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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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星形成を抑制する激しいガスの運動って何? 棒渦巻銀河には星の材料があるけど星が誕生しない場所がある

2023年08月15日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、野辺山45m電波望遠鏡やアルマ望遠鏡などを用いて、近傍宇宙の複数の棒渦巻銀河における、分子ガスからの星の生まれやすさ(星形成効率)の詳しい解析を行っています。

その結果、明らかになったのは、棒渦巻銀河では棒部の星形成効率が渦巻き腕に比べて系統的に低いことでした。
このことは、棒部では何らかの理由で、星形成活動が抑制されていることを示していました。

さらに、研究チームが発見したのは、分子ガスの速度幅が大きい領域ほど抑制の度合いが大きいこと。
これは、棒構造に由来するガスの激しい運動が要因で、星形成が抑制されていることを示唆しているようです。
この研究は、東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育センター所属の前田郁弥研究員と京都大学、会津大学、北海道大学からなる研究チームが進めています。

渦巻銀河と棒渦巻銀河

近傍宇宙では、星形成が活発な銀河の半数以上に円盤構造があり、そのような銀河は円盤銀河と呼ばれています。
近傍宇宙とは、宇宙のスケールから見て、太陽系からそれほど遠くない宇宙空間のこと。どの距離までの空間を近傍宇宙と呼ぶかについては明確な定義は無く、研究者や研究分野によって意味合いは異なる。今回の研究では、約30メガパーセク、つまり約1億光年以内程度の宇宙空間にある銀河を対象にしている。
さらに、円盤銀河には2種類あり、それが渦巻銀河と棒渦巻銀河です。

渦巻銀河は、図1(左)のように、文字通り渦を巻いた構造(渦巻腕と呼ばれる)が見られる銀河。
棒渦巻銀河は、渦巻銀河と似ていますが図1(右)のように、中心を貫く棒構造が見られるのが特徴です。

円盤銀河の約半数から3分の2は棒渦巻銀河といわれていて、私たちが住んでいる天の川銀河も棒渦巻銀河と考えられています。
図1.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
図1.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))

銀河内部での星形成活動

銀河の進化過程を調べる上で非常に重要なのが、銀河内部での星形成活動を調べることです。

渦巻銀河を見ると、渦巻き腕に沿ってダークレーンと呼ばれる黒い帯状の領域が見えています。

ここには、星を作る材料になる分子ガスやチリが集積しています。
それに隣接するように、電離水素領域と呼ばれる生まれたばかりの大質量星に由来する赤い光や、大質量星自体の青白い光が無数に見えています。

でも、棒部で見られるのは、星の材料になる分子ガスの存在を示すダークレーンのみ。
星形成が起きていることを示す赤や青の光は見られません。

このことから、棒渦巻銀河の棒部では星形成活動が抑制されているのではないか、っということが言われていきました。

星形成が抑制されているかどうかを定量的に評価するには、分子ガスからどれだけ効率的に新しい星が誕生するかを表す量、いわゆる星形成効率を測定する必要があります。

これまでの研究によって、数個の棒渦巻銀河については星形成率が測定され、渦巻腕に比べて棒部では星形成効率が低く、星形成が抑制されていることが定量的に確認されていました。

でも、まだ調査が行われていない銀河も多く存在しているんですねー
なので、棒部で星形成が抑制されることは棒渦巻銀河全体で一般的なのか? また抑制の度合いは銀河によってどの程度異なるのか? さらに何が抑制の原因になっているのか? っといった重要な問いへの答えは依然として不明のままでした。

棒渦巻銀河の星形成効率

今回の研究では、近傍宇宙の棒渦巻銀河について、現時点で星形成効率を正確に測定可能な銀河17個を対象に、棒部の星形成効率を統計的に調査しています。

星形成効率は、星形成活動の強さを分子ガスの量で割ると出てきます。
その分子ガスの量は、一酸化炭素(CO)が発する電波輝線を用いて測定します。

近年、野辺山45メートル望遠鏡やアルマ望遠鏡による大規模プロジェクトをはじめとした、近傍の円盤銀河が対象のCO輝線観測が進んだおかげで、分子ガスのデータが大量に蓄積されていました。

