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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測して分かった! ビッグバンから10億年未満の宇宙にある銀河の大きさと明るさの関係

2023年03月05日 | 銀河・銀河団
ビッグバンから10億年未満という初期宇宙の銀河から放出された光。
この可視光線をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測してみると、その頃の銀河の大きさと明るさの関係が初めて明らかになったんですねー

重力レンズ効果を用いた宇宙探査

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測開始から最初の約1年間には、観測データがすぐに公開されて誰でも解析を行える“早期公開科学プログラム”とういう観測プロジェクトが13件行われています。
 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。
この“早期公開科学プロジェクト”のひとつに、ちょうこくしつ座の方向約40億光年彼方に位置する巨大銀河団“Abell 2744(通称:パンドラ銀河団)”を、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で撮像・分光するプロジェクト“GLASS(Grim Lens-Amplified Survey from Space:重力レンズ効果を用いた宇宙探査)”があります。
 “GLASS”はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のTommaso Treu教授が主導するプロジェクト。
“Abell 2744”は、巨大な質量を持っているので、遠くにある背景銀河の像が重力レンズ効果で拡大されているんですねー
この背景銀河をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測し、宇宙で最初の星や銀河が誕生した“宇宙の再電離”の時代まで見通そうというのが“GLASS”プロジェクトの目的です。
 生まれたばかりの宇宙は、電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にあった。
 でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られる。この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれている。
 その後、宇宙で初めて生まれた星や銀河が放つ紫外線により水素が再び電離され、この現象を“宇宙の再電離”という。宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離されて晴れたことにより、空間を通り抜けられるようになった“宇宙最初の光”が、現在の空に広がる“宇宙マイクロ波背景放射”として観測されている。

赤外線の波長による遠方銀河の観測

今回の研究を進めているのは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構“カブリIPMU”のLilan Yang東京大学特別研究員を中心とする国際研究チーム。
研究チームは、“GLASS”プロジェクトでジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”が撮影した分光撮像データを用いて、遠くの銀河の大きさと明るさの間にどのような関係があるのかを調べています。
 “GLASS”プロジェクトが利用しているのは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線撮像装置“NIRISS”、近赤外線分光器“NIRSPEC”、近赤外線カメラ“NIRCAM”の3種類の装置と“NIRCAM”の7つのフィルターを用いた観測データ。
図1.GLASS-JWSTプログラムで撮影された銀河。ビッグバンから約4億5000万年後と約3億5000万年後に存在した非常に明るい銀河(それぞれ赤方偏移約10.5と約12.5)が映っている。(Credit: NASA、ESA、CSA、Tommaso Treu (UCLA))
図1.GLASS-JWSTプログラムで撮影された銀河。ビッグバンから約4億5000万年後と約3億5000万年後に存在した非常に明るい銀河(それぞれ赤方偏移約10.5と約12.5)が映っている。(Credit: NASA、ESA、CSA、Tommaso Treu (UCLA))
初期宇宙に存在する銀河の光は、宇宙の膨張によって波長が伸びて地球に届きます。
なので、宇宙誕生から数億年後の時代に存在する銀河から放出された紫外線や可視光線は、地球では赤外線になって観測されることになります。
 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになり、昔の宇宙の天体になる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
このため、遠方宇宙の銀河の可視光での性質を調べるには、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線の波長による観測が必須になるわけです。

研究チームは、赤方偏移zがおよそ7~15(宇宙誕生の2.7~8億年後)の初期宇宙に存在する19個の銀河について、銀河から放出された時の波長が紫外線(約1600Å)から可視光線(約4800Å)に相当する5種類の赤外線で、銀河の大きさと明るさの関係を求めました。

そして、解析の結果分かったのは、この時代の銀河の典型的な大きさが半径が約1500~2000光年で、私たちの天の川銀河の20分の1ほどであること。
また、放出時に可視光線だった光で観測された銀河に比べ、紫外線だった光で観測された銀河の方が、真の明るさ(絶対等級)が同じでもサイズがやや小さいことが明らかになります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移が7を超える銀河について、放出時に可視光線だった光で銀河の特徴を調べたのは今回が初めてのこと。
これまで活躍してきたハッブル宇宙望遠鏡による観測では、放出時に紫外線だった光で銀河の特徴を知ることしかできませんでした。

それでは、こうした観測の結果は期待されたものだったのかというと、正直何も分かっていないんですねー
過去のシミュレーションによる理論的な研究でも、様々な予測がされていて混とんとした状況です。
図2.5つの波長帯で観測された銀河の大きさと明るさの関係。F150Wのパネルにある黒い実線と破線は、それぞれShibuya(2015; z ∼ 8)とHuang(2013; z ∼ 5)。ハッブル宇宙望遠鏡データから得られた同じ波長帯のもの。(Credit: Yang et al.)
図2.5つの波長帯で観測された銀河の大きさと明るさの関係。F150Wのパネルにある黒い実線と破線は、それぞれShibuya(2015; z ∼ 8)とHuang(2013; z ∼ 5)。ハッブル宇宙望遠鏡データから得られた同じ波長帯のもの。(Credit: Yang et al.)

