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堆積岩からの有機物、天体衝突による地震を検出など 火星で探査を続ける“パーサビアランス”や“インサイト”の成果

2022年11月05日 | 火星の探査
現在NASAが火星で運用中の探査車“パーサビアランス”と探査機“インサイト”の成果が発表されました。
数十億年前の湖底で作られた堆積岩から有機化合物を検出した“パーサビアランス”。
“インサイト”は小天体の衝突による地震波を記録していたようです。

火星の泥岩から大量の有機分子を発見

2021年2月に火星に着陸したNASAの探査車“パーサビアランス”は、かつて湖が存在したとされるジェゼロ・クレーター内で探査を続けています。

35億年前に形成された三角州(川と湖の合流地点)で4つのサンプルを取得するなど、これまでに興味深い岩のサンプルを12個採取しています。

三角州の中でも、“ワイルドキャット・リッジ(Wildcat Ridge:山猫の尾根)”という愛称が付けられた幅約1メートルの岩から7月20日に削り取られたサンプルは特に興味深いものでした。

“ワイルドキャット・リッジ”は、何十億年も前に塩水湖の底で泥や細かい砂が沈殿してできた堆積岩とみられ、得られたサンプルには硫酸塩鉱物と有機化合物が含まれていました。

どちらも、塩水湖にかつて生息していた生命の活動で形成された可能性もある物質でした。
“ワイルドキャット・リッジ”の表面に露出している部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)
“ワイルドキャット・リッジ”の表面に露出している部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)
これまでの火星探査では、2014年に探査車“キュリオシティ”が岩石中に有機分子を検出しているほか、“パーサビアランス”は以前にもジェゼロ・クレーターで有機物を検出したことがありました。

でも、これまでと違っていたのは、今回の発見がかつて生命に適した環境だったと考えられる場所であったことでした。

また、検出された有機物の量は、これまでの“パーサビアランス”のミッションの中では最も多いものでした。
“パーサビアランス”によるジェゼロ・クレーター内にあるデルタ地形の探査を紹介する動画(Perseverance Explores the Jezero Crater Delta)。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)

火星上で小天体による地震波を初検出

2018年11月に火星に着陸したNASAの探査機“インサイト”の地震計が、小天体衝突に伴う地震波を2020年~2021年に計4回記録していることが分かりました。

衝突時の音も録音されていて、火星で小天体による振動が検出されたのは初めてのことでした。

2021年9月5日の録音では、大気圏突入、天体の分裂、そして衝突に伴う3つの音を聞くことが出来ました。

小天体は少なくとも3つの破片に分かれたようで、その後NASAの探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した画像で3つの衝突痕が確認されています。
“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した2021年9月5日の流星体衝突で形成されたクレーター。青は衝突で飛び散ったチリや土を強調表示させた部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した2021年9月5日の流星体衝突で形成されたクレーター。青は衝突で飛び散ったチリや土を強調表示させた部分。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
他にも2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ小天体が衝突したことが“インサイト”の記録から判明しています。

一方で研究者たちは、むしろ検出された衝突が予想より少ないことを疑問に思っています。

火星は飛来物の豊富な供給源たる小惑星帯に隣接しています。

おまけに大気の厚さは地球の1%しかないので、突入した流星体の多くは燃え尽きることなく通過できるはずです。

“インサイト”の地震計が検知した地質活動に伴う地震は1300回を超えています。

その中にはマグニチュード5を超える地震(火震)もありました。

それに対し、4度の天体衝突に伴う地震はマグニチュード2にも満たないものでした。

“インサイト”の研究チームでは、風の音などに遮られた衝突の振動が他にもあると考え、4年近い過去の観測データからさらなる天体衝突の信号が見つかると期待しています。
2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ流星体が衝突して形成された痕跡。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
2020年5月27日、2021年2月18日、2021年8月31日に、それぞれ流星体が衝突して形成された痕跡。(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)


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太古の火星に存在していた多量の水は、どのようにして失われたのか? 砂嵐が関係していたのかも

2020年12月02日 | 火星の探査
今回の研究成果も火星ネタ。
アリゾナ大学月惑星研究所の研究チームは、太古の火星に存在したと考えられている大量の液体の水が、どのようにして失われたのかについての新しいシナリオを発表しています。

太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。

でも、現在の火星は冷たく乾燥し、その表面に液体の水の存在は確認されていません。

では、かつて火星の表面にあった大量の液体の水は、どこに行ってしまったのでしょうか?

