植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

今回届いた印泥と印材を検証(前編)

2022年03月13日 | 篆刻
 印泥の世界シェアは恐らく90%以上が中国であります。主要なメーカーは大体4社あります。最もよく見かけるのは「上海西泠印社 」「西泠印社( 杭州 )」「潜泉印泥(上海)」「石泉印泥」あたりですが、さらに「漳州(しょうしゅう福建省 )八宝印泥 」が加わります。他に「北京一得閣」「蘇州姜思序堂 」などの印泥が出回っておりますが、漳州八宝印泥以外は、新製品が出ていない所を見ると店じまいしたか、とてもマイナーで日本ではほとんど知られていません。

 これ以外には「(北京)榮宝斎」が別格としてあります。今でも北京の一等地にある老舗の書道美術品店の榮宝斎の印泥は、最も良質でブランド価値もあって数十年前は驚くほどの値段で売買されていたようです。偽物・粗悪品もずいぶん出回っていると専門家の説明もありました。しかし、近年になるに従って製法変化や素材の入手難などで、今はさほど高価なものが扱われているわけでもないようです。ワタシは、その栄寶斎印泥は3個収蔵いたしております。ここだけの話、昨夜ヤフオクで見かけ、3100円で落札しました。4個のどれも、本物か偽物か、あるいは垂涎ものの逸品かどうかは全くわかりません。

 印泥は、およそ印泥会社別個で等級を決めています。それによって価格も1両装(30g)あたり千円位から数万円と差が生じます。等級の区別は成分とそれによって生じる色合い、秘中の秘といわれる製造法、一流の印泥職人(大師)監修・製造か、そして印合(容器)の質等で決められるのです。
 
 実際は、同じ印泥廠からの品でも、時代によってその品質には大きくバラツキがあります。中国の多くの会社は共産党による建国の後、文化大革命によって伝統品が一気に劣化し、国有企業化され品質を落とした様です。北京一得閣もそれまでの個人事業だったのが「北京製墨廠」 と名を変え、その後民営化一得閣の屋号を使ったものの中身はまるで変ってしまったのです。石泉印泥廠は、もっと以前から良品を出していましたが、内紛・お家騒動が続いて様々なのれん分けや、社名変更が行われ判然と致しません。
  
 そんな中、著名な篆刻家・書道家さんで組織された学術団体(呉昌碩 を中心)で良質な印泥を再現するようになったのが「西泠印社」です。そこから枝分かれし呉隱さんが起こしたのが「( 呉氏)潜泉印泥 」、さらにその中心的人物が(三代目)李耘萍女史 です。彼女は元は上海石泉印泥廠長で、が最高品質の印泥を発明し、いまでは印泥製造の第一人者で、3年前に亡くなった篆刻界の重鎮高式熊さんと組んだ高級印泥を世に出し、李耘萍印泥の会社を起こしました。耘萍ブランドは、潜泉・石泉・耘萍・高式熊という4つの印泥に冠されるようになっています。

 ワタシは40個ほどの中古・時代物の高級印泥のコレクションがあります。いったいどの印泥が一番いいか、どれが最高なのか、これを判定するのはほぼ不可能です。前述の北京榮寶斎の、最高級で品質が最上であった時代のものでもない限り、骨董品として高価なものはありません。(ただし「粉彩」と言われるような骨董価値がある容器=印合は別です)

このたび新たにヤフオクで落札した印泥2個、印材6個計16千円の品が届きました。前々回のブログ値打ちものが、安い中できらりと光る  - 植物園「 槐松亭 」に予告(笑)しました。篆刻・印泥研究家(自称)としてこれらの品々がなかなか興味深い(想像とはだいぶ違う)ものだったのです。

5個の印材は、パリン石と見ました。それぞれに紐が彫られ、印箱もついていますのでまぁ1個千円前後でしょう。まず見慣れないのが下の赤茶色のケースに収められた「紅芙蓉石」です。
普通印箱は蓋と一体で紙の箱に布を張り合わせたもので、小さいものなら2,3百円、上質な麻布なら千円前後、革張りならば千円以上いたします。こちらの箱は、なんと下箱に中蓋を被せ、サイドから上蓋を横に差し込む体裁になっています。かっちりとして手の込んだ印箱です。こんなのは初めて見ました。

 石は非常に奇麗に磨かれた良材で、恐らくは、中に入っていた紙片に書かれた「紅芙蓉石」と思われます。1.5㎝角ながら10㎝の長さも珍しく、紐は鹿ににせた珍獣でしょうか。とても美しく珍しい意匠の細工であります。箱にも石にも痛みや傷が無く、未刻で決して古い文物ではありませんが、なかなかの値段で売られていたものであろうと思われます。例えば、中国の観光地や大都市の老舗書道店の鍵付きのショーケースで展示販売されるような類です。「これに刻印を依頼すると4,5万円かかります」みたいな。

さて肝心の印泥ですが、予定の稿を越えたので続きは明日といたしましょう

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