一般に赤方偏移zが7を超えるような遠い銀河の明るさと大きさには、明るい銀河ほどサイズ大きい(=銀河の半径が明るさのべき乗に比例する)という、関係があることが知られています。
今回、研究チームが行った解析によると、このべき乗関係の“傾き(べき乗の係数)”が、可視光線より紫外線の方が大きいらしいことも分かりました。

この結果が意味するもの。
それは、銀河の全体の明るさが同じでも、紫外線で見える銀河の方が表面輝度が高く、より小さくコンパクトに見えることを意味するのかもしれません。

つまり、初期宇宙にどのくらいの明るさの銀河が何個あるのかを見積もる際に、紫外線相当の光で観測する方が見落としが少ないかもしれません。

でも、まだはっきりとしたことは分かっていません。

ただ、今回の研究はまだ始まったばかり。
より多くの銀河のサンプルを用いたさらなる研究によって、より正確な結果が得られるはずです。


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銀河進化のモデルを見直す必要がある!? ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で見つけた初期宇宙にある棒渦巻銀河

2023年02月21日 | 銀河・銀河団
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、宇宙年齢が現在の2~4割だった時代に棒渦巻銀河が6個見つかりました。

棒渦巻銀河では、棒構造によって銀河中心部にガスが送り込まれることで、他の領域よりも速く星の形成が進みます。
このことは、棒構造が初期の時代に星の形成を加速するという、新たな経路が銀河進化モデルの中に見出されたことになるんですねー

初期宇宙での棒渦巻銀河の存在率を正しく導くように、銀河進化のモデルを見直す必要があるのかもしれません。

これまでに見つかった中で最も遠い棒渦巻銀河

アメリカ・テキサス大学オースティン校のYuchen Guoさんたちの研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が行った初期観測プログラムの一つ“宇宙進化初期リリース科学サーベイ(CEERS)”で得られた画像から、中心部に棒構造を持つ“棒渦巻銀河”を6個見つけました。
 棒渦巻銀河は渦巻銀河と全く同じ特徴を持つが、銀河中心のバルジを貫くような配置の棒状構造をディスク(中心核と腕を含む銀河円盤)内に持ち、渦巻腕がこの棒構造の両端から伸びている点が通常の渦巻き銀河と異なる。
棒渦巻銀河が見つかったのは、宇宙年齢が現在の20~40%だった時代でした。

今回見つかった棒渦巻銀河の一つ“EGS-23205”が位置しているのは、うしかい座の方向約110億光年の彼方(赤方偏移z=2.136)。
 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
その姿は、ハッブル宇宙望遠鏡の画像ではチリに覆われた円盤の形がぼんやりと見える程度でした。

でも、昨年夏に撮影されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像では、明らかに棒構造を持つ美しい棒渦巻銀河としてとらえられていたんですねー
棒渦巻銀河“EGS-2305”。(左)ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像、(右)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による中間赤外線画像。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
棒渦巻銀河“EGS-2305”。(左)ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像、(右)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による中間赤外線画像。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
ハッブル宇宙望遠鏡ではほとんど見えなかった棒構造が、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像では際立っていたわけです。
このことは、銀河の基本構造を見る上でジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が驚異的な威力を持つことを示していました。

なぜ、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は遠くの銀河の構造をハッブル宇宙望遠鏡よりもくっきりと撮影できるのでしょうか?

