植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

超一級品の筆 腕が追い付くわけがない

2020年11月04日 | 書道
 昨日、少し書道用紙の調達を目論んでヤフオク入札をいたしました。ここ半年ばかり作品作りの練習で条幅用の半切を使いました。一日5、6枚平均を書いては、破りして、恐らく千枚近く費消したのではないかと思います。半紙もコンスタントに書いていますから、定期的に補充しないと書き易い紙が少なくなっていくのです。

 数日前から箱入り(千枚)の比較的新しい出物がまとまって出品されていたので5件ばかり入札しました。結果は「半切の使いかけ まとめて」が9千円ほどで落札出来ました。
 半切は通常一反100枚で、ちゃんとしたものなら安くても5千円、高価な手漉き半切だと1万円以上いたします。使いかけが8束ですから、半分残っているとして4反、1反8千円とすれば、3反がただという、得をしたような気分であります(あくまで実際に見てみなければわかりませんが)

 残りの「半紙まとめて」はすべて他の人が落札、しかもそのうち3件は同一人物でした。ちょっと調べてみたらその1週間ほど前の大量の半紙にも同じ人が落札していて、通算少なくとも27箱(27千枚)を落札していました。その方の評価ポイントは1300くらいで、相当なヤフオクの常連なのは間違いありません。

 想像するに、この人物は、状態のいい箱入りの半紙(特に手漉き)を大量に収集し、転売しているのではなかろうかと思います。書道教室などを経営しているのかもしれませんが、少なくとも自分の習字用に調達しているとは思えません。
 何故なら、箱に入った中古の完品専門にしているようなのです。また、その入札の仕方が専門的なんですな。入札最終期限の数分前から入札を始めます。小刻みに金額を入れ、最高価格を上回るまでの期限の延長を繰り返します。延々とそれを落札できるまでしつこく繰り返しているようです。

 わたしには到底そんなまねは出来ません。夜10時過ぎてまで付き合いきれないのもあります。眠くてかなわない。なにがなんでも欲しいわけではなく、お金に糸目をつけることも致しません。そして、そんなに欲しいならどうぞお譲りしましょうと思ってしまうのです。

 その方は生活が懸かっているのかは存じません。それなりに魅力的な中古の品物がいくつか出品されたときに「総どり」しようという料簡が、ワタシにしたら、どうも浅ましく強欲に見え、同じ品物に入札し競うのすら嫌な気持ちにさせられるのです。やっかみ半分悔しさ半分でありますが(笑)。
 いずれオークションは、欲の突っ張り合い、ルールさえ守れば、どんな人がどんな目的で何を落札しようがいくら払おうが大きなお世話であります。

 そのうち、また良さそうな半紙が出るでしょう。また、一方で書道専門店からお試しセットを取り寄せ、実際に書いて選んで定価で買うという王道をとってもいますから。しばらく、ヤフオクから半紙・書道具は様子を見たいと思います。まだたくさん半紙は残っています。そして性懲りもなく中古の高級筆5本を12千円で落札したからでもあります。
 
 このブログでも、筆の銘名と戒名は似たようなものだ、と書きました。高級・高価で、書き易く入手が困難な希少羊毛であればあるほど筆管に刻まれた字数が多く、それらしい表現になります。羊毛筆(実際は山羊)の喉元などの長くて細い筆が珍重されます、その最高峰が「細嫩頂光筆(さいどんちょうこうひつ)」であります。今回目を付けたのが5本の中の一つ、この筆だったのです。



 古い斑竹に「極品 細嫩頂光長々鋒 浄純羊毫」と書かれておりました。これは、命名筆(シリーズで売られている販売用筆)ではなくて特別に一点物で作られた証でもあります。おそらく50年位前の筆かとも思われます。穂先が平たく揃った羊毛筆は日本が発祥で、これが発明されたのは昭和中期であったと記憶しています。

 日本語に訳すと(笑)、細嫩頂光は、山羊の毛の中でも最も高級で繊細な毛を使っていること、その中で特に厳選した、きれいな毛だけをふんだんに使った「極品」つまり極上品、しかも上級者が使う長鋒よりもさらに穂が長い長々鋒です、という品物なのです。普通の書家でもおいそれと手が出せないような、高価で扱いが難しく極めて貴重な筆だと言えましょう。
 
 竹は割れるので、管の根元に補強のため糸を巻き、黒い溶剤で固めてあります。念のためぬるま湯でシャンプーで洗ってもほとんど墨が出てこないくらいに丁寧に洗っているようです。相当大事に扱われた年代物なのです。細嫩頂光の毛は、金色がかった飴色て艶があり透明感もあります。極細の毛で墨含みいいのです。また、独特の味わいのかすれがある筆致を生み出します。

 今はこうした筆は、ほとんど市販されておりません。欲しければ書道筆の専門老舗の工房に特注となりますが、いくらかかるものやら。ネットでは、これより、大きめの「細嫩頂光筆」が50万円と250万円というのが見つかりました。細頂光筆というのが出てきますが、これは別物(紛らわしいフェイク)なんです。

 そして、もうひとつの大筆には「白雲生處 邑水先生用筆」とありました。杜牧の漢詩「山行」に「白雲生処有人家」との一節があります。邑水先生は、恐らく、昭和に活躍した書の大家「中島邑水(ユウスイ)先生」ではなかろうかと思います。1986年に80歳で亡くなっています。
これが美術館で展示されている作品、「丘」と書かれているようです。前衛的哲学的な書を追求した書道家と聞きました。

 もし、ワタシが手にしているこれらの筆が、邑水先生の所有物だったとしたら、こんな嬉しいことはありません。望外の喜び、銭金には代えられない価値なのであります。高名な書道家が愛用した筆を使えるのですよ!

 ヤフオクで、半紙を落とし損ねたことなど、なんでもありません。この筆を使いこなして、書を書けるようになれば書道を続けた甲斐があろうというものです。ヤフオクありがたや、でありますね。
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