一方、星形成活動の強さは、NASAの赤外線天文衛星“WISE”とNASAの紫外線天文衛星“GALEX”のデータから調べることが可能です。

研究チームは、これら蓄積されたデータを用いて棒渦巻銀河の星形成効率を調べることになります。

渦巻腕に比べて低い棒部の星形成効率

ただ、銀河の棒部の星形成効率を正確に調べるには、棒部とそれ以外の領域(中心や渦巻腕など)とを区別できるだけの高い解像度が必要になります。

そこで、今回の研究では、棒部の大きさに対して星形成活動の強さと分子ガスのデータの解像度が十分高い銀河を抽出。
その全て(17個)について棒部の星形成効率を調べています。(図2)
図2.今回の研究で星形成効率を調べた17個の棒渦巻銀河の分子ガス分布の画像。等高線は星形成活動の強さを示している。マゼンタの長方形が棒部、中心部、バーエンドの領域の定義。左下の黒丸が画像の解像度で、棒部とそれ以外の領域を区別できるだけの十分な解像度があることが分かる。(Credit: 東京大学)
図2.今回の研究で星形成効率を調べた17個の棒渦巻銀河の分子ガス分布の画像。等高線は星形成活動の強さを示している。マゼンタの長方形が棒部、中心部、バーエンドの領域の定義。左下の黒丸が画像の解像度で、棒部とそれ以外の領域を区別できるだけの十分な解像度があることが分かる。(Credit: 東京大学)
その結果分かったのは、どの銀河においても棒部の星形成効率は渦巻腕に比べて低いことでした。

つまり、棒渦巻銀河の棒部では、系統的に星形成活動が抑制されていることが明確に確かめられたんですねー (図3左)。

また、中心部と棒部、棒部と渦巻腕の結合部“バーエンド”では、星形成効率が渦巻腕に比べて高い傾向にあり、棒渦巻銀河の内部では渦巻銀河に比べて星形成率が大小様々な値を示すことも明らかになりました(図3中)。

さらに分かったのは、CO輝線の速度幅と星形成効率の間には負の相関があること(図3右)。
渦巻腕に比べて速度幅が大きくなるほど、星形成効率が低くなる傾向が見られたわけです。
観測されるCO輝線は、ドップラー効果によって観測者との視線方向の相対速度(視線速度)に応じて周波数が変化する。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることが出来る。周波数で表された輝線の幅を視線速度に換算したものを“速度幅”と呼ぶ。速度幅が大きいことは、観測している領域のガスの相対速度が大きいこと、つまり領域内部のガス運動が激しいことを示している。
速度幅は、ガスの運動の激しさを表していると考えられています。
なので、この相関はガスの運動が激しい領域ほど、星形成が抑制される傾向にあることを示唆しています。

これらの結果は、より多くのデータに基づく統計的なアプローチにより、明確に観測された重要な発見といえます。
図3.(左)中心部・棒部・バーエンドの星形成効率。黒バツは個別の銀河の結果を示していて、赤四角は17個の銀河の中央値を示している。縦軸は渦巻腕の星形成効率との比をとっていて、点線より下側に点が来ると、それは渦巻腕に比べて星形成効率が低いことを示す。この図から、棒部での星形成効率が渦巻腕に比べて低いことが分かる。(中)今回の研究から得られた棒渦巻銀河内部の星形成活動の描像。(右)棒部とバーエンド領域について星形成効率とCO輝線の速度幅の関係。渦巻腕に比べて速度幅が大きくなるほど、星形成効率が低くなる傾向がみられる。(Credit: 東京大学)
図3.(左)中心部・棒部・バーエンドの星形成効率。黒バツは個別の銀河の結果を示していて、赤四角は17個の銀河の中央値を示している。縦軸は渦巻腕の星形成効率との比をとっていて、点線より下側に点が来ると、それは渦巻腕に比べて星形成効率が低いことを示す。この図から、棒部での星形成効率が渦巻腕に比べて低いことが分かる。(中)今回の研究から得られた棒渦巻銀河内部の星形成活動の描像。(右)棒部とバーエンド領域について星形成効率とCO輝線の速度幅の関係。渦巻腕に比べて速度幅が大きくなるほど、星形成効率が低くなる傾向がみられる。(Credit: 東京大学)

星形成を抑制する激しいガスの運動とはどんな現象なのか

今回の研究から、棒部では星形成が抑制されていて、この現象がガスの動きの激しさと連動していることが明らかになりました。

ここで考えられるのは、棒渦巻銀河では棒構造の存在によって銀河円盤の重力場が歪み、分子ガスが楕円軌道を描いたり、銀河中心へ向かったりすることです。

これらは、渦巻銀河に見られる円運動とは異なるガスの流れで、その影響でガスの運動が激しくなり、CO輝線の速度幅が広がると考えられます。

それでは、星形成を抑制する激しいガスの運動とは、具体的にどのような現象を示しているのでしょうか?