この理由は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がハッブル宇宙望遠鏡よりも主鏡が大きく集光力・分解能が高いこと。
それに、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡よりも長波長の赤外線で観測するので、チリを見通すことができるためです。

研究チームは、同じく約110億年彼方(赤方偏移z=2.312)にある棒渦巻銀河“EGS-24268”も同定。
“EGS-23205”と“EGS-24268”は、これまでに見つかった棒渦巻銀河の中で最も遠いものになりました。
そして、残りの4個の棒渦巻銀河も80億光年以上の彼方に位置していました。

今回の研究で目にしたのは、こうしたデータを過去に誰も使ったことも定量的に分析したことも無い、まったく新しい領域でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた6個の棒渦巻銀河。各左上のラベルは銀河の名称とその銀河が存在する時代(Gry=10億年)で、約84億~110億年前の範囲にあたる。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた6個の棒渦巻銀河。各左上のラベルは銀河の名称とその銀河が存在する時代(Gry=10億年)で、約84億~110億年前の範囲にあたる。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
棒渦巻銀河では、棒構造によって銀河中心部にガスが送り込まれることで、他の領域より10~100倍も速く星の形成が進みます。
さらに、中心部に供給されたガスの一部は、銀河中心にある超大質量ブラックホールの成長にも使われます。

今回、初期の宇宙に棒渦巻銀河が見つかったことで、棒構造が初期の時代に星形成を加速するという、新たな経路が銀河進化モデルの中に見出されたことになります。

こうした初期の宇宙に、すでに棒渦巻銀河が存在するという事実は、まさに現行の銀河の理論モデルに見直しを迫るもの。
そう、初期宇宙での棒渦巻銀河の存在率を正しく導くように銀河の物理を修正する必要があるんですねー
研究チームでは、今後の論文で様々なモデルの検証を行っていくそうです。


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55億光年彼方の宇宙で見つかった最大級のモンスター超銀河団“キングギドラ”

2023年02月10日 | 銀河・銀河団
国立天文台と広島大学を中心とした研究チームが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いた大規模観測から、約55億光年彼方の宇宙に巨大な超銀河団を見つけました。
この超銀河団は、およそ満月15個分の天域にまたがって銀河とダークマターが強く密集しているだけでなく、含まれている銀河団は少なくとも19個。
50億光年以遠の宇宙で確認されている中では最大の超銀河団だそうです。

銀河団が集まって形成する巨大構造“超銀河団”

宇宙における巨大な天体といえば、無数の星やガスが集まった銀河が挙げられます。

でも、重力によって一つにまとまった天体として宇宙最大規模といえるのは、その銀河が大量のガスとともに集まった銀河団になります。
その銀河団がさらに集まって“超銀河団”という巨大構造を形成していることも分かっています。
 超銀河団とは、宇宙において、銀河群や銀河団が集まり形成されている銀河の大規模な集団。その大きさは1億光年以上の広がりを持つものもある。
約100メガパーセク(天の川銀河の約500倍)にわたって広がる構造を持つ超銀河団ですが、一方で定義そのものもまだ曖昧。
その正体や内部で何が起こっているかなど、多くの謎に包まれています。
 天文学において太陽系外の天体までの距離を測る単位の一つ。1パーセク(pc)は、1天文単位(au)=約1.4960億キロメートルが角度の1秒を張る距離で、約31兆キロメートルに相当する。光年を用いると1パーセク=3.26光年になる。
実のところ、“天の川銀河”も“おとめ座超銀河団”と呼ばれる超銀河団の内部に位置していて、さらに周辺の複数の銀河団や超銀河団とともに、より大きな“ラニアケア超銀河団”を構築しています。
 私たちの住む“天の川銀河”は“おとめ座超銀河団”の内部、およびその中核をなす“おとめ座銀河団”の外れに位置していることが知られている。超銀河団の定義自体が曖昧である現状も相まって、超銀河団をさらに包み込む巨大構造も超銀河団と呼ばれるケースがある。
そう、超銀河団は私たちが住む近傍宇宙の成り立ちを明らかにする上で、非常に重要な研究対象といえるんですねー

少なくとも9の銀河団で構成された超銀河団を検出

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”を用いた大規模探査“すばる戦略枠プログラム”は、満月の見かけの大きさの約4400倍に相当する広範囲を100億光年以遠の彼方まで観測することに成功しています。

このプログラムから得られる高品質な画像データは、未知の超銀河団を探すのに現時点で最適なリソースといえます。

国立天文台ハワイ観測所の嶋川里澄さんの研究チームは、“ハイパー・シュプリーム・カム”を用いた“すばる戦略枠プログラム”の観測データを分析し、超銀河団の候補を100天体近く見つけています。

