1月10日付 読売新聞編集手帳
新橋、京橋、数寄屋橋…「橋」といっても、
川や掘割はない。
東京では多くが戦後の高度成長期に埋め立てられ、
姿を消した。
「大正というのは、東京にまだ水があった時代ですね」。
30年ほど前に発行された『大正および大正人』という雑誌の座談会で、
挿絵画家の風間完さん(大正8年生まれ)が語っている。
明治と昭和が激動の大河であるならば、
モダンで伸びやかな“大正浪漫”には、
街の灯を映す東京の川を思わせるところがある。
明治から大正に年号が改まったのは1912年の7月30日、
今年は改元から満100年を迎える。
大正に生まれ合わせた子供は不幸だと思う――と、
国文学者の池田弥三郎さん(大正3年生まれ)が同じ座談会で述べていた。
「スペイン風邪に関東大震災、
やがて兵隊にとられて…」。
日本が敗戦の焦土から見事に立ち上がったのは、
震災をはじめとする数々の苦難を肌で知る世代が、
一家の父として母として奮闘してくれたおかげだろう。
大正生まれの100歳も誕生する。
喜びと悲しみをこもごも映した川の流れを知る人たちに、
教えていただきたいことはたくさんある。