残念ながら、今回このことを解明することができませんでした。

それには、星の誕生場所になる分子雲の観測が、今後重要になってくるはずです。

理論的な研究で提唱されているのは、棒部で強い衝撃波やせん断運動により分子雲が破壊されるというもの。
または、分子雲が高速で衝突し星形成が阻害されるといったシナリオが提唱されています。

これらのシナリオを検証するため、棒部の分子雲の内部まで分かるような解像度で観測することが、今後重要になってくると考えられています。


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大きな銀河が小さな銀河の星々や星の材料を取り込むことで成長・進化するプロセスのワンシーンを撮影

2023年08月07日 | 銀河・銀河団
エリダヌス座の方向約5500万光年彼方に位置する渦巻銀河“NGC 1532”。

“NGC 1532”は地球に対して真横を向けた位置関係にある、いわゆるエッジオン銀河のひとつです。

奥の方に見える渦巻腕(渦状腕)は反り返るように歪んでいますが、これは中心部のすぐ上に写っている矮小銀河“NGC 1531”との重力を介した相互作用の影響によるものです。
渦巻銀河“NGC 1532”に取り込まれつつある矮小銀河“NGC 1531”。(Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA; R. Colombari, M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab))
渦巻銀河“NGC 1532”に取り込まれつつある矮小銀河“NGC 1531”。(Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA; R. Colombari, M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab))
この画像を公開したアメリカ科学財団(NSF)の国立工学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、“NGC 1531”はやがて“NGC 1532”に取り込まれると考えられています。

両銀河の相互作用が促してきたのは双方での爆発的な星形成活動。
また、2つの銀河からはガスとチリが流出していて、まるで銀河と銀河をつなぐ橋のようにも見えます。

“NGC 1531”と“NGC 1532”は、大きな銀河が小さな銀河の星々や星の材料を取り込むことで成長・進化するプロセスのワンシーンを示したスナップショットとも言えます。

実は、同じようなプロセスは天の川銀河でも過去に6回も起きたと考えられています。
その痕跡は、銀河円盤を球状に取り囲むハロー(銀河ハロー)と呼ばれる領域に、恒星ストリームなどの形で残されています。
矮小銀河が天の川銀河の近くにやってくると、天の川銀河の重力によって矮小銀河内の星が引き出され、それが恒星流(恒星ストリーム)となって宇宙空間に広がる。このような天の川銀河と矮小銀河が作用した際に形成された星の流れが、星が他の銀河から移動してきた証拠になる。
このような大小の銀河同士の相互作用は、似たようなサイズの銀河同士の相互作用とは異なっています。

サイズが同程度の渦巻銀河2つが衝突すると大変動が起こり、全く別の銀河として生まれ変わると考えられています。

天の川銀河も約40億年後にはアンドロメダ銀河(M31)と衝突・合体して、最終的に1つの楕円銀河が誕生すると予測されています。

冒頭の画像は南米チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4メートル望遠鏡に設置された観測装置“ダークエネルギーカメラ(DECam)”の観測データ(可視光線と近赤外線のフィルターを使用)をもとに作成されたもの(国立工学・赤外天文学研究所から2023年7月25日付で公開)。

ダークエネルギーカメラは、その名が示すようにダークエネルギー(暗黒エネルギー)の研究を主な目的として開発された観測装置で、画素数は約520メガピクセル、満月約14個分の広さ(3平方度)を一度に撮影することができます。

当初の目的であるダークエネルギー研究のための観測は2013年から2019年にかけて実施されました。


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衝突が始まって間もない段階の銀河団で淡く広がる電波放射を検出