研究チームは、その中で最も規模が大きいと見込まれるものについて、星の総質量とダークマターの分布を調査。
 ダークマターの分布は、弱重力レンズ効果を利用して求めている。弱重力レンズ効果は、遠方の銀河から放たれた光が、手前にある銀河団など強い重力場を持つ領域を通過する際に光路が曲げられることで、遠方銀河がゆがんだり増光されて見える現象(重力レンズ効果)のうち、その程度が比較的小さい場合を指す。今回の研究で発見された超銀河団は、50億光年以遠の宇宙で、これまでに弱重力レンズ解析によって確認された中では最大の構造になる。
すると、3つのダークマター密集領域を中心に、少なくとも19の銀河団で構成された超銀河団を検出するんですねー
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラがとらえた“キングギドラ超銀河団”の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡い赤色が示しているのはダークマターが広範囲にわたってとりわけ強く密集する領域。番号が付いた四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示す。周囲のパネルは、これら19個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子がとらえられている。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表す。(Credit: 国立天文台)
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラがとらえた“キングギドラ超銀河団”の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡い赤色が示しているのはダークマターが広範囲にわたってとりわけ強く密集する領域。番号が付いた四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示す。周囲のパネルは、これら19個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子がとらえられている。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表す。(Credit: 国立天文台)
おとめ座の東端辺りに広がるこの構造は、およそ55億光年彼方の宇宙に存在し、見かけの面積は満月約15個分もありました。
研究チームでは、この巨大な構造を“キングギドラ超銀河団”と呼んでいます。

ダークマターの分布は、その重力によってさらに奥に位置する天体からの光がわずかにゆがむ“弱い重力レンズ効果”を利用して解析されたもので、この手法で見つかった50億光年以遠の超銀河団としては“キングギドラ超銀河団”は最大のものでした。

宇宙論的シミュレーションとの比較から示唆されたのは、“キングギドラ超銀河団”が太陽質量の10の16乗倍のダークマター質量を持っていること。
これは、“おとめ座超銀河団”のおよそ10倍に匹敵するんですねー

さらに、そのすぐ外側にも超銀河団相当の巨大構造が2つ確認されていて、近傍宇宙最大の“ラニアケア超銀河団”のような超巨大構造の前身である可能性もあります。

今回ターゲットにした約55億光年先の宇宙で、すばる望遠鏡の戦略枠プログラムによる探査データから、このような超銀河団が見つかる確率は五分五分だったそうです。

今後は、近く稼働予定のすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器“PFS”や、ユークリッド宇宙望遠鏡を使って、3次元構造や内部の銀河形態などに迫っていくようです。


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矮小不規則銀河“UGC 7983”と無数の銀河… そして偶然映り込んだ小惑星の軌跡

2023年02月08日 | 銀河・銀河団
数十億個ほどの恒星が集まった“矮小銀河”は、天の川銀河と比べて規模が100分の1程度の小さな銀河です。
その“矮小銀河”の中でも、星やガスが不規則に分布している銀河を“矮小不規則銀河”と呼びます。
今回公開された画像は、“おとめ座”の方向約3000万光年彼方に位置する矮小不規則銀河“UGC 7983”のもの。
遠方に散らばる無数の銀河や、偶然映り込んだ小惑星の軌跡がとらえられています。
矮小不規則銀河“UGC 7983”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Tully)
矮小不規則銀河“UGC 7983”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Tully)
上の画像に移っているのは銀河“UGC 7983”だけではないんですねー
その背後には、はるか遠方にある無数の銀河が視野全体にわたって写り込んでいます。

そこに写っているのは、天の川銀河やアンドロメダ銀河のような渦巻銀河から、“UGC 7983”と同じおとめ座の方向にある“M87”のような楕円銀河まで、その形態は様々です。

では、画像の左上に写っているうっすらとした1本の点線は何でしょうか?
ヨーロッパ宇宙機関によれば、これは観測中にたまたま視野を横切った太陽系の小惑星の軌跡なんだとか。

この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ“ACS”を使って取得された4つのデータを組み合わせることで作成されています。

1基の宇宙望遠鏡で複数のデータを得るには、途中でフィルターを切り替えながらの露光が必要なんですねー
なので、移動する小惑星の軌跡が、このように断続的な4本の線として記録されたというわけです。

なお、ハッブル宇宙望遠鏡による“UGC 7983”の観測は、“Every Known Nearby Galaxy”というキャンペーンの一環として実施さたもの。

このキャンペーンでは、天の川銀河から10メガパーセク(約3260光年)以内に存在する近傍のすべての銀河を正確に観測するため、153個の銀河を対象に2019年から2021年にかけてハッブル宇宙望遠鏡による観測が実施されています。
 天文学において太陽系外の天体までの距離を測る単位の一つ。1パーセク(pc)は、1天文単位(au)=約1.4960億キロメートルが角度の1秒を張る距離で、約31兆キロメートルに相当する。光年を用いると1パーセク=3.26光年になる。
ヨーロッパ宇宙機関によると、天の川銀河の隣人ともいえる近傍の銀河の観測は、天文学者が様々な銀河に存在する星の種類を断定し、宇宙の局所構造をマッピングする上でも役立つそうです。