この疑問については、水の一部は宇宙に逃げ、残りは永久凍土として今も火星の地下に眠っているのではないかと考えらています。

今回、研究チームが提唱している新しいシナリオは、このうち宇宙に逃げていった水についてのもの。

これまで、火星大気中の水蒸気は大気の高層で太陽光線によって酸素分子と水素分子に分解されることで、その上にある水蒸気を通さない冷たい空気の層を通過し、そこでCO2+などのイオンによって、さらに水素原子と酸素原子に分解され、軽くなって宇宙空間に飛び去って行くと考えられてきました。
NASAの火星周回探査機“メイブン”のイメージ図。火星の上層大気と太陽風の相互作用などを調べている。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)
NASAの火星周回探査機“メイブン”のイメージ図。火星の上層大気と太陽風の相互作用などを調べている。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)
2013年11月19日、ケープ・カナベラル空軍基地からアトラスVロケットに搭載された火星探査機“メイブン”が打ち上げられました。

“メイブン”は火星を周回する探査機で、NASAのゴダード宇宙飛行センターが主導する初の火星探査ミッション。
ロッキード・マーティン社が製造を担当し、かつて同社が製造した“2001マーズ・オデッセイ”や“マーズ・リコネサンス・オービター”の設計を基に造られています。

“メイブン”に搭載されているのは、火星の上層大気を中心に観測することを目的とした8種類の観測機器。
それにより火星の大気と太陽風の相互作用や、火星大気の宇宙空間への流出過程についての解明が期待されています。

今回の研究では、NASAの火星周回探査機“メイブン”の観測データの分析から、これまでのプロセスに加えて、もう一つ別の水蒸気が分解されるプロセスがあることを突き止めています。

それは、水蒸気を通さないはずの冷たい空気の層の上で、水蒸気がイオンによって、直接、水素原子と酸素原子に分解されるというもの。
そのため水蒸気は、より下層で分解される場合の10倍もの速さで分解されるそうです。

特に、火星の夏によくみられる火星名物の砂嵐が発生すると、このプロセスは激しさを増すんですねー

では、なぜ水蒸気は冷たい空気の層の上に出られたのでしょうか?

その理由は、砂嵐が発生すると気温が上昇することにあります。
気温の上昇により急激に水蒸気が発生する上に、このような気温の上昇と砂嵐の風の力があいまって、水蒸気を通さないはずの冷たい空気の層を大量の水蒸気が突破することになります。

そのため、2018年6月に起こった全火星規模の砂嵐では、この領域で通常の20倍もの水蒸気が観測されることに。
研究チームによれば、この砂嵐が続いた45日間で失われた水は、火星の1年間(地球の687日に相当)に失われる水の量と同等だと推定しています。

現在、研究チームが考えているのは、火星から水が失われていくプロセスとしては、こちらの方が支配的だったということ。
それでは、太古の火星から水が失われていく過程で、このプロセスは実際にどの程度の役割を果たしたのでしょうか?
また、このプロセスが始まった時期はいつなのでしょうか?

