「シズコさん」ほか

2008-12-06 18:00:04 | Weblog
佐野洋子の本を三冊…「シズコさん」、「役に立たない日々」、「神も仏もありませぬ」…並行して読了。多少の時間差はあるものの、いずれも著者60代での出来事のあれこれを綴ったものです。実母の痴呆~最後を看取るまで、自分の病気、北軽井沢での日々や韓流に填まる日々…等々が、読者を意識していないのではないかと錯覚されるまでに率直に語られています。特に圧巻なのが「シズコさん」。菊地寛「父帰る」の、佐野洋子と母・シズコさんバージョンとでも申しますか。シズコさんは出奔や駈け落ちなど特別に何かをしたわけではなく、夫を亡くしてから女手一つで子供たちを大学にやり晩年を施設で過ごしていただけですが、施設に暮らす母との交流や己の病気・老いを見つめる中で佐野洋子が長年抱き続けてきた母へのわだかまりが解けていく様は、読む側に色々な思いを運んできます。特に姉妹ではなく兄弟がいる中での長女に生まれ育った人は、彼女ほどではなくても似たような経験や思いを少なからずしてきているでしょうから、身につまされる場面もあるかもしれ
ません。私自身、この感覚はわかるなぁと思う箇所がいくつもありましたもの。しかし、同時に「物書きの業」のようなものを感じないわけにもいきませんでした。『【100万回生きたねこ】の佐野洋子の親族』ではなく『【シズコさん】の佐野洋子の親族』であることは、読者が想像する以上に重いかもしれません。「な~んもできない」ばかりではなく交通事故のどさくさに紛れて姑を追い出した弟の妻とか、経済的なことは姉に任せきりで「母に優しくない姉をあちこちで吹聴する」妹とか、事実関係はどうあれ、本の形で一方的に公開されては不本意なこともあるでしょう。それでも尚、書く・書かれるのは、親族であるだけに殊更に辛いのではないか、と、それこそ余計なお世話である感想をもってしまいました。
ところで、この三冊は先月末に読んだ「ぼくは猟師になった」と一緒に購入しました。注文の時点では意識していなかったのですが、読み終えてみると、ぼくは~は男性向け、佐野洋子の三冊は女性向けの気がしないではありません。と言うより、佐野洋子のこの三冊に関しては、読み終えて共感・共鳴できる男性は女性よりも少ないのではないかしら。逆に、ぼくは~を読んで刺激を受ける女性も決して多くはないと思うのですが、これは偏った見方でしょうかね。