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地質活動が不活発な火星で大規模な地震が発生している? 火星最大の地震“S1222a”は隕石の衝突で発生したものではないことを確認

2023年11月20日 | 火星の探査
火星は地質学的に不活発な惑星ですが、ときどき地震が観測されています。
その起源については、少なくとも8回は隕石の衝突による衝撃であることが判明しています。

今回の研究では、マグニチュード4.7を記録した観測史上最大の地震“S1222a”について、火星を周回している全ての探査機の撮影データを調査し、隕石衝突の痕跡があるかどうかを確認。

でも、それらの画像からは隕石衝突の痕跡が見つからなかったんですねー

このことから、“S1222a”は火星の地殻で発生した地震活動の可能性が高いことが判明。
地質学的に不活発な火星において、これほど大規模な地震が発生したことは興味深い発見になります。
この研究は、オックスフォード大学ののBenjamin Fernandoさんたちの研究チームが進めています。

火星で観測された史上最大の地震“S1222a”

よく火星は“死んだ星”と表現されることがあります。

これには、表面が不毛な環境で生命の存在が期待できないという意味もありますが、火星の地質活動が不活発なことを指した言葉でもあります。

直径が地球の半分ほどしかなく表面から水が失われた火星は、内部の熱が地球よりも速く冷めてしまい、地殻を動かすプレートテクトニクスが早期に停止していると考えられています。

このため、地震活動が活発な地球とは異なり、火星の地震は極めて頻度が低いと考えられています。

NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機“インサイト”は、火星の地震を高感度でとらえ、内部構造を推定するためのデータを取得することが目標の一つ。
火星の地震を正確に計測した初の火星探査機といえ、2018年から2022年までの4年間で1300回以上の振動を観測してきました。

その多くは隕石の衝突によるものであるとみられ、特に8回は隕石の衝突によることが確認されています。

最も規模が大きいものとしてはマグニチュード4.1±0.2の“S1000a”とマグニチュード4.0±0.2の“S1094b”が知られていて、地震の解析に役立つ表面波が観測されています。

“S1000a”と“S1094b”が隕石の衝突によるものであるという証拠としては、火星を周回している探査機が震源地(震央)に直径約150メートルの新たなクレータを撮影していたことが挙げられます。
図1.上から“S1222a”、“S1094b”、“S1000a”のそれぞれの地震記録、P波到達を0秒とし、点線がS波到達時間を示している。“S1222a”は、“S1094b”や“S1000a”より大規模な地震のため、加速度のスケールが10倍違うグラフになっている。(Credit: Fernando, et al.)
図1.上から“S1222a”、“S1094b”、“S1000a”のそれぞれの地震記録、P波到達を0秒とし、点線がS波到達時間を示している。“S1222a”は、“S1094b”や“S1000a”より大規模な地震のため、加速度のスケールが10倍違うグラフになっている。(Credit: Fernando, et al.)
2022年5月4日のこと、“S1000a”や“S1094b”よりもさらに大規模な地震“S1222a”が観測されました。
この地震の規模はマグニチュード4.7±0.2で、火星では観測史上最大の地震でした。

“S1222a”は、他の規模の大きな地震と性質が似ているものの、いくつかの異なる点があることも分かっています。

初期の分析結果が示唆していたのは、“S1222a”が1点に衝撃が加わる隕石衝突のような現象が原因ではないこと。
でも、隕石の衝突をはっきりと否定できるほどのものではありませんでした。

“S1222a”が火星の地殻で発生した地震活動の可能性

今回の研究では、“S1222a”が隕石の衝突であった場合に予測される火星表面の変化を見つけるため、火星を周回する探査機のデータを調査しています。

もし、“S1222a”が隕石によって発生した場合、予測されるのは直径300メートルほどのクレーターができること。
また、衝突の数時間後には舞い上がったチリによる雲が見られるなど、他の変化も撮影できるはずです。