まだまだ分からないことがいくつもあるので、さらに研究を進めていくそうですよ。
研究チームのシナリオを分かり易く解説したイラスト。(Credit: NASA/Goddard/CI Lab/Adriana Manrique Gutierrez/Krystofer Kim)
研究チームのシナリオを分かり易く解説したイラスト。(Credit: NASA/Goddard/CI Lab/Adriana Manrique Gutierrez/Krystofer Kim)


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火星の深部には、誕生直後から変化していないマントルが存在している!? 火星隕石“NWA7533”から分かったこと

2020年11月29日 | 火星の探査
今回の研究では、東京大学総合研究博物館が火星隕石“NWA7533”に含まれる鉱物のジルコンを用いて、詳細な年代測定や鉱物分析、化学分析を実施しています。
その結果分かってきたのは、古い時代のジルコンには木星と土星の移動が関係していることや、火星誕生直後から変化を受けていないマントルの存在など。
長期間にわたる火星の内部構造とダイナミクスを明らかにすることに成功したそうです。

太古の火星についての情報が得られる隕石

2012年にアフリカのサハラ砂漠で発見された火星由来の隕石が“NWA 7533”です。

“NWA 7533”は、これまでに全く見つかっていないタイプの火星隕石でした。
44億年以上前に形成された岩片や、その後の様々な時代に形成された岩片、鉱物片などを含む角礫岩で貴重な存在といえます。

このため、“NWA 7533”は太古の火星についての情報を得られる唯一の隕石として、これまでに多くの研究が“NWA 7533”を用いて行われてきました。

ただ、先行研究では年代測定に用いられるジルコンの分析数が少なく、長期間にわたる火星内部構造の変遷などについて、ほとんど議論が行われてきませんでした。

なお、宝石として知られるジルコンはケイ酸塩鉱物の一種でジルコン、シリコン、酸素の化合物。
生成時に鉛をほとんど取り込まず、その一方でウランの含有量が多いので、ウラン・鉛年代測定法の試料として用いられることが多い化合物です。

古い時代のジルコンには木星と土星の移動が関係している

今回の研究では、約50グラムの“NWA 7533”から50個以上の大きなジルコンもしくはジルコンを含む岩片を分離。
それらに対し、まず走査型電子顕微鏡や四重極型誘導結合プラズマ質量分析など、5種類以上の分析法を用いて入念な鉱物分析を実施しています。

その後に行ったのは、表面電離型質量分析法や二次イオン質量分析法による、鉛とウランを用いた年代測定でした。

分析の結果、“NWA 7533”には約44.7億年前と約44.4億年前のふたつの形成年代をピークに持つジルコンが多く含まれていて、その他のものは約15.5憶年前~3億年前という幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンであることが判明します。

ハフニウム同位体などの化学的特徴から考えられるのは、約44億年前~45億年前にできた古い時代のジルコンが、約45.5億年前に始まったマグマオーシャンの固化後にできた最初の地殻を元々の起源としていることでした。

近年になって提唱された、太陽系初期の巨大ガス惑星の移動を扱ったグランド・ダック・モデルという説があります。
この説によれば、43億年前頃までに起きた木星と土星の移動によって、小天体は大きくかき乱されたそうです。

それらの小天体が火星表面に衝突したとされる年代と、今回のジルコンの形成年代は一致しているんですねー
なので、このような大規模な天体衝突で地殻の再溶融が起こり、そのマグマから結晶化して“NWA 7533”のジルコンができた可能性があります。
研究に用いられた約50グラムの火星隕石“NWA 7533”。右のサイコロは一辺が1センチ。(Credit: The University Museum,The University of Tokyo)
研究に用いられた約50グラムの火星隕石“NWA 7533”。右のサイコロは一辺が1センチ。(Credit: The University Museum,The University of Tokyo)

新しい時代のジルコンの起源は火星誕生直後から変化を受けていないマントル

また、約15.5億年前~3億年前の幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンには、ほぼ同じ時代に形成された他の火星隕石には見られない始原的な化学的特徴が、ハフニウムの同位体組成に見られることも確認されました。

このことが示しているのは、約45億年前の火星誕生直後から変化を受けていない、これまで未知だった始原的マントルが火星地下に存在していて、対流するマントル深部から地表にもたらされたホットプリューム(上昇プリューム)が、ジルコンの起源であること。
マントル内の大規模な対流運動をプリューム(plume)、この変動をプリュームテクトニクスと呼ぶ。