3000万光年先の小さな銀河と遠方に散らばる無数の銀河…
そして、偶然映り込んだ小惑星の軌跡をとらえたこの画像は、ヨーロッパ宇宙機関から2023年1月16日付で公開されています。


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迷子になった星々が放つ淡く広がった光から銀河団の歴史を理解できるかも

2023年01月28日 | 銀河・銀河団

孤立した星々が放つ淡く広がった光

数百~数千個の銀河が集まった“銀河団”の内部には、どの銀河とも重力的に結びついていない迷子のような星がたくさん存在しています。

銀河団全体を眺めると、これらの星々が淡く広がった光を放っているんですねー
このような星が放つ淡い光は“銀河団内光(intracluster light ; ICL)”と呼ばれています。

銀河団内光は、1951年に天文学者のフリッツ・ツビッキー氏(Fritz Zwicky, 1898 - 1974)によって“かみのけ座銀河団”で初めて検出されました。
かつてツビッキー氏は、この銀河団で微光を発する銀河間物質を観測したと報告しています。

“かみのけ座銀河団”は地球から約3億3000万光年彼方にあり、1000個以上の銀河を含んでいます。
地球に最も近い銀河団の一つなので、当時の小さな望遠鏡でも幽霊のような光を検出することができたそうです。

なぜ銀河間内光を作り出している星々は迷子になったのか

では、銀河団内光を放つこれらの孤立した星々は、いつ、どのようにして銀河団の中に散らばったのでしょうか?

このことについては、
1.銀河団の中を銀河が運動することで星々がはぎとられた。
2.銀河の衝突合体で星々が放出される。
3.銀河団が形成された数十億年前には既に存在していた。
など、いくつかの説があって決着はついていません。
 今回の研究を進めているのは、韓国・延世大学のHyungjin Jooさんたちの研究チームです。
今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移zがおよそ1~2(80億~100億光年)までの距離にある10個の銀河団を近赤外線で観測。
すると、銀河間内光が銀河団全体の明るさに占める割合は、過去数十億年にわたってほぼ一定であることが明らかになります。
 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
このことは、銀河間内光の光源である迷子の星々が、数十億年前から既に銀河団の中に存在していたことを示しています。
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団“MOO J1014+0038”(左)と“SPI-CL J2106-5844”(右)。3つの波長の近赤外線画像から疑似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。(Credit: NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学)、画像処理: Joseph DePasquale (STScI))
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団“MOO J1014+0038”(左)と“SPI-CL J2106-5844”(右)。3つの波長の近赤外線画像から疑似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。(Credit: NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学)、画像処理: Joseph DePasquale (STScI))
一般に、銀河団のメンバー銀河が銀河団の内部を運動すると、銀河団ガスの抗力を受けて銀河内のガスやチリが銀河から失われ、銀河の星々も銀河外に散乱すると考えられています。

でも、今回の観測結果からは、このような比較的新しい時代に起こる力学的な作用は、迷子星ができる主な原因ではないらしいことが分かっています。
もし、こうしたメカニズムが原因なら、銀河間内光の明るさ(=迷子星の数)は時代とともに増えていくはずなんですねー

銀河間内光を作り出している星々が迷子になった原因は、まだ正確には分かっていません。
ただ、今回の観測結果から、宇宙の初期段階には既に、何らかの原因で大量の迷子星が銀河団の中に存在していたことになります。

銀河団が形成された初期の時代には、銀河はまだかなり小さくて重力が弱かったので、簡単に星が銀河外へ流出できたのかもしれません。

もし、迷子星が宇宙の初期に生まれたのであれば、こうした星々は長い時間をかけて、既に銀河団の隅々まで広く散らばっていることになります。
そうすると、銀河や銀河団を重力でまとめている“暗黒物質”の分布を探るのに、迷子星を利用できるのかもしれません。

銀河団内の暗黒物質の分布は、現在は背景銀河の像が銀河団の重力レンズ効果で歪む様子をたくさん調べることで推定しています。
それが、銀河間内光を使うことで、これまでの手法を補える可能性があるんですねー

近赤外線で高い感度を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で迷子星を観測して、銀河団全体の暗黒物質の分布を調べられるようになれば、銀河団の歴史を理解するのに大いに役立つはずです。
 重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。


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