HOBNOBlog

ロンドンから徒然に

Boyhood

2014-07-16 | 映画・演劇
 スガ シカオ氏がインディーズとして「Re :you」や「Festival」などを配信リリースする一方で、「アイタイ」はメジャーからCDリリースした時に、あぁこうやって垣根を越えた活動ってあるよな、と感心しました。
 その後完全にまたメジャー復帰しましたが、あのインディーズの頃に培った経験を活かして、自分のやりたい音楽を曲げずに追究して欲しいものです。かたやでメジャーであることのメリットも熟知しているわけですから、倍の力を備えたことになりますよね。今後に期待しています。

 ところで、映画界に目を向けて見ると、インディーズとハリウッドを股にかけて自在に力を発揮している監督がいます。
 リチャード・リンクレイター。僕の大好きな「Before~」3部作(Before Sunrise、Before Sunset、Before Midnight)の監督でもあり、ジャック・ブラックを起用してハチャメチャなロックコメディ「スクール・オブ・ロック」を撮った監督でもあります。

 その彼の最新作が「Boyhood」。
 もっとも、以前も書きましたが、僕は映画を観る際に予備知識なしに行くことにしているもので、事前には監督名はおろか映画の大まかな内容さえ知らなかったんです。ポスターとタイトルを眺めて(そう、これもコピーをじっくり読むと内容を知ることになるので「眺める」だけ)、よくある少年映画だと思い、他の映画は殆ど見ていたのでSFよりはいいかと思い選んだ次第です。



 ところがこれが大当たり!今のところ個人的には今年のナンバーワンです。
 どこがいいか?ううん、格別ドラマティックな出来事が起こるわけではないし、感情を大げさに表現して泣かせるわけでもないし、だからてっとり早く“感動”が欲しい人にはお薦めできるか分かりませんが、じわじわと各場面が沁みてきて、気が付くと体中に行き渡り、見終わってからも抜けません。そんな感じです。

 6歳の少年が、ある日家の壁をペンキで塗ります。そこにあるのはこの家で刻んだ自分の身長。両親の離婚のために家を離れることになり、そのための整理なのです。その傷と共に自分のこの家での思い出も消してしまい、新しい家や学校での生活が始まることになります。
 こんな小さな、でも印象に残るディテールが少年の成長に連れて淡々と描き出されます。そして驚いたことに18歳まで続く12年間をひとりの俳優(おそらく6歳を演じる頃には演技経験さえなかったのではないかと思われる)がずっと演じるのです。つまり本当に主人公の少年の成長に沿って12年間フィルムを回し続けたことになります。

 その繊細な成長期間ですから、当然ちょっと逸れた道を歩きたがったり(お酒やマリファナ、ピアスなんかもね)、恋に悩んだりもするわけですが、こういったシーンも過剰にあざとい“青春物語”になっていないところが、より説得力を持ちます。
 もう途中からは、この少年が愛おしくなって、次にどういう変化を見せるか楽しみになってきます。

 少年の「成長」は、周りのおとな(これもまた12年間、同一人物が演じます)にとっては老いに向けて歳を重ねることになり、母親(パトリシア・アークエット)と父親(イーサン・ホーク)にとっての12年間の物語ともなります。
 その間にアメリカの社会情勢もさりげなく織り込まれ、FacebookやiPhoneやバラク・オバマの登場が、あぁこの間の話だったなぁと改めて思い起こされます。

 終演後に階段で、見知らぬ年老いた女性から「良かったわよねぇ。今でも身体が震えるくらい感動しているわ」と話しかけられました。そう、誰にとっても(年齢も性別も関係なく)あの少年時代は共有できる物語なのかもしれません。
 続編を見たいというのは欲張りですか?1本に12年かかるとすると、“Before~”シリーズみたいに3部作完結までにはあと24年 !

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。