このような規模の衝突は、100年に1回程度の頻度で起こると推定されます。

火星を周回する探査機のカメラは高解像度なものであるほど視野が狭いので、震源地を撮影していても衝突現場を見逃している可能性があります。

このため、研究で調べているのは、“S1222a”が発生したときに稼働していた探査機全ての画像データでした。
探査機全ての画像データを利用した研究は、今回が初めてのことでした。
 HOPE(アル・アマル)(ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター)
 エクソマーズ・トレース・ガス・オービター(ヨーロッパ宇宙機関)
 マンガルヤーン(インド宇宙研究機関)
 マーズ・エクスプレス(ヨーロッパ宇宙機関)
 2001マーズ・オデッセイ(NASA)
 マーズ・リコナサンス・オービター(NASA)
 MAVEN(NASA)
 天問1号(中国国家航天局)
図2.火星を周回する各探査機が観測した火星表面の範囲を示す地図。白い星印が推定震央で、黄色い四角が重点的にクレーターやその他表面の変化を探索した場所を示している。(Credit: Fernando, et al.)
図2.火星を周回する各探査機が観測した火星表面の範囲を示す地図。白い星印が推定震央で、黄色い四角が重点的にクレーターやその他表面の変化を探索した場所を示している。(Credit: Fernando, et al.)
徹底的な調査の結果、“S1222a”が発生したとみられる場所に、新たなクレーターや衝突による大気活動は見つからず…
このことは、“S1222a”が隕石の衝突によるものではなく、火星の地殻内部で発生した現象である可能性が高いことを裏付けていました。

“S1222a”の解析は初期段階にあり、まだまだ多くのことが分かっていません。

でも、地質活動が不活発であると考えられている火星で、これほど大規模な地震が発生するというのはとても興味深い発見でした。

今のところ、“S1222a”の震源は深さ18~28キロの傾斜したすべり面を持つ断層であると考えられていて、地殻内に蓄積した力(応力)が解放されて生じたもののようです。

ただ、そのために必要なのは、火星の地殻が場所によって収縮度合いが違うこと。
“S1222a”のような地震は、火星の地殻や内部構造が場所によって異なることを反映した結果であると考えられます。

“インサイト”の運用は終了してしまいましたが、未解析のデータは大量に残されています。
これらのデータや火星を周回する探査機のデータを用いたさらなる研究により、火星やそのほかの惑星の内部構造がより明らかになるといいですね。


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火星の自転はわずかに加速、核は自転だけでは説明できない形状をしている? 運用を終えた探査機“インサイト”の未解析データから分かったこと

2023年10月04日 | 火星の探査
NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機“インサイト”。
運用を終えた“インサイト”の未解析データから、火星の自転がわずかに加速していることが明らかになりました。
また、火星の核の比率は地球よりもかなり大きいこと、核が自転だけでは説明できない形状をしていることも分かってきたようです。

火星の自転周期は1年当たり約4ミリ秒ほど短くなっている

2018年11月に火星に着陸したNASAの火星探査機“インサイト”は、太陽電池パネルに砂ぼこりが積もって発電量が下がり、2022年12月に運用を終えています。

でも、“インサイト”が4年にわたって取得した大量の観測データは、今でも研究者によって分析されているんですねー
火星着陸から1211火星日(1火星日=約24時間40分)が経過した、2022年4月24日に撮影された“インサイト”の自撮り画像。機体や太陽電池パネルに大量に砂ぼこりが積もっている。これによって発電量が低下し、2022年12月に運用終了になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
火星着陸から1211火星日(1火星日=約24時間40分)が経過した、2022年4月24日に撮影された“インサイト”の自撮り画像。機体や太陽電池パネルに大量に砂ぼこりが積もっている。これによって発電量が低下し、2022年12月に運用終了になった。
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
今回の研究では、“インサイト”に搭載されている“自転・内部機構実験装置(Rotation and Interior Structure Experiment ; RISE)”のデータを解析しています。

