測から考えられていたのは、ガンマ線バーストには大きく2つのタイプがあること。
1つは、重い星が超新星爆発を起こすことで発生し、継続時間が2~数分という長いバースト“ロングガンマ線バースト”。
もう1つは、中性子星同士や中性子星とブラックホールの合体で発生する、継続時間が2秒未満の短いバースト“ショートガンマ線バースト”です。

2021年12月11日、うしかい座の方向で検出されたのは、継続時間が約50秒のロングガンマ線バーストでした。

その残光は各地の望遠鏡で観測されていました。
ただ、それは普通のロングガンマ線バーストの残光よりはるかに暗く、短い時間で減光していったんですねー

このような残光の特徴は、むしろショートガンマ線バーストの特徴に一致することに…

そこで、この現象に対する研究成果が、4つの研究チームによる5編の論文として同時公開されます。
どれも、“GRB 211211A”は中性子星の合体で発生したロングガンマ線バーストという、かつてない「変わり種」のガンマ線バーストだとするものでした。
(左)ハワイのジェミニ北望遠鏡がとらえた“GRB211211A”の残光と母銀河“DSS J140910.47+275320.8”。(右)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた残光。(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani; NASA/ESA)
(左)ハワイのジェミニ北望遠鏡がとらえた“GRB211211A”の残光と母銀河“DSS J140910.47+275320.8”。(右)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた残光。(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani; NASA/ESA)

起源は中性子星同士の合体で起こるキロノバ

“GRB 211211A”のガンマ線検出から数分後には、可視光線や紫外線、X線により対応天体の位置を同定。
このガンマ線バーストが発生しのは、うしかい座の方向約11億光年彼方に位置する“SDSS J140910.47+275320.8”という銀河だということが分かっています。

これまで、ほとんどのガンマ線バーストは、60億光年以上離れた遠方の銀河で発生していました。
でも、“GRB 211211A”の母銀河はかなり近かったので残光が明るく、詳細な観測データが得られています。

この観測データから、アメリカ・ノースウェスタン大学のJillian Rastinejadさんたちは、“GRB 211211A”の残光が可視光線よりも近赤外線でより明るいことを発見。
これは、中性子星同士の合体で起こる“キロノバ”と同じ特徴でした。
 “キロノバ”は、中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている爆発現象。白色矮星への質量降着による爆発で生じる新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれる。超新星(スーパーノバ)と比べると10分の1から100分の1程度の明るさになる。中性子を多く持つ鉄より重い元素のほぼ半分を合成すると考えられている。
“キロノバ”では大量の重元素のチリが放出されるので、可視光線はチリにさえぎられてしまいます。
でも、赤外線はチリを透過できるので、そのまま地球に届くんですねー

この特徴から“GRB211211A”は“キロノバ”が起源だと、Rastinejadさんたちは結論付けています。

また、イタリア・ローマ・トル・ベルガータ大学のEleonora Trojaさんたちも、独立した残光の観測から、このガンマ線バーストは“キロノバ”が起源ではないかと推定しています。

いろいろある発生のメカニズム

“キロノバ”がショートガンマ線バーストではなく、ロングガンマ線バーストに関連していることが示唆された観測例は、今回の“GRB211211A”が初めてのことでした。

ただ、“GRB211211A”が発生した母銀河は若くて星形成が活発な銀河。
なので、タイプとして近いのは、ロングガンマ線バーストの起源とされる大質量星の超新星爆発がよく起こる銀河になります。
“キロノバ”がよく発生する、星形成が衰えて老齢の星が多い銀河とは対照的なんですねー
中性子星の衝突で引き起こされるキロノバのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
中性子星の衝突で引き起こされるキロノバのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)
さらに、“GRB211211A”では、ガンマ線バーストの発生から約16分後に、エネルギーが数GeVという別のガンマ線放射が5時間以上も続いたことが分かっています。

そこで、イタリア・グランサッソ科学研究所のAlessio Meiさんたちは、このガンマ線放射が“キロノバ”から放射された光が「種」になったのかもしれないと考えます。

ただ、天体の合体現象の残光で、こうした高エネルギーのガンマ線が過剰に検出されたのは、これが初めてでした。

このガンマ線は、“キロノバ”から出た可視光線とジェットの中の電子が衝突して発生した可能性があります。
ジェットは、元々のガンマ線バーストのジェットが弱まったものかもしれないし、中性子星の合体でできたブラックホールやマグネターから新たに発生したものかもしれません。

Jillian Rastinejadさんの研究チームのメンバーでもあるイギリス・バーミンガム大学のBenjamin Gompertzさんたちは、高エネルギーガンマ線のスペクトル観測から、このガンマ線が光速に近い電子から発生する“シンクロトロン放射”であることを突き止めています。

Gompertzさんたちが考えているのは、中性子星の合体でできた“原始マグネター”の磁場によって電子が加速され、高エネルギーのガンマ線が発生したというメカニズムです。

一方、南京大学のBin-Bin Zhangさんたちは、このいくつもの奇妙な特徴を持つ“GRB211211A”の正体について、白色矮星と中性子星の連星が合体して“キロノバ”になり、合体後には“マグネター”ができたと考えると全ての特徴を説明できるとしています。
2つの中性子星が合体する様子を描いたイラスト。高速の粒子ジェットが噴出するとともに、周囲では合体の残骸物質の雲ができる。(Credit: A. Simonnet (Sonoma State University) and NASA’s Goddard Space Flight Center)
2つの中性子星が合体する様子を描いたイラスト。高速の粒子ジェットが噴出するとともに、周囲では合体の残骸物質の雲ができる。(Credit: A. Simonnet (Sonoma State University) and NASA’s Goddard Space Flight Center)
過去20年以上にわたるガンマ線バーストの研究から、大質量星からロングガンマ線バーストが起こり、中性子星合体からショートガンマ線バーストが起こるという、バーストの継続時間と起源天体を直接対応付けるきれいな結論が導かれていました。

でも、自然はこのような理論よりもずっと複雑であることが今回の研究で分かったわけですね。
ガンマ線バースト“GRB211211A”の紹介動画“NASA's Fermi, Swift Capture Revolutionary Gamma-Ray Burst”。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)


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