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ベテラン記者が語る 予見された香港の危機

2020-09-16 07:00:00 | 報道/ニュース

8月27日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」


香港では
6月に国家安全維持法が施工され
民主派の活動の締め付けがいっそう強まっている。
こうした事態を早くから予見してきたジャーナリストがいる。
李怡(りい)さん(84)。
60年以上にわたって香港を分析してきた李さんは
香港の今をどう見ているのか。

香港国家安全維持法が施行されて2か月。
民主派の活動家や新聞の創業者が次々と逮捕されるなど
新たな法律による取り締まりが行われている。
(周庭氏)
「国家安全維持法は
 まさに政治的な弾圧をするためのものではないか。」
この法律が適用され逮捕されたのは21人。
警察は
それぞれ外国勢力と結託して国家に危害を加えたり
国歌の分裂を主張したりした疑いがあるなどとしている。
この法律を痛烈に批判してきた李怡さん(84)。
香港情勢を長年分析し
今も新聞に連載を持つジャーナリストである。
6月末に施行された法律の問題点は
「どんな行為が罪とされるのか明確ではないことだ」と指摘する。
(ジャーナリスト 李怡さん)
「法治社会を信じられるのは法律がもとになっているからです。
 しかし中国のような社会では
 “あいつを捕まえろ”という権力者の思い付きが実行されてしまうため
 予測できません。」
李さんは1936年中国南部広州で生まれ
12歳の時 家族とともに香港に移り住んだ。
当時 周囲には共産党へのあこがれがあったという。
(李怡さん)
「理想がありました。
 皆 社会主義は国を救うと信じていました。」
1970年 33才で雑誌を創刊し
香港を統治していたイギリスなど西側社会の政治思想を批判。
雑誌は中国国内でも人気を集めた。
しかし9年後 中国の官僚の仕事ぶりを批判した記事をきっかけに
中国への持ち込みが禁じられてしまった。
自由にものが言えないことに対して疑問を抱くようになった李さん。
個人の自由を重んじる自由主義の社会と
国家が優先される中国とは
埋められない価値観の差があると強く感じるようになったのである。
(李怡さん)
「多様な意見を受け入れることは
 彼らにとって容認できることではありませんでした。
 中国では個人の自由と権利は国家の利益を侵害できないとされています。
 しかし自由主義の社会では
 国家権力の側が個人の利益を損なうことはできないと考えられているのです。」
そして迎えた1997年
香港の中国への返還。
李さんは当時 その後の香港に危機が訪れると予見した。
前年に発表した本の中では次のように指摘している。
返還の後は
完全に共産党の言いなりの愛国者を主体とする香港人が
この地を治めることになる
「一国二制度」が実現され保障されるかは共産党しだいだ
香港人が発言できるとしても
その余地は0,5%くらいだろう
去年6月以降 大規模なデモに揺れた香港。
李さんが20年ほど前に懸念した危機は現実のものとなり
香港政府による民主化運動への締め付けはこれまでになく強まった。
一方で李さんは
これに抵抗する若者たちの姿に大きな衝撃を受けたという。
(李怡さん)
「抗争は無意味で
 強権と闘うなんてあり得ないことです。
 若者たちが立法会に突入するなんて予想外でした。」
その驚きを今年5月に出版した本に綴った李さん。
逮捕やけがも恐れず権力に対抗しようという若者たちには
自分たちの世代にはなかった
“自由を守りたい”という強い意識があると分析している。
自由と法治はイギリス統治がもたらしたものだ
香港人が勝ち取る必要もない空気のように自然な存在で
誰も貴重なものだとは認識していなかった
しかし今
香港はすでに権威主義の手の中にある
不幸にもこの時代に生まれた香港人には
闘うことしか選択肢はないのだ
これはこの時代の宿命なのだ
(李怡さん)
「もし自分たちが頑張らなければ次の世代はどうなるのか。
 世界はもっと悲惨になるのか。
 彼らは将来に対する責任感を持っているのです。」
しかし一時100万人以上が参加した抗議活動は
今 数人が集まっただけで取り締まりの対象となる。
さらに民主派がデモと同じく抗議の手段として望みをかけていた立法会選挙は
新型コロナウィルスの感染拡大防止を口実に1年間の延期となった。
(香港 林鄭月娥行政長官)
「選挙の延期は市民の安全を守るためだ。」
抑え込まれる若者たちの声。
しかし人々の心の中に反発の気持ちが消えたわけではないと
李さんは強調する。
それなれば抗議活動の出口はあるのか?
(李怡さん)
「私にも出口は見えません。
 それでも香港人の犯行の意思を世界に知らせる必要があるのです。」
この先の香港にどんな変化が待ち受けているのか。
李さんは若者たちとともに
その行く末を見届けるつもりである。



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