“RISE”は、地球と電波を送受信することで火星の自転軸のふらつきを検出し、火星の内部構造についての情報を得る装置。
この“RISE”のデータから、火星の自転速度を精密に測定しようとしています。
この研究は、ベルギー王立天文台のSébastien Le Maistreさんを中心とする研究チームが進めています。
“インサイト”のイラスト。矢印の位置に“RISE”のアンテナが装備されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“インサイト”のイラスト。矢印の位置に“RISE”のアンテナが装備されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“インサイト”のミッションでは、NASAが運用する“深宇宙ネットワーク(DSN)”のアンテナを使って“インサイト”に電波を送信しています。

“RISE”は、この電波を地球に送り返しますが、地球に戻ってくる電波は火星の運動によってドップラー効果を受け、周波数がわずかに変わることに。
この周波数の変化を測定することで、1年でわずか数十センチという探査機の位置のズレを検出し、火星の自転速度を精密に知ることができます。

研究チームでは、“インサイト”の最初の900日分のデータを解析。
すると、火星の自転周期が1年当たり約4ミリ秒ほど短くなっていることが明らかになります。
これは、火星の自転がわずかに加速していることを示していました。

火星の自転が、わずかに加速していることは分かりました。
でも、加速の度合いは非常に小さく、その原因は完全にはつかめていないんですねー

加速の原因として考えられるのは、極冠の氷が増えている、かつて火星表面にあった氷河が融けてなくなったことで火星の陸海が隆起している、などがありました。

フィギュアスケートの選手が腕を縮めるとスピンが速まるのと同じように、火星表面の質量分布が変われば自転は加速し得るというのが理由でした。

自転だけでは説明できない火星の核の形状

“RISE”からは“章動”という火星の自転軸のふらつきのデータも得られています。

火星の内部は地球と同じように核とマントルに分かれていて、核の一部または全部が液体の状態だと考えられています。

火星の章動は、この液体の核が揺れ動くことで生じるので、章動を測定すると核のサイズを推定することができます。
研究チームの解析からは核の半径が約1835キロということが分かっています。

火星の核については、過去の探査機で観測された地震波のデータからも、2種類の推定値が得られていました。
地震波が火星の内部を伝わると、核とマントルの境界で反射されたり核の内部を通り抜けたりするので、やはり核の大きさを見積もることができるからです。

今回の推定値を含む3つの値をすべて考慮した核の半径は1790~1850キロ。
火星の半径は3390キロなので、火星の核の比率は地球よりもかなり大きいことになります。

さらに、章動の測定から示唆されているのは、火星の核が自転だけでは説明できない形状をしていることです。
これは、マントルの深部に密度のばらつきが存在することで、核の形が影響を受けているのかもしれません。

今回の研究成果は、“RISE”による歴史的な実験に、たくさんの時間とエネルギーを費やしたことによるものかもしれません。

NASAの低コストで効率の良いミッション“ディスカバリー”の候補に挙がっていた、3つの計画から選ばれたインサイト計画。
“インサイト”の運用は終了してしまいましたが、未解析のデータは大量に残されています。

これらのデータを用いたさらなる研究により、火星やそのほかの惑星の内部構造がより明らかになることが期待されます。
“RISE”のデータからも、火星について多くの知見が得られるかもしれませんね。


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火星では過去数百万年間で何度か自転軸の傾きが35度に達していた! 液体の水が存在できる穏やかな環境になる条件をシミュレーションから探ってみる

2023年09月08日 | 火星の探査
火星の表面には無数の谷筋があり、その一部はごく最近流れた液体の痕跡のようにも見えます。

でも、寒く乾燥した現在の火星では、地形に痕跡を残すほど大量の液体が流れたことを説明できそうにありませんよね。

今回、カリフォルニア工科大学のJ. L. Dicksonさんたちの研究チームが考えたのは、火星の自転軸が現在よりも傾いていたこと。
そうすれば、火星表面で液体の水が谷筋を作れるほど安定して存在できるようです。

