10月22日 経済フロントライン
フレンチの高級食材として知られる“ジビエ”。
シカやイノシシといった狩猟で得た野生動物の肉である。
個性的な味に加えヘルシーさや栄養価も高いと
このところ若い世代を中心に人気である。
しかし平成26年度の農作物被害額191億円のうち
実に6割をシカとイノシシが占めている。
捕獲されそのほとんどが廃棄されているが
その肉が企業にとってうまく流通すればビジネスチャンスになり
地域にとっては農業被害の軽減だけでなく
一定の収入にもなりうる。
そして消費者にはジビエとして提供される。
一石三鳥となるのか。
福岡に本社を構える大手スーパー マックスバリュ九州。
精肉売り場にはこれまで並ぶことのなかったイノシシ肉。
今年3月から販売を始め
扱う店を19店舗にまで増やしている。
(来店客)
「イノシシて売ってないでしょ あんまり。」
「スライスしてあると買いやすいですね。」
売れ筋は「イノシシ肉肩ロース」100g 490円。
豚肉の3倍ほどの値段だが売れ行きは好調である。
(マックスバリュ九州 畜産部長 田口雄樹さん)
「スーパーマーケットに並ぶのは初めての取り組みだと思うので
そういう意味では一般の消費者が手に取りやすくなった。」
スーパーで常時販売できるようになったのは
専用の食肉処理施設が各地に整備されたからである。
野生動物な寄生虫は病気を持っていることもあるため
牛や豚などとは違う専用の施設が必要になる。
施設の増加で安全性を確保した肉が提供できるようになったのである。
(検査員)
「作業するときに必ず何度以下にしようとか決めごとはありますか。」
(食肉処理施設 所長)
「基本的には20度以下になっているように。」
食肉を安定して出荷することもできるようになった。
ハンターから不定期に持ち込まれる肉を冷凍保存し
需要に応じて供給している。
こうした専用施設は全国で500か所以上と急速に増えている。
(食肉処理施設の運営会社 高田健吾さん)
「この施設はイノシシを有効活用するというのが目的です。
九州全土のみならず日本中で今どんどん増えてきています。」
マックスバリュ九州ではさらに売り上げを伸ばそうと加工品の開発にも取り組んでいる。
いま試作しているのはイノシシ肉のソーセージである。
ジビエの調理の仕方がわからない人にも売れる商品を開発しようという狙いである。
このプロジェクトには大手商社も加わっている。
ジビエの流通を全国に拡大し新たなビジネスを生み出そうとしている。
(大手総合商社 担当者)
「市場的にはまだ限られた人しか食べていないような状況なので
もっと食べやすいようになってくればさらに伸びていくと思います。
11月8日 編集手帳
作家の半藤一利さんは形容している。
〈火のついたカンナ屑(くず)のようでもあった〉(ちくま文庫『隅田川の向う側』)。
東京大空襲の、
なめ尽くすように人を襲った炎である。
【かんなくずへ火が付いたよう】は辞書にも載っている。
〈ぺらぺらとしゃべりまくるさまにいう語〉(『日本国語大辞典』)。
半藤さんの形容と同じく、
瞬く間に燃え広がる火勢から生まれた慣用表現だろう。
人は昔から木くずを見ればまず火を思い、
用心してきたはずである。
痛ましい事故というほかはない。
東京・明治神宮外苑でイベントの展示物が炎上し、
5歳の男の子が死亡した。
「なかに子供がいる!」。
そう叫び、
助けようとした父親も顔にやけどを負っている。
間近に照らす投光器の白熱電球から伝わった熱で、
骨組みを装飾する木くずが燃え上がったらしい。
運営者でも、
制作者でも、
誰か一人でいい。
「これは危ないぞ」と気づかなかったか。
関東大震災を詠んだ窪田空穂(うつぼ)の歌が脳裏をよぎる。
〈梁(はり)の下になれる娘の火中(ほなか)より助け呼ぶこゑを後(のち)も聞く親〉。
父親の耳に、
わが子の声が消える日は来るまい。
胸がふさがる。