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ロンドンから徒然に

Amy

2015-07-09 | 映画・演劇
映画の冒頭は友人のバースデイ・パーティー。“Happy Birthday!”を歌うその少女の非凡さは、画質の悪いビデオの中でさえ光っています。
この時まだ14歳の彼女が、この後それまでと同じ長さの年月さえ全うすることが出来ずに、27歳の若さで亡くなってしまうことを既に知っている客席の僕らは、その生をせめて自分の心の中で永遠のものに留めておきたいと強く願いながら、場内が明るくなるまでの2時間を過ごしました。

最近のドキュメンタリー映画の中では2010年の《Senna》が最高だと思っていましたが、同じ監督によるこの映画《Amy》はそれに勝るとも劣らない素晴らしい作品に仕上がっています。



僕がロンドンで暮らし始めた2007年の冬。そこからの数年間というもの、毎日エイミー・ワインハウスの話題に触れずに過ごす日がないほど、彼女は誰からも注目を集めていました。
その人気がイギリス国内だけでなく、世界的なものだということを証明したのが2008年の第50回グラミー賞。 最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞(つまり“主要4部門”と言われる賞のうち3つ)に加えて最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞の2つ、合計5部門を受賞し、間違いなくこの夜の主役でした。

ところが、エイミーはこの夜LAの会場にはおらず、“You know I’m No Good”と“Rehab”の2曲のパフォーマンスはロンドンからの衛星中継によるものでした。何故ならばアメリカ当局が当初彼女のドラッグ中毒のせいで労働ビザを拒み、土壇場で撤回したものの、もう渡米するには間に合わなかったからなんです。

これがまたある意味彼女のその後の悲惨な生活を象徴する出来事とも言えます。“皆の注目”というのは一方で音楽とは関係なく、トラブルメーカーとしての彼女のスキャンダルが一人歩きしたことでもあります。
もちろん映画はこういった事実も容赦なく描いていきますが(ベオグラードのステージで、歌えないエイミーを見るのは辛かった)、その裏にある彼女の音楽に対するひたむきさ、純粋さをきちんと添えていて、そこに溢れる愛情を感じます。

映像はオフィシャルなものから、家庭用ビデオ、スマホによる撮影まで様々に及び、画質など関係なく心に迫ってくるのは《Senna》の時と同様ですが、今まで見たことのない彼女の素顔のみならず未発表の楽曲までたくさんあったのには驚きました。
特にそれが彼女の自筆と思われる詩と共に流されると、思わず胸が締め付けられる気がします。

それにしても、画面の中からこちらを見るエイミーの目のなんと綺麗なこと。まるで赤ん坊のような透明さ。このピュアな存在を守ってあげられる人が周りにいなかったのが本当に残念。

ふと映画の帰り際一緒になった観客を見渡すと、腕や背中にタットゥーが一杯の女の子、上半身裸の若い男、かっちりしたスーツ姿の男性、かなり年配と思われる白髪の女性……あぁやっぱり皆に愛されていたんだなぁ。

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