2023年07月13日 | 銀河・銀河団
衝突早期の段階にある銀河団からは、これまでほとんど見つかっていなかった電波放射。
今回の研究では、この電波放射を低周波数での観測で検出することに成功しています。

この研究成果は、銀河団同士の衝突により放射された電波のメカニズムの謎に迫るとともに、将来計画されている次世代電波干渉計の観測結果をより理解する手法にもつながるようです。
“CIZA1359”の電波強度分布。黒の線は広がった放射を強調した“UGMRT”での観測による電波強度分布を示している。白はX線天文衛星“すざく”によるX線表面輝度分布、赤は“XMMニュートン”による高温領域を示している。(Credit: 藏原昂平)
“CIZA1359”の電波強度分布。黒の線は広がった放射を強調した“UGMRT”での観測による電波強度分布を示している。白はX線天文衛星“すざく”によるX線表面輝度分布、赤は“XMMニュートン”による高温領域を示している。(Credit: 藏原昂平)

銀河団同士の衝突で発生する衝撃波“粒子加速”

宇宙のなかで巨大な天体といえば、無数の星やガスが集まった銀河があります。

でも、重力によって一つにまとまった天体として宇宙最大規模といえるのは、数千個もの銀河が大量のガスとともに集まった銀河団になんですねー
その銀河団が、さらに集まって“超銀河団”という巨大構造を形成していることも分かっている。
銀河団は、互いに衝突を繰り返しながら進化すると考えられています。
その衝突で発生した衝撃波は“粒子加速”と呼ばれ、このメカニズムで光速近くにまで加速された電子が放射する電波が、銀河団から検出されています。

ただ、これまで検出された電波放射は、銀河団同士の衝突が十分に進んだ衝突後期の段階からが主で、衝突が始まって間もない段階の銀河団からは、ほとんど見つかっていませんでした。

このことは、“粒子加速”のメカニズムが、どのような状態で機能するのかという大きな謎を残していました。

衝突早期の弱い衝撃波でも“粒子加速”のメカニズムは存在する

この謎を解決するため、今回の研究では衝突早期の段階にある銀河団“CIZA1359”とその周辺を、センチメートル帯の低周波の電波で観測しています。
この研究を進めているのは、国立天文台の藏原昂平(くらはら こうへい)特任研究員を中心とする国際研究チームです。
観測にはインドの巨大メートル波電波干渉計“uGMRT”を用い、解析には“方向依存型較正(こうせい)”と呼ばれる最新の手法を導入しています。

その結果、これまでの研究よりもおよそ10倍高い感度を達成することに成功。
“CIZA1359”からの電波放射の分布を高い精度で、かつ多様なスケールで明らかにしています。
また、38000という記録的なイメージダイナミックレンジも達成しました。

今回の研究で“CIZA1359”から、初めて銀河団同士の衝突に由来すると考えられる淡く広がった電波の検出に成功しました。

この結果は、衝突早期の段階における弱い衝撃波でも、“粒子加速”のメカニズムが存在することを明らかにするものです。

また、この電波の分布の中に見られたのは、複数の活動銀河核のような構造でした。
活動銀河核からは電子などの荷電粒子が放出されるので、今回検出された衝突早期の銀河団からの淡い電波放出と何か関係があるのかもしれません。

一方、名古屋大学大学院理学研究科 博士課程の大宮悠希(おおみや ゆうき)さんを中心とする研究チームでは、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”による観測データを解析し、“CIZA1359”の電波放射がある領域において衝撃波が存在することを初めて発見しています。

このX線観測の結果と今回の電波観測の結果を合わせることで、“粒子加速”のメカニズムをより詳細に理解できることが期待されます。

今回のような新しい電波放射の発見に用いた最新の解析手法は、今後建設が始まる次世代の超大型電波望遠鏡“SKA(エスケーエー)”などによる観測結果を、より詳細に理解するためにも重要なものになるはずです。

今後も同様の解析手法の発展と、多くの新しい電波放射の発見が期待されます。


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太古の宇宙で見つかる巨大銀河も星屑を再利用して成長を続けている

