宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

銀河系外縁部の星形成領域は100億年前の宇宙初期に似ている!? 重元素の低い環境ではどのような星が生まれるのか

2023年08月26日 | 宇宙 space
約100億年前の重元素量の低い宇宙初期では、どのような星が生まれていたのでしょうか?

このことを調べるため、今回の研究で注目したのは、銀河系の外縁部にある星生成領域“Sh 2-209”でした。
それは、銀河系外縁部は、宇宙の初期と似た性質を持つことが知られているからです。

すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置を用いた撮像観測によって、約100億年前の宇宙に似た環境では、どのような星が生まれるのかが調査されています。

銀河系の外縁部で、様々な質量の星を含む大星団の詳細な“人口調査”がされた初めての観測例になるようです。
図1.この研究の調査対象になった“Sh 2-209”。銀河系の外縁部では稀な大規模な星形成領域になる。すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS”による画像。青、緑、赤はそれぞれ近赤外線のJバンド(波長1.26μm)、Hバンド(1.64μm)、Ksバンド(2.15μm)に対応する。(Credit: 国立天文台)
図1.この研究の調査対象になった“Sh 2-209”。銀河系の外縁部では稀な大規模な星形成領域になる。すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS”による画像。青、緑、赤はそれぞれ近赤外線のJバンド(波長1.26μm)、Hバンド(1.64μm)、Ksバンド(2.15μm)に対応する。(Credit: 国立天文台)

どのような重さの星がどのくらい生まれるのか

星は、銀河宇宙の最も主要な構成要素ですが、誕生時の質量によっておおよその一生が決まります。

銀河を構成するほとんど全ての星は、巨大なガス雲の中で集団(星団)として生まれ、その後1億年程度の時間をかけて銀河内に散逸していくことが知られています。

そのため、どのような重さの星がどのくらい生まれるかという、星の質量分布(初期質量関数:IMF)により、星団、さらには銀河全体のおおよその進化も決定されることになります。

そして、これまでの観測から分かってきたのは、太陽の近傍では、どの星団も似たような初期質量関数を持つことです。

でも、銀河系の中では、環境が大きく異なる領域が混在していることが知られています。

100億年前の宇宙における“星の生まれ方”

宇宙における物質は水素がほとんどを占めていますが、星の内部で起こる核融合により、水素やヘリウムより重い様々な元素が生成され、超新星爆発とともに周囲にばらまかれます。
天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
その結果、重元素量や元素組成といった“化学的環境”も、領域によって異なる時間スケールで進化をしていきます。

今回の研究では、重元素量の低い環境では、どのような星が生まれるのかを調べるため、銀河系の外縁部にある星生成領域“Sh 2-209”に注目。
この研究を進めているのは、国立天文台の安井千香子助教が率いる研究チームです。
この領域は、太陽系近傍と比べて重元素量が10分の1しかなく、宇宙の平均的な化学進化に照らし合わせると、約100億年前に相当していました。

つまり、この星形成領域は100億年前の宇宙における“星の生まれ方”を示唆している可能性があるんですねー

研究チームは、すばる望遠鏡の集光力と解像力を活かした観測で、太陽質量の10分の1ほどの軽く暗い星までを明確にとらえた撮像に成功。
その結果、“Sh 2-209”は大小2つの星団から成り立っていること、大きな方の星団は1500個もの星で構成されていることが分かりました。
撮像観測には、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS(Multi-object Infrared Camera and Spectrograph:モアックス)”が用いられている。
銀河系の外縁部で、これほど大規模な星形成領域が確認されたのは、今回が初めてのこと。
これにより、重元素の低い環境での初期質量関数を、0.1太陽質量から20太陽質量という広い質量範囲で、そして高い精度で導き出すことが初めて可能になりました。

調査をして分かってきたのは、太陽系近傍の星形成領域と比べて“Sh 2-209”では、重い星の割合がやや高い傾向が見られること。
一方で太陽よりも軽い星も数多く存在することが分かりました。(図2)
図2.“Sh 2-209”の初期質量関数(黒色の線)と太陽系近傍の星団での典型的な初期質量関数(オレンジの線)。“Sh 2-209”では、近傍の星団に比べて質量の大きな星がやや多く生まれている、一方で0.1~0.3太陽質量の軽い星も近傍の星団と比較して多く生まれていることが分かった。(Credit: 国立天文台)
図2.“Sh 2-209”の初期質量関数(黒色の線)と太陽系近傍の星団での典型的な初期質量関数(オレンジの線)。“Sh 2-209”では、近傍の星団に比べて質量の大きな星がやや多く生まれている、一方で0.1~0.3太陽質量の軽い星も近傍の星団と比較して多く生まれていることが分かった。(Credit: 国立天文台)
銀河系外縁部は、宇宙の初期と似た性質を持つことが知られています。

今回得られた結果は、宇宙初期には重い星が比較的多く形成されるものの、その数自体は、現在の典型的な星団と比べて、劇的には変わらないことを示唆するものになりました。

今後、2021年に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、“Sh 2-209”と同じ領域で惑星程度の質量の天体まで調査することが可能になります。

また、2030年代に観測が開始される口径30メートルの次世代超大型光学赤外線望遠鏡“TMT”では、天の川銀河だけでなく、近傍銀河にある星団の初期質量関数も調査できるようになるはずです。

これらを用いて様々な環境下での初期質量関数を調査することで、銀河系全体の進化を分かりやすくイメージ化することが期待されています。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