15.5億年前~3億年前に、このようなプリュームテクトニクスの影響を受けて火山活動が生じた地域としては、火星北半球のタルシス平原とエリシウム平原のそれぞれにある巨大火山地域しか考えられないそうです。

また、若い形成年代を持つジルコンは、丸みをおびたような形状のものが多いことも確認されています。

そのため、もともとマントルからのプリュームを起源とする、これらの地域の火山活動によってできたマグマから、それらのジルコンは結晶化してできたことが考えられます。

その後に、岩石は風化により削られてダストとして火星南半球まで移動。
最終的に古い岩石などとともに、3億年前よりも最近に起きた岩石衝突によって“NWA 7533”の元となる岩石が形成されたと考えるのが適当なようです。

これらのことから明らかになったのは、火星深部には惑星の形成当時から変化していない、始原的な化学的特徴を持った対流マントルが存在していることです。

そして、その上にリソスフェア(岩石圏)に相当するマントルと地殻が乗った構造となる不動蓋型のテクトニクスが、42億年にわたって続いていたことが初めて解明されました。

そこで考えられるのは、火星表面には幅広い形成年代を持つジルコンが広く存在している可能性が高いこと。
このようなサンプルを、地球に持ち帰って詳細に分析することができれば、火星の地質学的な歴史を正確に理解できるはずです。

このサンプルリターンは意外と早く実現されるかもしれません。

現在、人類史上初の火星サンプルリターンを狙うミッション“Mars 2020”が進行しています。

このミッションでは、NASAの探査機“Mars 2020”に搭載された探査車“パーサヴィアランス”が火星でサンプルを採取し、ヨーロッパ宇宙機関のローバーがこれを回収。
サンプルはNASA開発の帰還ロケットに積み込まれ、火星軌道上で待機する地球帰還機まで送られます。
地球帰還機は2年かけて地球に到達し、サンプルを収めたカプセルを地球に投下することになっています。

壮大なミッションに思えますが、“Mars 2020”は現在火星への航海中です。
いくつもの機体のリレーが上手くいけば、2030年代の初めには“パーサヴィアランス”が採取した火星のサンプルが地球に届く予定ですよ。


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NASAの火星探査車“パーサヴィアランス”が打ち上げ成功! 狙うのは人類史上初のサンプルリターン、生命の痕跡は見つかるのか?

2020年07月30日 | 火星の探査
2020年7月30日(木)20時50分(日本時間)、フロリダ州ケープカナベラル空軍ステーションから、NASAの火星探査機“Mars 2020/Perseverance(パーサヴィアランス)”が打ち上げられました。

57分後に宇宙船“Mars 2020”は予定通りアトラスVロケットから切り離され、火星へ向かう軌道に乗ったことを確認、打ち上げは成功。

ただ、NASAが発表したのは、探査車“パーサヴィアランス”を搭載した“Mars 2020”に技術的問題が発生したこと。
“Mars 2020”は現在、最低限のシステムのみを使う“セーフモード”飛行しています。

“セーフモード”に入った原因は、地球の影の中にいる間、機体の一部が想定よりも冷えたこと。
現在は地球の影から出て、温度は通常の範囲内に戻っている。
“セーフモード”では、管制センターから新しい指令を受けるまで、最低限のシステムのみが稼働した状態で飛行が続きます。
現在、NASAでは“Mars 2020”の健全性の全面的な評価を完了させているところ、火星へのたびに向けた計画通りの設定に戻れるよう取り組んでいます。
火星に着陸した探査車“パーサヴィアランス”のイメージ図。大きさは、奥行き3メートル、幅2.7メートル、高さ2.2メートル。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
火星に着陸した探査車“パーサヴィアランス”のイメージ図。大きさは、奥行き3メートル、幅2.7メートル、高さ2.2メートル。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“パーサヴィアランス”は、世界の惑星探査のトップを走るNASAジェット推進研究所(JPL)が開発した火星探査車。
火星に生命が存在した直接的な証拠につながる物質を探し、10年以上かけて地球に持ち帰る、史上初の火星サンプルリターンを狙うミッションです。

