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火星の核は軽い元素が豊富で液体なのかも 探査機“インサイト”がとらえた地震波で分かったこと

2023年05月08日 | 火星の探査

地球の中心部はどうなっているのか

地球のような惑星は“岩石惑星”と呼ばれる通り、その表面にはケイ酸塩を主体とする岩石が多く存在しています。

でも、中心部には金属の鉄やニッケルで構成された核(コア)が存在しているようです。
この核は2層構造をしていて、外側にある液体の“外核”と、中心側にある固体の“内核”に分かれていると考えられています。

では、なぜ地球の核の構造が分かるのでしょうか?

もちろん、余りにも深すぎる地球の中心部の様子を直接見ることはできません。
ただ、このような構造は地球の内部を通過した地震波の分析によって推定することができます。

これは、地震波が密度と固体や液体の違いなど、通過する物質の性質によって変化するからです。
妊婦の体内を超音波で見ることに似ていますね。

地球以外の岩石惑星の内部構造

それでは、地球以外の岩石惑星も、地球と同じような構造をしているのでしょうか?

理論的には、ある程度大きな岩石惑星は、中心部に金属の核があると推定されています。

でも、理論はあくまでも理論なので、実際の天体の内部がどのような構造をしているのかは分かっていません。

岩石惑星の内部構造の違いは、惑星の作られ方や環境の差を反映している可能性もあるので、非常に興味深いことになるはずです。

これまでに、地震波で内部構造が推定された天体は地球以外だと月だけでした。

ただ、月はジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経ていると考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。

大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。

このような特殊な形成過程を経たと考えられているので、地球との単純な比較はできないんですねー

火星の地震を計測する探査機

そこで、注目されているのが火星の探査になります。

NASAが2018年から2022年まで運用した火星探査機“インサイト”は、火星の地震を高感度でとらえ、内部構造を推定するためのデータを取得することが目標の一つでした。

“インサイト”は、火星の地震を正確に計測した初の火星探査機といえます。

これまでの事例としては、NASAの“バイキング1号”や“バイキング2号”(1976-1980)にも地震計が搭載されていました。

でも、1号は地震計の固定解除に失敗し計測ができず…
2号は地震と思われる振動を計測できたものの、本体の固定が不十分であること、1号との比較ができなかったので、風による振動の可能性を排除できませんでした。

火星の中心部を通ってきた地震波

今回、ブリストル大学のJessica C. E. Irvingさんの研究チームは、“インサイト”が検出した“S0976a”および“S1000”と名付けられた2つの地震波に注目し、解析を行っています。

これらの地震波は、いずれも“インサイト”の着陸地点のほぼ反対側で発生した地震であると考えられています。

地震波は、震源から火星の中心部を通って“インサイト”に到達した可能性があります。
なので、火星中心部の様子を探るのに適しているはずです。
今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した。(Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.)
今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した。(Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.)
解析の結果、明らかになった火星の核の性質は、推定半径が1780キロから1810キロであり、火星全体の半分程度の大きさであること。
また、火星の核はほぼ全体が液体であり、地球のように中心部に固体の核が存在する可能性が低いことも判明しています。

火星は地球よりも小さな天体です。
なので、地球よりも速やかに内部が冷え固まってしまうことを考えると、現在でも全体が溶けているという解析結果は意外なものでした。

さらに、判明したのは、火星の核には鉄やニッケルと比べて軽い元素が豊富に含まれていて、重量比で20%から22%に達する可能性が高いこと。
地球の核では10%未満と推定されていることと比較すれば、これは大きな違いといえるんですねー

軽い元素の約4分の3は硫黄が占めていて、残りは少量の酸素、炭素、水素で構成されていると推定されています。
このように、軽い元素が混じっていることで融点が下げられていることも、核の固化を遅らせている原因なのかもしれません。

水の上に油が浮くのと同じように、軽い元素は天体の表面に浮きやすく、中心部には沈み込みにくいことを考えると、火星の核に軽い元素が多いことは興味深いデータになりました。

地球と火星の内部構造の比較が意味すること

今回示された軽い元素の豊富さは、太陽系誕生時における惑星形成過程の違いを反映している可能性があります。

また、誕生から46億年たった現在でもプレートテクトニクスや強い磁場を保持している地球に対し、火星ではどちらも乏しい理由を説明できる一つの答えが得られる可能性もあります。

地球と火星の内部構造の比較は、岩石惑星の形成過程に関する共通点や異なる点を知る手掛かりとなり、金星など他の岩石惑星の内部構造を推定する上でも重要なデータになります。

“インサイト”の運用は終了してしまいましたが、未解析のデータは大量に残されています。
これらのデータを用いたさらなる研究により、火星やそのほかの惑星の内部構造がより明らかになるといいですね。


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