このような現象は、過去数百万年間で何度も起きたとみられていて、直近では約63万年前に起きたと考えられています。

谷筋の形状は何かしらの液体が流れた跡

火星表面に刻まれた様々な地形は、液体の水が大量に存在した過去を物語っています。

でも、現在の火星は極度に乾燥していて、その表面には液体の水はもちろんのこと、極地を除いて個体の水さえ存在していません。

火星が現在のような低温と非常に薄い大気しかない環境になったのは、今から約30億年前だと考えられています。

このような環境では、水は氷から水蒸気へと直接昇華してしまうので、現在の火星表面に存在する氷は主に二酸化炭素の氷(ドライアイス)になります。
図1.火星の斜面やクレーターの縁には、ごく最近刻まれたと考えられる谷筋が無数に存在する。主に存在するのが南半球の高緯度地域になる。地域Cは谷筋が見られる標高の上限になる標高4500メートルに近く、それより標高の高い地域Bでは谷筋は見られない。(Credit: Dickson, et.al.)
図1.火星の斜面やクレーターの縁には、ごく最近刻まれたと考えられる谷筋が無数に存在する。主に存在するのが南半球の高緯度地域になる。地域Cは谷筋が見られる標高の上限になる標高4500メートルに近く、それより標高の高い地域Bでは谷筋は見られない。(Credit: Dickson, et.al.)
その一方で、火星表面をよく観察すると、かなり最近になって形成された谷筋がクレーターや台地の斜面にいくつも見つかります。

火星表面には二酸化炭素が大量にあるので、このような谷筋はこれまで二酸化炭素の昇華によって形成されたと考えられてきました。

でも、二酸化炭素が固体から気体へと相変化する仮定で生じる谷筋のモデル形状は、火星に存在する実際の谷筋の形状とは一致しないという問題がありました。

そこで、谷筋の形状を最もよく説明するには“何かしらの液体が流れた跡”だと仮定することになります。
ただ、そのためには、現在の火星表面に存在できる液体の正体が問題になりました。

火星に存在した穏やかな環境

火星表面に探査機を送り込めるようになった現在、表土のすぐ下には固体の水… つまり氷がかなり豊富に存在することが分かってきました。

そう、条件次第では表土の下に埋蔵されている氷が溶けだして、谷筋を刻むほどの流れになっているのかもしれないんですねー
これは、地球の南極大陸でも見られるプロセスです。

南極は極度の低温によって凍り付いているように見えますが、夏の短期間は温度が上昇して、昼間だけ流れる小川が形成されることがあります。

では、ごく最近の火星にも、そのように穏やかな環境が本当に存在したのでしょうか?

今回の研究では、火星の自転軸の傾きを様々な値に変更したときに、火星の各地域がどのような気候になるのか、その気候の下で液体の水が存在できるのかどうかを、地形モデルを作成してシミュレーションしています。

現在の火星の自転軸は、軌道面に対して約25度傾いています。
これが、どれくらいの値になれば、適切な環境になるかを調べたわけです。

なお、ここで言う“適切な環境”とは、地表面の温度が0℃を超え、地表の気圧が612Paを超える場合に限られます。※1
これは水の三重点(物質の個体・液体・気体が共存する点)になる0.01℃と611.657Paを基準としている。温度と圧力が、この値を上回らなければ、液体の水は現れない。現在の火星では、赤道付近が夏のごく短期間だけこの条件を満たしている。

穏やかな環境になる条件をシミュレーションから探る

特に注目されるのは、最近刻まれたと考えられる谷筋のほとんどが、南半球の高緯度地域に分布していることです。

新しい谷筋の78.4%は南緯25度~50度の地域に極端に偏って分布しているので、シミュレーションでは主に南半球の高緯度地域が穏やかな環境になる条件を探ることに重点が置かれました。