“パーサヴィアランス”を打ち上げるのはアトラスVロケット。
2012年に火星に着陸して今なお探査を続けている“マーズ・リコナサンス・ラボラトリ”や“キュリオシティ”をはじめ、これまで何度も探査機の打ち上げを成功させてきたロケットです。

およそ7か月にわたる4億9700万キロの航海を経て、火星の表面に降り立つのは2021年2月18日の予定。
“パーサヴィアランス”が着陸を目指す地点は、火星の北半球の低緯度帯イシディス平原にあるジェゼロクレーターの西の端、北緯19度・東経78度になります。

直径はおよそ45キロのジェゼロクレーターは、約35億年前に形成され、かつては湖だったと考えられています。
堆積物の多い河口付近にできる三角州のような地形が存在していて、ここに生命の痕跡が存在すると期待されています。
火星を周回する探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した“パーサヴィアランス”の着陸地点付近。画像右側の少し平らに見える領域がジェゼロクレーターの内部。このクレーターには水が長期間存在したことで粘土の厚い層があると思われる。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)
火星を周回する探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”が撮影した“パーサヴィアランス”の着陸地点付近。画像右側の少し平らに見える領域がジェゼロクレーターの内部。このクレーターには水が長期間存在したことで粘土の厚い層があると思われる。(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)


ミッション最大の目標は火星生命の痕跡

“パーサヴィアランス”にとって最大の目標は、生命が存在した証拠となる火星の古代微生物の痕跡を探すことです。

生命の痕跡は岩石の中に閉じ込められているはず。
“パーサヴィアランス”はジェゼロクレーターの縁に沿って炭酸塩の堆積物を探査することになります。

炭酸塩は、地球上ではストロマトライトという藻類の死骸と泥が堆積してできた岩石に含まれています。
なので、火星でストロマトライトを確認できれば、生命が存在した直接的な証拠になるんですねー

“パーサヴィアランス”は、すでに火星で探査を行っている“キュリオシティ”と形状や機能がよく似ています。

ただ、“キュリオシティ”の目的は、生命を維持できる環境の探査。
それに対して“パーサヴィアランス”は、生命の存在そのものに迫ることを目的にしています。
それぞれ、探査目的が大きく異なっています。

さらに、“パーサヴィアランス”には、火星の薄い大気中を飛行するヘリコプター“インジェニュイティ(Ingenuity)”が搭載されています。
火星の薄い大気中を飛行するヘリコプター“インジェニュイティ(Ingenuity)”(Credit: NASA/JPL-Caltech)
火星の薄い大気中を飛行するヘリコプター“インジェニュイティ(Ingenuity)”(Credit: NASA/JPL-Caltech)


“シャーロック”と“ワトソン”がサンプルの質を見極める

“パーサヴィアランス”に搭載された観測機器の中でも生命の痕跡探しのカギになるのが、ロボットアーム先端に取り付けられた顕微鏡です。
“パーサヴィアランス”のイメージ図。ロボットアームの先端についているのが顕微鏡“シャーロック”。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“パーサヴィアランス”のイメージ図。ロボットアームの先端についているのが顕微鏡“シャーロック”。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
顕微鏡は“シャーロック”といい、相棒となる記録カメラの名が“ワトソン”。
このコンビにより、採取した火星の表土サンプルに含まれる有機物を調査し、サンプルの重要性を決定づけられます。

他にも、自立走行など火星での活動をサポートするためのカメラや科学観測用カメラなど。
“パーサヴィアランス”に搭載されているのはカメラだけでも23台…
走る研究室ともいえる多機能さによって火星探査を進めていきますが、このミッションはサンプルリターンなので“パーサヴィアランス”単独では完結しません。

