植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

1万円でも「田黄」は入手できるかも

2022年10月16日 | 篆刻
山内秀夫さん著の「石印材」という専門書を読むと、「田黄、鶏血石は優秀であるが割合に多く、金さえあれば比較的容易に入手できる」という記述がありました。その通り、湯水のように使えるほどの金があれば貴重な印材に限らず、ほとんどの物がコレクションできる、というのが道理であります。田黄石のお話は次のブログなど、数回にわたって書きました。1万円では田黄石は手に入らない 20万円出しても入手できるとは限らない - 植物園「 槐松亭 」

しかし、潤沢な資金でそれに見合った価値の逸品を集めても「お札が品物へ」と移動したに過ぎないと言えます。1万円札を支払って田中金属に行って純金を買うのはコレクションや蒐集とは言いません。

年金暮らしの収集家にとって、その金を惜しむあまり安物贋作に引っかかって、小銭を失うというのが関の山。ヤフオクなどに熱中し石集めをするのもたいがいにせねば、というのが常識的な人間の考える事でありましょう。

それでも、確率的・経験的に安物・駄石の中にも素敵で美しい石・価値がある石も紛れていることがあるのを実感しております。ワタシの数百回に及ぶ印材の落札でいえば、だいたい2勝1敗1引き分けペース、4回に一度くらいはほぼ無価値の「ハズレ」でムダ金になるものの、落札したうち2回に1回は儲けもの、存外の値打ちものであったというのがヤフオクから足抜けが出来ない理由であります。目立たない無数の品物の中から自分が「これは!?」と気づいてお宝を見つけ安値でこっそり落札する、これが醍醐味であり健全な射幸心と言うものであります。

例えば、これ。人造石か安物の石を使った細工物。しばらく落札出来なかったので何の気なしに3,000円で落札したものですが、子供のおもちゃにもならないガラクタ、300円でも買いません(笑)。たまにこんな「イージーミス」をいたします。


以前このブログでも触れている通り「一万円では田黄は手に入らぬ」というのがセオリー・鉄則で、今まで「当り」つまり本物の田黄石を引いたことは皆無に近いのです。で、そのタブーを破って「唐物 寿山石 細密加工」などと説明のあった未刻印を1万円(笑)で落札しました。「田黄石」という表示も無く、縦横3㎝足らずの小さな石で、他に誰も入札がなかったので、最低価格のまま落札できたのです。

田黄石は印材の王様で、真正品の古い石は軽く数十万円いたします。飴色・琥珀色の温潤で透明度と純度が高いものは古来から賞玩されてきた宝であります。しかし、その分、田黄石に外観が似た別種石・他地域からの産でも「新田黄」などと言ってその何倍も存在し流通しています。人造石すら田黄として平気で売られているそうです(なにせ偽物王国中国ですから)。
現物がこちらになります。1mも離れると、ただの小さな茶色の石ころにしか見えません。


特徴は、田黄に似た色調ながら、透明度が低く2色(黄土色・赤味を帯びた茶色)混色である。上物の田黄石に比べて凹凸が多い、最大長2.7㎝重さ18gと小品ながら、細密な薄意が丁寧に全面に施されている、といったところでありました。

もし田黄石ではない似た石、例えば高山凍・連江黄・鹿目格・坑頭黄などであったとしてもそれはそれで産出量は限られていて、十分な値打ちものです。自然石のままの形を残した(丸く削ると重量が減る)、薄意(石の形や色に合わせて彫るレリーフ)は熟練した専門の職人の手になるもので相当な根気と時間を要している、自然石であるといったことは確かであります。

入手が容易な駄石・切り出した岩塊ならば、立派に見せ、高く売るために大きく数百グラムほどにカットして細工するでしょう。雑で安い品物は正面だけ薄意を彫り裏側は手つかずと言うのがざらです。この石は、石の原型を極力損なわないよう底の印面も狭く、不整形なままに止めてあります。貴重・希少な石だからこそ、1gも無駄にせず、丁寧に磨き微細なデザインの薄意を彫ったはずなのです。大きさのわりにしっかりとした重みがあり、篆刻に適した硬さと粘りがあるものでないと美しい艶や細密な彫は成り立ちません。

ワタシの想像ですが、田黄を生んだ寿山郷の田黄坂やその近在の山土や川の中にあった田黄に近い小片であったと考えます。恐らく出土して100年前後と言うところでしょう。田黄探しをしていた多くの農民や採掘者たちの一人が見つけたが、田黄としては小さく、またわずかに雑味のあるもので、中程度の等級であったのかもしれません。その原石が、いかほどの値段で取引されたかは知る由もありませんが、少なくとも表面の皮や傷を除き磨き、薄意を施すという過程で数倍の価値・価格になっていったでしょう。ともあれ、ワタシが所有する黄色・茶色系の古材のうち、紛れもなく最も田黄石に近い石であると認定して良さそうであります。

田黄石は、金の目方と同じに取引された、といわれます。希少な印材の原石ならば、その大きさや重量で値段が定まった、と考えるべきでしょう。すると、小粒ならば1万円でも田黄が入手できる、という理屈になります。山内先生の言うように、世に広く流通した田黄石ならばワタシの財力でもなんとかなる、という風に考えたいと思います(笑)。

ついでに、同じ出品者さんからの「印材まとめて」というのを5千円で落札しました。(同梱によって、送料を節約できます)同じ出品者で同じ入札期限の出品は前所有者も同じというパターンが多いのです。上の田黄ぽい「寿山石」が同じ目利きのの方の所有物ならば、良品を所蔵していたに違いない、というのがワタシの読みであります。
これは、その落札した品の一部で、さほど石そのものは値打ちのある銘石ではなく、昌化石やパリン石と思われますが、なかなか美しい印材でありました。また、古代文字・甲骨文字を使った篆刻の腕も確かで「塩見」という方の名前が読めました。結論から言えば、今回は「勝ち」の部類であったと思います。

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