まず、自転軸の傾きを現在と同じ25度にした場合、平均気圧は600Paになり、低緯度地域と中緯度地域の標高マイナス2500メートル(※2)以下の地域において、春と夏のごく短期間だけ液体の水が存在することが分かりました。
火星における標高は、表面気圧が水の三重点とほぼ一致する610.5Paになる高度を0メートルと定義されている。
でも、そのような地域に谷筋はほぼ存在していませんでした。

実際、火星の赤道付近は高緯度地域と比べて乾燥していると推定されていて、仮に環境の条件が満たされたとしても、谷筋は形成されないと考えられます。

一方で、自転軸を現在よりも傾けた場合には、異なる結果が得られています。

傾きを30℃にした場合の平均気圧は800Paになり、北半球の谷筋がある地域は液体の水が存在できる環境になることが分かりました。

例えば、北緯30度では火星の1年のうち約13%の期間に渡って、液体の水が存在できると推定されています。
ただ、南半球の多くの地域では気圧が612Paを超えず、液体の水は存在できないと推定されるので、南半球に多くの谷筋が存在することとは矛盾することになりました。
図2.様々な自転軸の角度において、液体の水が存在できるかどうかをシミュレーションした結果。色付きの点が黄色になるほど液体の水が存在できる可能性が高い気候であることを示し、黒点は谷筋が存在する場所を示している。最も一致度が高いのは自転軸が35度の場合(図Eおよび図F)の場合になる。なお、図F中のFig.4で示される白い四角の地域は、この記事における図1と一致する。(Credit: Dickson, et.al.)
図2.様々な自転軸の角度において、液体の水が存在できるかどうかをシミュレーションした結果。色付きの点が黄色になるほど液体の水が存在できる可能性が高い気候であることを示し、黒点は谷筋が存在する場所を示している。最も一致度が高いのは自転軸が35度の場合(図Eおよび図F)の場合になる。なお、図F中のFig.4で示される白い四角の地域は、この記事における図1と一致する。(Credit: Dickson, et.al.)
ところが、自転軸の傾きが、さらに大きく35度になった場合の平均気圧は1200Paになり、南半球では赤道から高緯度にかけてのほとんどの地域で、季節や時間帯によっては液体の水が存在できる環境になることが分かりました。

特に、中緯度よりも緯度の高い地域では、標高4500メートル以下の場合にのみ液体の水が存在できるようです。

このことは、南半球の高緯度地域に谷筋が存在することや、標高4500メートルよりも高い場所では谷筋が存在しないことと一致していて、現実の火星で見られる地形と最も一致することを意味します。

そこで、研究チームが考えているのは、火星の自転軸の傾きが、過去数百万年間で何度か35度に達していること。
その頃に流れた液体の水が、これらの谷筋を刻んだと推定しています。

直近では、約63万年前にもそのような環境になったとも推定されていますが、これは数十億年にわたる火星の歴史の中では、ごくごく最近のことだと言えます。

現在、火星の自転軸は約25度傾いていますが、このような変化は未来でも起こりうるはずです。

今回の発見は、火星が考えられていたほどには不毛ではないことを示す1つの証拠になります。

将来の火星探査ミッションでは、このような比較的最近形成された谷筋を調べることで、場合によっては生命の痕跡を発見できるかもしれません。


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火星の核は軽い元素が豊富で液体なのかも 探査機“インサイト”がとらえた地震波で分かったこと

2023年05月08日 | 火星の探査

地球の中心部はどうなっているのか

地球のような惑星は“岩石惑星”と呼ばれる通り、その表面にはケイ酸塩を主体とする岩石が多く存在しています。

でも、中心部には金属の鉄やニッケルで構成された核(コア)が存在しているようです。
この核は2層構造をしていて、外側にある液体の“外核”と、中心側にある固体の“内核”に分かれていると考えられています。

では、なぜ地球の核の構造が分かるのでしょうか?

