8月28日 読売新聞「編集手帳」
米ミュージカル映画『七人の愚連隊』は、
大物歌手フランク・シナトラが主演した名作である。
だが映画通として知られたイラストレーター、
和田誠さんが著書に書き留めたのは別の出演者の歌声だった。
刑事コロンボ役で有名なピーター・フォークがギャングの親分に扮して歌っていたという。
その歌の題は
「オール・フォー・ワン アンド ワン・フォー・オール
(全員は一人のために。
一人は全員のために)」
むろんジョークである。
このフレーズがギャングの団結に使われておかしみを覚えるのは、
本家本元であるラグビーの精神の輝きがあってのことだろう。
日本ラグビー協会が感染リスクを考慮し、
日本代表の年内の活動を休止する方針を固めた。
しかたないのだろうなと思いつつ、
昨秋の感動的なワールドカップ(W杯)を振り返ると、
少しさみしくなる。
W杯はスクラムで勝利をたぐり寄せた試合があった。
8人が体を“密”にし相手をぐいぐい押し込む場面を思い出すと、
こうも人との接触に気を使わねばならない今が信じ難くなる。
密に数字をくっつけて呼ぶのは辟易(へきえき)だけど、
“8密”はいい。