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ロンドンから徒然に

ブルース!~ ブラック・スネーク・モーン

2007-09-08 | 映画・演劇
 デルタ・ブルースと呼ばれるジャンルがあります。ミシシッピ州の綿花栽培地帯であるデルタ地方で生まれたブルースで、アコースティック・ギターをリズミカルに弾き、スライド奏法を多用、感情を激しく表現するブルースです。
 サン・ハウスはその中でも伝説と呼ばれるブルース・マン。酒場で演奏中に客から暴行を受け、その客を逆に射殺してしまい服役したり、行方知れずになっていたのに、60年代のブルース・ブームでその価値を見直されて新たにレコーディングしたり(この時の録音は今でも聴くことができます)で、その伝説をさらに彩っています。

 そのサン・ハウスの古い白黒のライヴ映像が映し出され、「ブルースは男女のもつれから生まれる」と語ります。そうして始まった『ブラック・スネーク・モーン』。全編にブルースが流れ、感情の波を揺さぶります。
 いつも映画を観に行く時は、ストーリーはもとより、あまり前知識を入れずに先入観なく観ようと努めています。で、今日映画館にかかったポスターを見てみたら、跪く半裸のクリスティーナ・リッチの腰に重たい鎖を巻きつけて、その端を手に持つサミュエル・L・ジャクソンの姿。あれっ、これってちょっとやばそうな映画なのかな、と心配半分・期待半分(笑)で観ました。

 サン・ハウスが言うように「ブルースは男女のもつれ」なら、この主人公ふたりの物語は十分にブルースでしょう。妻を自分の実の弟に寝取られた元ブルース・マン。幼い頃の性的虐待がトラウマとなってセックス依存症になり、愛する男がいるにも拘わらず町中の男に身体を許してしまう女。前半はとにかく感情的な“痛さ”が突き刺ささります。そのバックに流れるブルースも痛い!
 
 ここまで読むと、暗い映画、あるいは変に性的な映画と思われるかもしれませんが、全体的にはヒューマンな暖かさに包まれた映画です。むしろ僕なんか偏屈なので(笑)そこが物足りないと思うくらいですが。

 それと、観終わると、あまり馴染みのない人もブルースを聴いてみようかと思うかもしれませんね。
 ちなみに、映画の制作者がサミュエル・L・ジャクソンに歌とギターはできるかと質問した時に、彼はこう答えたそうです。「ブルースというものは、心を込めさえすれば誰でも歌えるもんさ」