もちろん、余りにも深すぎる地球の中心部の様子を直接見ることはできません。
ただ、このような構造は地球の内部を通過した地震波の分析によって推定することができます。

これは、地震波が密度と固体や液体の違いなど、通過する物質の性質によって変化するからです。
妊婦の体内を超音波で見ることに似ていますね。

地球以外の岩石惑星の内部構造

それでは、地球以外の岩石惑星も、地球と同じような構造をしているのでしょうか?

理論的には、ある程度大きな岩石惑星は、中心部に金属の核があると推定されています。

でも、理論はあくまでも理論なので、実際の天体の内部がどのような構造をしているのかは分かっていません。

岩石惑星の内部構造の違いは、惑星の作られ方や環境の差を反映している可能性もあるので、非常に興味深いことになるはずです。

これまでに、地震波で内部構造が推定された天体は地球以外だと月だけでした。

ただ、月はジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経ていると考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。

大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。

このような特殊な形成過程を経たと考えられているので、地球との単純な比較はできないんですねー

火星の地震を計測する探査機

そこで、注目されているのが火星の探査になります。

NASAが2018年から2022年まで運用した火星探査機“インサイト”は、火星の地震を高感度でとらえ、内部構造を推定するためのデータを取得することが目標の一つでした。

“インサイト”は、火星の地震を正確に計測した初の火星探査機といえます。

これまでの事例としては、NASAの“バイキング1号”や“バイキング2号”(1976-1980)にも地震計が搭載されていました。

でも、1号は地震計の固定解除に失敗し計測ができず…
2号は地震と思われる振動を計測できたものの、本体の固定が不十分であること、1号との比較ができなかったので、風による振動の可能性を排除できませんでした。

火星の中心部を通ってきた地震波

今回、ブリストル大学のJessica C. E. Irvingさんの研究チームは、“インサイト”が検出した“S0976a”および“S1000”と名付けられた2つの地震波に注目し、解析を行っています。

これらの地震波は、いずれも“インサイト”の着陸地点のほぼ反対側で発生した地震であると考えられています。

地震波は、震源から火星の中心部を通って“インサイト”に到達した可能性があります。
なので、火星中心部の様子を探るのに適しているはずです。
今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した。(Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.)
今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した。(Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.)
解析の結果、明らかになった火星の核の性質は、推定半径が1780キロから1810キロであり、火星全体の半分程度の大きさであること。
また、火星の核はほぼ全体が液体であり、地球のように中心部に固体の核が存在する可能性が低いことも判明しています。

火星は地球よりも小さな天体です。
なので、地球よりも速やかに内部が冷え固まってしまうことを考えると、現在でも全体が溶けているという解析結果は意外なものでした。

さらに、判明したのは、火星の核には鉄やニッケルと比べて軽い元素が豊富に含まれていて、重量比で20%から22%に達する可能性が高いこと。
地球の核では10%未満と推定されていることと比較すれば、これは大きな違いといえるんですねー

軽い元素の約4分の3は硫黄が占めていて、残りは少量の酸素、炭素、水素で構成されていると推定されています。
このように、軽い元素が混じっていることで融点が下げられていることも、核の固化を遅らせている原因なのかもしれません。

水の上に油が浮くのと同じように、軽い元素は天体の表面に浮きやすく、中心部には沈み込みにくいことを考えると、火星の核に軽い元素が多いことは興味深いデータになりました。

地球と火星の内部構造の比較が意味すること

今回示された軽い元素の豊富さは、太陽系誕生時における惑星形成過程の違いを反映している可能性があります。

また、誕生から46億年たった現在でもプレートテクトニクスや強い磁場を保持している地球に対し、火星ではどちらも乏しい理由を説明できる一つの答えが得られる可能性もあります。

地球と火星の内部構造の比較は、岩石惑星の形成過程に関する共通点や異なる点を知る手掛かりとなり、金星など他の岩石惑星の内部構造を推定する上でも重要なデータになります。