7月30日の打ち上げは、これから10年に及ぶ史上初の火星サンプルリターン計画の始まりになるんですねー


史上初の火星からのサンプルリターン

“パーサヴィアランス”は火星で採取したサンプルをチューブ状の容器に収めると、それを地表に置いて他の場所へ移動していきます。
“パーサヴィアランス”がサンプルを収めるチューブとサンプルコンテナの開発モデル。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“パーサヴィアランス”がサンプルを収めるチューブとサンプルコンテナの開発モデル。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
地表に放置された容器は、2026年にヨーロッパ宇宙機関が開発する回収ローバーによって拾い集められる予定。
最大で30本、合計600グラムほどのサンプルは、NASA開発の帰還ロケットに積み込まれ火星軌道上で待機する地球帰還機まで送られます。

その後、地球帰還機は2年かけて地球に到達し、サンプルを収めたカプセルを地球に投下。
いくつもの機体をリレーして、2030年代の初めに“パーサヴィアランス”が採取した火星のサンプルが地球に届くわけです。


節約するはずが膨らんだ開発コスト

火星からのサンプルリターンで目標としているのは、生命そのもの、あるいは微生物が生成した物質からできた鉱物など、生命が存在した痕跡を見つけることです。

ただ、どれほど探査車を多機能にしても、搭載できる観測機器は限られてしまいます。
そのため、何とかして地球までサンプルを持ち帰りたくなります。

“パーサヴィアランス”の開発では、そのために新たにサンプル採取機構などを開発することに…
多くのハードウェアを“キュリオシティ”と共通化し、開発コストや日数を抑えていましたが、当初15億ドルだった開発コストは、“キュリオシティ”に迫る24億ドルまで膨らんでしまいます。

開発も難航が続き、打ち上げが迫る2019年10月の段階でも不具合の解消に迫られている状態でした。

不具合はミッションの最重要部分になる、サンプル容器(チューブ)に火星の表土を収める工程で停止してしまうというもの。
試行錯誤の末、容器を熱して汚れや微生物などを除去する作業が原因だと分かります。

結果的に、この除去作業の手順を変更。
ようやく、サンプルをしっかりとチューブに収めることができるようになります。


火星探査レースの新たな段階へ

“パーサヴィアランス”の打ち上げは、火星探査における新たな競争の始まりでもあります。

1960年以降、アメリカとソ連の間では、月、火星、金星などへの熾烈な惑星探査レースが行われてきました。
ソ連の崩壊を経て、1997年に史上初の火星探査車“ソジャーナ”の着陸、運用をNASAが成功させて以来、トップを走るのはアメリカでした。
火星でサンプルを採取する“パーサヴィアランス”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
火星でサンプルを採取する“パーサヴィアランス”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
2000年代になると、火星探査におけるNASAの存在感はさらに高まることに。
双子の探査車“スピリット”と“オポチュニティ”。“オポチュニティ”は地球外での陸上走行距離の新記録を樹立している
そして“キュリオシティ”や火星の地質探査機“インサイト”と、次々と探査機の着陸に成功し、成果を上げていきます。

でも、2020年7月23日には中国初の火星探査機“天問一号”が、2021年の火星到達を目指して打ち上げ。
NASAが数十年かけてきた火星周回機と着陸機の運用技術を、中国の“天問一号”が一気に実証しようとしています。
さらに、2020年代後半には、“天問二号”による火星からのサンプルリターンも計画しています。

火星探査におけるサンプルリターンという史上初の快挙、そして生命の痕跡の発見。
火星探査レースに中国がどのように絡んでくるのか? 
ちなみに、日本のJAXAも火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを進めていて、探査機の打ち上げは2024年。
フォボスのサンプルが地球に届くのは2029年になるようですよ。
NASA Live: Official Stream of NASA TV(Credit: NASA)


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アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機“HOPE”を無事に打ち上げ。 H2ロケットは45回連続成功、成功率は世界トップクラスの98%!