2023年06月09日 | 銀河・銀河団
銀河で生まれた星の一部は超新星爆発を起こして、その残骸を膨大なエネルギーとともに銀河の外へ放出します。

でも、この残骸は再び銀河へと舞い戻り、次世代の星の新たな糧にもなるんですねー

今回の研究では、すばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いて、この星の輪廻転生を通して成長する巨大銀河の様子をとらえることに初めて成功したそうで。
星屑を再利用しながら成長し続ける巨大銀河のイメージ図。超新星爆発やブラックホールの活動によって銀河の外へ放出された星の残骸が再び銀河内部へ送り返されることで、爆発的な星形成が絶えず維持され、より大きな銀河へ成長することを手助けする。背景はマウナケア山頂域に並ぶ、すばる望遠鏡とケック望遠鏡。(Credit: 精華大学/NAOJ)
星屑を再利用しながら成長し続ける巨大銀河のイメージ図。超新星爆発やブラックホールの活動によって銀河の外へ放出された星の残骸が再び銀河内部へ送り返されることで、爆発的な星形成が絶えず維持され、より大きな銀河へ成長することを手助けする。背景はマウナケア山頂域に並ぶ、すばる望遠鏡とケック望遠鏡。(Credit: 精華大学/NAOJ)

太古の宇宙で見つかる銀河はどうやって成長を持続しているのか

宇宙の大規模構造に沿って淡く分布するガスは、銀河が新しい星を形成するための材料になります。
宇宙の大規模構造は、100万光年以上という巨大なスケールで広がる銀河や物質から構成される泡状の構造。銀河がほとんど存在しない領域“ボイド”や、逆に銀河が多く集まる“フィラメント構造”など、銀河が偏って存在する構造のこと。宇宙初期の急加速膨張であるインフレーションの際に生じた密度ゆらぎがもとになり、さらにダークマターがその重力によって物質を集めるきっかけとなったことで成長していった構造と考えられている。
星が超新星爆発で最期を迎えると、ガスが銀河の外に排出されることがあります。
一方で、星を作り続けるには、銀河に降り注ぐガスの供給が絶えず必要になるはずです。

これまで、成長途上の銀河が太古の宇宙でたくさん発見されてきましたが、持続成長の原動力が宇宙誕生時の原始的なガスの供給によるものなのか、それとも死んだ星の残骸を多く再利用しているのかは、明らかになっていませんでした。

太古の銀河を囲むガスは重元素に富んでいる

この疑問に答えるため、清華大学、早稲田大学、マックス・プランク宇宙物理学研究所を中心とする国際研究チームは、110億年前の宇宙にある巨大銀河を観測しています。

宇宙誕生時の原始的なガスは、ほとんどが水素で構成され、わずかにヘリウムを含みます。

一方、再利用されるガスは、星の核融合によって生成された重い元素を含んでいます。

研究チームは、すばる望遠鏡とケック望遠鏡の観測データを解析し、この銀河の周辺30万光年にも及ぶ広い範囲で、水素やヘリウム、炭素を検出。
そこから分かったのは、これらの元素の比率が太陽で見られるものと同等であることでした。

太陽系から110億光年も離れた太古の銀河を囲むガスが、これほど重元素に富んでいることは驚くべきことでした
天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。

星屑の再利用だけで銀河の成長を促すことができる

研究チームは、銀河を取り巻くガスの動きをシミュレーションと比較することによって、一年間に太陽700個分に相当するガスが銀河に還流していることを明らかにしています。

このことは、この銀河で観測された星形成の速度(1年間に太陽80個分ほどの星が生まれる)を、遥かに上回るもの。
そう、ガスの再利用だけで銀河の成長を促すことができることを示しているんですねー

私たちの身の回りに存在するバリオンと呼ばれる通常の物質は、実は大半が銀河の外にありますが、希薄な銀河間ガスを直接観測することは極めて難しいことです。
宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきている。その“バリオン”も、星や銀河、星間ガスなどとして観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていない。これが“ミッシング(行方不明の)バリオン問題”。ミッシングバリオンは宇宙の構造形成シミュレーションから、網の目のような宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されている。
この希薄なガスの中の重元素を特定しただけでなく、運動状態をもとらえることに成功したわけです。

その意味で、銀河形成の理解に向けて大きく前進したといえるのかもしれません。

この研究では、水素と重い元素の比率を測定するために、すばる望遠鏡に搭載された多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS(Multi-object Infrared Camera and Spectrograph:モアックス)”で撮られた水素ガスのデータが非常に重要な役割を果たしたそうですよ。


