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ロンドンから徒然に

超能力? ~ 宮部みゆき 『楽園』

2007-09-02 | 文学
 笑われるかもしれませんが、実は僕、子供の頃に“超能力”がありました。ちょっと未来が見えてしまうのです。といっても、それによって世の中が変わってしまうほどの大きな出来事が予測できるわけではありません。いや、もしかしたら感じたことの中にそんなこともあったかもしれませんが、何しろ子供ですから理解できなかったのかもしれません。
 “見える”のはもっぱら自分に関心のある身の周りのことだけで、それによって実際にささやかなアドバンテージも悲しいことも経験してもいます。具体的な例を今書くのはプライベートにも関わるので止めておきますが。

 ここまで読んで冗談と思ったでしょ?でも、違うんです。本当にそうとしか説明しようのないことを何度も経験しているのです。でも、それはあくまで子供の頃にそう思ったことなので、やっぱり超能力なわけがないし、いつか何らかの説明ができるに違いないと思っているうちにおとなになってしまいました。
 だから、宮部みゆきの新刊 『楽園』の上巻を読み終えた時は、..........あ、これから先はまだ読んでいない人は先入観持つとまずいので止めておいて下さい。ストーリーにもちょっと関連するかもしれないし..........男の子の予知能力(結局、どちらかというと人の心が見えるという能力でしたが)がどう説明あるいは種明かしされるのか、すごい期待を持って下巻に入り、一日で読み終えてしまいました。

 ところが、この能力は認めた上で、話は進んでしまうのですね。それはそれとしても、9年前のあの事件の絵も、誰の記憶だったのか(通りすがりの事件関連者でしたっけ?)結局あまり納得の行く説明ではないままに終わり、他の事件にしても、何だか大きく広げた謎の割には結論は途中から予想できる範囲の中で片付いてしまいました。子殺しも、自分の家に死体を埋めた事件も、実際にあった事件ですがそう新しいモチーフとも感じません。
 ということで、『理由』だとか『模倣犯』を読んだ時に感じた、その時の世相にリアルタイムで深く切り込んだような驚きのある凄みはなかったです。もしかしたら、新聞に連載されたものだとのことなので、その時間差が災いしているのかもしれませんが。

 とはいえ宮部みゆき、面白くないわけがありません。語り口もテンポも軽妙なので、ついつい次が気になって一気に読み進んでしまいます。中心になる両家族を描いた章などは圧巻です。もしかしたら、犯罪などのモチーフより何より、この“家族”をテーマとしてしっかり書きたかったのかもしれませんね。
 僕の書いたのも決して悪口ではなく、期待するところが大きすぎるゆえの愚痴ですから(笑)。今後も面白いものを書き続けて下さい。