風そよぐ部屋

ウォーキングと映画の無味感想ノート

君の涙 ドナウに流れ

2007年10月26日 | 映画
君の涙 ドナウに流れ 2007/10/23 シネカノン試写会・日本教育会館


素晴らしい映画だ。
ハンガリー映画、クリスティナ・ゴダ監督作品、ハンガリー映画史上最高の動員を記録。2時間。

かつて中央アジアの遊牧民だったと言われるマジャール人は匈奴に追われてハンガリーに移り住んだと言われる。
その後紆余曲折を経たが、ヒトラーの侵略を受け、ソ連によって「解放」された。
しかしその実態は、資本主義からソ連を守る防波堤=属国であった。
1956年東欧特にポーランドで自立の運動が起こり、ハンガリーにも波及した。
この時代、ソ連は無誤謬・無条件擁護・防衛すべき社会主義・労働者の祖国であった。
社会主義革命は資本主義列強の支配の鎖が弱かったロシアの地で起こり成功した。
その当初からロシアには大国主義は確かにあったが、
反帝国主義・民族平等の理念の方がはるかに勝り、
トロツキーをはじめ多くのユダヤ人・少数民族出身者が指導者として活躍した。
だが、ソ連の孤立・ソ連無条件擁護はロシア大スラブ主義と合体して、
スターリン主義の病魔は恐るべきものだった。
少数民族・ユダヤ人は抑圧され、東欧諸国はあたかもロシアの「属国・植民地」のようだった。

10月23日の日付は極めて運命的だ
1956年ハンガリー動乱は10月23日のデモから始まる。
30年後の1989年10月23日、ハンガリーは社会主義を捨てて資本主義社会となった。
その20年後、ハンガリー動乱の費から50年後の2006年10月23日この映画が公開され、
その一年後の今日、10月23日試写会が行われた。

この映画は、マジャール人はその歴史で様々の悲劇を味わうが、
マジャール人としての誇り=アイデンティーは変わることなく受け継がれる、と言う。
それは、冒頭と最後にマジャールの民謡が流れることで黙示される。

戦車や銃も当時のものを探し出すなどディティールにもこだわり、
また、ブタペストの町並もセットでない、と言う。
何よりも私が良いなぁと思ったのは、ソ連兵の暴力を極めて禁欲的に描いていることだ、
残虐なシーンはほとんどない、
また、秘密警察の拷問も映像で見せない、
だが、直接的に描くよりはるかに訴える。

1956年ハンガリーブタペストのこの出来事の歴史的評価はこれまで様々であった。
一方では民主化革命、他方ではファシストの反革命とまさに両極端であった。
日本ではこのハンガリー動乱・革命を歴史的エポックとして、
反共産党・反スターリン主義を掲げる新左翼の一つの流れが生まれた。

この映画の主人公は水球のハンガリー代表のエース・カルチ(イヴァーン・フェニチェー)、と
ハンガリー独立学生連盟の美しい女性・ヴィキ(カタ・ドボー)。
二人は学生集会で偶然出会う、当初ヴィキはカルチを冷たくあしらうが、
10月23日に行われたデモで、秘密警察に仲間が殺されたことをきっかけに心を通わせる。
カルチは秘密警察に「家族が大切ならば、金輪際ソ連の同志に刃向かうな」と脅される。
カルチはオリンピック出場を捨て、運動に身を投じる。
民衆の運動の前にソ連は撤退する。
ヴィキに促されてカルチは再びオリンピックの行われるメルボルンに向かう。
その時ソ連戦車部隊はUターンし、ブタペストでは市街戦が行われ、ソ連軍に鎮圧される。
オリンピックではハンガリー対ソ連の水球の試合が行われ、ハンガリーが優勝する。
この試合でカルチは暴行を受け右目の上を怪我する、ヴィキも同じように右目の上を怪我していた。
カルチはヴィキから預かった母親の形見のロザリオ握りしめて表彰台に登る。
ヴィキは、カルチから預かった腕時計を握りしめて処刑場に向かう。

ハリウッドのC級映画なら、
水球選手の英雄が自分の思想信条に関係なくただ美しい女性のためにソ連軍と戦い、
獅子奮迅の戦いをして、か弱い彼女を戦場から救い出しアメリカに亡命する、
あるいは、運動のヒーローは死ぬが残された美女は彼の子を身ごもって生きていく、
と言う安っぽいストリーだろう。

カルチもヴィキも非凡で英雄ではあるがこの映画ではマジャール人の代表=民衆として描かれている。
カルチは祖父・母・弟の四人家庭で祖父から「人生には反撃することもある」と言われ、
母からは安定した生活を選んでと諭される、
この単純な家族構成の中に民族の抵抗の歴史と今の幸せを壊したくないとの矛盾を象徴させている。
ヴィキの両親は秘密警察に逮捕され、その際身を任せれば両親を助けるたと言われた。
ヴィキは身を任すが、両親は殺された。
この逸話は権力者は常にうそつきだ、ということを暗示する。
また、ヴィキの運命も暗示する。
捕まったヴィキは仲間を売れば許すと言われる。
彼女は、スターリン・フルシチョフ・ラーコシ[ハンガリーの指導者]・フェリおじさん[秘密警察官]と書く。
カルチ・ヴィキの家族の歴史を細々と説明しないのも良い。

この映画について不満が四つ、ある。
カルチとヴィキのベッドシーンは不要だ、
水球選手の会話は下ネタ・女性に関するスラングばかりで一面的過ぎる、
ヴィキが捕まるシーンは自首のようで不可解、投降の方が良かった、
学生達がいずれも若くなく、老けていること。

ソ連はもちろん間違いだが、だからといってアメリカが正しいわけではない。
オサマビンラビン、フセインを支援したのはアメリカだし、
チリのアジェンデ政権を倒したのもアメリカだ、
もちろんインドシナの悲劇もそうだ。
今日のパレスチナ問題の一番の責任はイギリスだし、
中国の自国民主化運動への抑圧やミャンマー軍事政権支援・チベットや少数民族への対応など
大国は今日なお他国・他民族を抑圧し続けている。
かつて抑圧されたイスラエルは今パレスチナ人を抑圧している。

さて以下余談、この映画は、シネカノン主催の試写会で見た。
シネカノンは、有楽町に新たに「シネカノン有楽町2丁目」館をオープンさせ、その記念試写会。
シネカノンは、映画配給の他、映画館を多数経営している。
社長は李鳳宇(リ・ボンウ)さん、在日の人で、パッチギ・フラガールなどを送ってきた。
日韓を新たにつなぐ。メジャーでない佳作映画を多数配給している。

                       


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