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なぜ“超淡銀河”は大きさに対して星の数が少ないのか? 銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”を見つけて分かったこと

2023年03月07日 | 銀河・銀河団
すばる望遠鏡を用いた“M81銀河群”の観測から、この銀河群に属する“超淡銀河”から中心銀河の方向へ星が流れ出ている様子が明らかになりました。

このような尻尾のように伸びた構造“恒星ストリーム”が“超淡銀河”で見つかったのは初めてのこと。
銀河群の力学進化とともに、謎に包まれた“超淡銀河”の起源に対して重要な示唆を与えてくれそうです。
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)

ごくわずかな数の星しか含まない銀河

“M81銀河群”は、渦巻銀河“M81”を中心に大小40余りの銀河で構成される、地球から1200万光年彼方に位置する私たちに最も近い銀河群の一つです。

天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心とする“局所銀河群”に似た性質を持つことから、天の川銀河の歴史を解き明かす上で重要な研究対象になっているんですねー

この“M81銀河群”に属する矮小銀河の一つ“F8D1”は、銀河の大きさに対して含まれる星の数がごくわずかで、極端に暗く淡く広がっている“超淡銀河”です。

それでは、超淡銀河がその大きさに比べて、ごくわずかな数の星しか含まないのはなぜなのでしょうか?
この長年にわたって天文学者たちを悩ませている問題に取り組む上で、私たちに最も近い超淡銀河である“F8D1”は格好の調査対象でした。

銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”

国立天文台とエジンバラ大学の研究者を中心とする国際研究チームは、2014年からすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”を用いた、“M81銀河群”の撮像探査“M81 銀河考古学プロジェクト”を続けています。

超淡銀河“F8D1”の周辺については、観測画像に写る一つ一つの天体から、“M81銀河群”の距離にある赤色巨星を取り出しその分布を調査。
すると、“F8D1”から渦巻銀河“M81”の方向に1度角以上に渡って伸びる、尻尾のような構造“恒星ストリーム”が見つかります(図1右)。

“恒星ストリーム”の長さは銀河本体の大きさの30倍以上に及び、またその明るさは銀河に含まれる星の3分の1以上が流れ出たことを示していました。
 超淡銀河“F8D1”の明るさや中心座標を調べるために、研究チームはハワイ州マウナケア山に設置された天文台“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”の“MegaCam”カメラによる観測も行っている。
研究チームの推測は、超淡銀河“F8D1”が巨大な渦巻銀河“M81”の近くを通過した際に強い潮汐力を受けた結果、このような姿になったというもの。
“F8D1”とその巨大な“恒星ストリーム”は、過去数十億年の間に起こった銀河間の重力相互作用が、銀河の性質を大きく変えてしまった一つの例と言えます。

超淡銀河は、生まれながらにして淡く広がっていたのでしょうか?
それとも、銀河の成長過程でこのような姿になったのでしょうか?

この問いに対して、超淡銀河“F8D1”の“恒星ストリーム”の発見は、超淡銀河の起源について、その答えを明確に示す初めての例になりました。

今後、重要になってくるのは、他の超淡銀河にも同様の尻尾のような構造が存在するのかを調べることになります。

今回見つかったような潮汐力による“恒星ストリーム”は、一般的には銀河を中心に対象となる両側の位置に見られます。

ただ、“F8D1”は探査領域の端に位置しているので、片側の構造しか確認されていないんですねー

研究チームは、今後も“HSC”での観測を続ける予定で、今回見つけたものとは対象となるストリームがどのようになっているのかを調べていくそうです。

さらに、超広視野多天体分光器“プライム・フォーカス・スペクトログラフ(Prime Focus Spectrograph:PFS)”などを用いて運動の情報を調べることで、超淡銀河の詳しい性質や銀河群の力学進化にさらに迫ることができると期待されています。

今回の研究により、“M81銀河群”の力学進化が、これまで考えられていた以上に複雑であることが分かりました。

“M81”のような巨大銀河は“F8D1”のような小さな銀河がいくつも合体することで、大きく成長してきたと考えられています。
そう、“F8D1”から多くの星々が流れ出ている様子は、“M81”が成長するまさにその瞬間を見ているとも言えますね。


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