2020年07月21日 | 火星の探査
アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機“HOPE”を搭載したH2Aロケット42号機が、7月20日に種子島宇宙センターから打ち上げられました。
約57分後に“HOPE”の正常な分離を確認し打ち上げは成功。
H2A、H2Bロケットの打ち上げは45回連続の成功となり、打ち上げ成功率は世界トップクラスの98%になるそうです。


日本の基幹ロケットH2Aによる火星探査機の打ち上げ

7月20日、三菱重工はH2Aロケットでアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの政府機関になるムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターの火星探査機“HOPE”の打ち上げに成功しました。
H2AによるUAE政府ミッションの打ち上げは、2018年に打ち上げた観測衛星“ハリーファサット”に続き2件目。

H2Aロケット42号機は、午前6時58分14秒にJAXAの種子島宇宙センター大型ロケット発射場から離床。
補助ロケットや第1段ロケットを切り離しつつ計画通りに上昇し、打ち上げから約57分後の高度430キロ付近で“HOPE”の分離が確認されました。
打ち上げは当初7月15日に予定されていたが、悪天候のため順延していた。

日本の基幹ロケットH2Aは、世界で最も信頼性の高いロケットの1つになります。
今回の打ち上げ成功によりH2AとH2Bロケットの打ち上げは、合わせて45回連続の成功。
これにより、打ち上げ成功率は98.0%に達しました。
UAEの火星探査機“HOPE”を搭載し打ち上げられるH2Aロケット42号機。(Credit: 三菱重工株式会社)
UAEの火星探査機“HOPE”を搭載し打ち上げられるH2Aロケット42号機。(Credit: 三菱重工株式会社)


UAEによる火星探査ミッション

この火星探査ミッションは、UAE建国50周年を迎える2021年に中東では初となる無人探査機の火星到着を目指すものです。

アブダビやドバイなど7首長国によるUAE連邦政府が、2014年7月に設立したUAE宇宙庁がミッションを統括。
ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターが、探査機“HOPE”の設計など技術面の取りまとめを行こなっています。

探査機のアラビア語名は“Hope(希望)”を意味する“Al-Amal(アルアマル)”。
重さは打ち上げ時の燃料込みで1350キロ、大きさは縦横2.37メートル×2.9メートル、電気出力600ワットの太陽電池パドルを展開した時の翼長は7.9メートルほどになります。
火星探査機“HOPE”のイメージ図。(Credit: MBRSC)
火星探査機“HOPE”のイメージ図。(Credit: MBRSC)
“HOPE”の探査目的は、火星大気の完全な画像を撮影すること。

これにより、以下のことが可能になるそうです。
  1. 大気下層の特徴を把握し、火星における気候力学や天気図の把握

  2. 大気上層と下層の相関関係を調べ、火星の天気が水素と酸素をどのように散逸させているかの調査

  3. 大気上層での水素と酸素の構造と変動を調べ、火星において水素と酸素が宇宙空間に流出している原因の解明
一方、日本が1998年に火星に送り込もうとした探査機“のぞみ”が14台もの観測機器を搭載していたのとは対照的に、“HOPE”では以下の3台に観測機器が絞り込まれています。
  1. 大気温度・氷・水蒸気・粉塵を観測する赤外線分光計“EMIRS(Emirates Mars Infrared Spectrometer)”

  2. 高分解能で高解像度のカラー画像撮影のための多波長耐放射線カメラ“EXI(Emirates eXploration Imageer)”

  3. 紫外線波長を検出することで一酸化炭素や酸素の含有量と変動を観測する紫外線分光器“EMUS(Emirates Mars Ultraviolet Spectrometer)”
“HOPE”が火星周回軌道に入るのはUAEの建国50周年に当たる2021年2月。
火星の1年にわたって、上空2万~4万3000キロをを周回し観測を行う予定です。
火星の1年は地球の約687日に相当する。

今回の探査機打ち上げをもって、UAEはプロジェクト開始から6年という短期間で火星ミッションにおける探査機打ち上げを成功させた、世界で最も若い国になりました。

探査機“HOPE”の成功は、UAEが挑戦的な宇宙プログラムを進めるにあたり非常に大きな飛躍になります。

さらに、UAEが目標としているのは、2117年までに人類の居留地を火星に作り上げること。
今回の“HOPE”打ち上げは、その計画の基礎だと位置づけられているようです。
H2Aロケット42号機打ち上げライブ中継の録画(Credit: 三菱重工株式会社)


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