“インサイト”の運用は終了してしまいましたが、未解析のデータは大量に残されています。
これらのデータを用いたさらなる研究により、火星やそのほかの惑星の内部構造がより明らかになるといいですね。


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火星で観測された史上最大の天体衝突! 隕石の衝突が作り出す火震を観測

2022年12月03日 | 火星の探査
NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機“インサイト”。
その“インサイト”が2021年12月24日に天体の衝突に伴う地震を検出したんですねー
この時作られたクレーターは、形成の瞬間を人類が記録できたものとしては太陽系で最大のもののようです。

火星の地質調査を行う探査機

NASAの低予算プログラム“ディスカバリー”の候補に挙がっていた、3つの計画から選ばれたのがインサイト計画でした。

選ばれた理由は、スケジュールがずれ込む可能性や、予算の上限を超える可能性が低かったこと。
ただ、搭載機器の“地震計”に問題が発生し打ち上げは延期に…
“地震計”の改良や、完成している探査機本体や機器の保管などに更に予算が必要になってしまいます。

それでも2018年5月に火星探査機“インサイト”は打ち上げに成功。
2018年11月には、火星の赤道付近にあるエリシウム平原地域の“ホームステッド”と呼ばれる浅いクレーターに着陸し、観測を続けてきました。

隕石の衝突が作り出す火星の地震

“インサイト”は2022年10月27日時点で1318回の火星における地震“火震”を検出しています。

その中には隕石の衝突に伴う火震もあったのですが、マグニチュード2以下と弱いものでした。

でも、2021年12月24日に記録された火震はマグニチュード4という、“インサイト”がこれまでにとらえたものとしては最大規模のもの。
この大きな火震が隕石の衝突によるものだったことは、NASAの火星探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が上空からとらえた画像などから今年の2月11日に判明しています。

衝突でチリが飛び散る様子が検出されたほか、震源地と推定される付近に大きなクレーターが形成されていました。
2021年12月24日にあった隕石の衝突でクレーターができる前(左)と後(右)の白黒画像。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)
2021年12月24日にあった隕石の衝突でクレーターができる前(左)と後(右)の白黒画像。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

隕石の衝突で出来た直径150メートルのクレーター。周囲に白い氷が飛び散っている。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ University of Arizona)
隕石の衝突で出来た直径150メートルのクレーター。周囲に白い氷が飛び散っている。探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”の高解像度カメラが撮影。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ University of Arizona)

衝突した隕石の推定サイズは直径が5~12メートルほど。
地球の大気圏であれば燃え尽きるほど小さな隕石でした。

でも、気圧が地球の1%しかない火星の大気は通り抜けてしまい地表に到達。
幅約150メートル・深さ約21メートルのクレーターを形成したんですねー

衝突の瞬間を人類がとらえて記録することのできたクレーターとしては、これ以上大きなものは太陽系に存在していません。

また、衝突で噴出した物質の一部は、37キロ先にまで吹き飛ばされていたことも分かってきました。

画期的なのは、衝突の大きさだけではありませんでした。

衝突地点はアマゾニス平原(Amazonis Planitia)と呼ばれる領域の北緯35度付近。
ここは極冠から遠く、火星の赤道にこれほど近い領域で、地下に氷が見つかったのは初めてのことでした。

この辺りは、火星の中では比較的温暖で宇宙飛行士にとっても活動しやすい場所なので、必要不可欠な資源である水が見つかったというのは、将来の有人探査にとって福音と言えます。

“インサイト”のソーラーパネルにはチリが降り積もり続けていて、ここ数か月間で電力が大幅に低下しています。
今後6週間以内に装置への給電は絶たれる見込みで、その時に“インサイト”は役目を終えることなりそうです。
衝突で出来たクレーターのアニメーション動画“Flyover of Mars Impact Using HiRISE Data (Animation)”(Credit: JPLraw)

隕石の衝突時に“インサイト”が記録した地震を音声に変換し、波形と共に再生する動画。(Credit: JPLraw)


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